86.第三領都に到着!
「今日の朝食も美味しかったですね! チーズがびょーんって伸びて堪りませんでした!」
「私は半熟の卵の加減がもう! あのトロトロが堪らなかったわ。ユイは自分で作ってどうだった?」
「……ソースが良かった」
「あっ! ソース良かったですよね。めちゃくちゃ合ってました!」
「ソースがサンドイッチをまとめていた感じがするわね。あのソースをチョイスしたユイは流石ね!」
快晴の中、私たちは自転車を漕ぎながら朝食の話しで盛り上がっていた。手作りしたサンドイッチは本当に簡単に作った。
焼いた燻製肉の上にチーズを乗せて、その上に半熟の目玉焼きを乗せる。切った野菜と買っておいたソースをかけて、最後にパンで挟む。本当にそれだけだったのに、結構美味しくできた。
「お店では食べれない味してたわよ」
「ですね。お店では食べれないです」
「それってどういう意味?」
「ユイの手作りは特別に美味しいってことよ」
「ですねー」
「……馬鹿じゃないの」
本当に何を言っているんだか。こんなの普通だし、特別美味しいっていう訳でもないのに。なのに、心はちょっと軽くなったような気がする。自分が作った料理を褒められるのはこれが初めてだから、なんか落ち着かない。
二人が喋り、時々私に話が振られる。そんな自転車の旅を続けて行った。とても気持ちいい天気の中、風を切って進む自転車は気持ちが良くて心が晴れやかになる。
サイクリングがこんなに楽しい物だったなんて、前の世界では知らなかったことだ。この世界に来て、色々な常識が変わっていくのがそこそこ楽しい。次の第三領都に行ったら何が待ち受けているのだろう。
◇
「見えてきましたよ。第三領都」
フィリスが指を差した方向に見えた人工の建築物。まだここからじゃ遠くて小さいが、あれは近づくととんでもない大きさになっていることだろう。
「結構大きい場所なのね。遠くても、その大きさが分かるわ」
「北部を代表する領都なので、その規模は王都に匹敵するんです」
「そうなのね。どんな地球文化があるか、今から楽しみだわ」
あんなに大きな町を見ると、ワクワクするのは分かる。大きいからなんでもありそうで、期待が膨らんでいく。私の知らない漫画やラノベがあるといいな。
「じゃあ、第三領都まで競争です!」
「あっ、先に行くなんてズルい! 私だって負けないわよ」
「ふー……仕方ないな」
フィリスが自転車を強く漕ぐと、かなりのスピードが出て先に行ってしまった。それをセシルと私が追いかける。短い競争の始まりだ。
お互いに追い越したり、抜かれたりを繰り返しながら第三領都に近づいていく。そんなことをしていたら、あっという間に門のところに辿り着いてしまった。
「着きましたね! 入領手続きを取りましょう」
「最後にいっぱい漕いだから疲れたわー。早く町の中に入って休みたい」
「入領手続き……あの列か」
門から伸びる複数の列がある。左に人だけの列、中央に馬車などの乗り物がある列だ。その中の左の列に並び、自分の番を待つ。
「流石第三領都ですね。入領手続きに沢山の人がいます」
「出入りが多そうね。昼食時には入れるかしら」
「このまま行けば三十分くらいじゃない?」
大人しく列に並び自分の番を待つ。ダラダラと前に進んでいると、空いている右側の道を進んでいく大きな荷台を引いた車があった。その車はあろうことか中央に並んでいる馬車の先頭に横入りした。
「うわ、なんですかあの車。思いっきり横入りしましたよ」
「どこかの大きな商会なのかしらね」
「この世界にも車はあるんだ」
横入りした車のせいでその場は騒然となった。すると、横入りした車の中から人が降りてきて、門番の人や後ろの馬車の人に何かを見せている。
「我らはリトンモーグ公爵家ご用達の商会イグニスだ。お前らの木っ端の商会とか違い、選ばれた商会だ。先に道を開けろ!」
どうやら、その商会はここの領地を治めるリトンモーグ公爵家お抱えの商会らしい。まるで自分たちが偉いかのように振る舞い、強引に門の中に入ろうとしている。
「毎日強引に入られては困ります。ちゃんと並んでください」
「うるさい! 旦那様が車に乗っておられる。早く道を開けないと、リトンモーグ公爵様に言いつけるぞ! お前たちの首なんか、簡単に飛んでしまうぞ!」
門番と使用人の問答が騒々しく辺りに響く。それを聞いていた人たちは顔を顰めて、遠巻きに観察している。私たちも巻き込まれないようにと、遠巻きに成り行きを見ていた。
すると、門番の人が渋々道を開けた。それを見ていた使用人はしてやったりと笑い、車の中に戻っていった。そして、車は大きな荷台を引いたまま猛スピードで門を潜っていく。
「強引に先に行ってしまいましたね。あんまり気分の良いものじゃないです」
「そうね。権力を使って、自分の思い通りに事を進める人はどこにでもいるものだわ」
「いつか痛い目に合えばいい」
嫌な場面を見て、私たちは渋い顔になった。あーいう人がいるのは知っているが、目の前にすると気分は良くない。折角、第三領都に来た喜びが薄れていくようだ。
「こんな嫌な気分は美味しい昼食を食べて忘れましょう。えーっと、何があるか調べるわね」
「大きな町ですから、色んな物がありそうですね」
「パン以外が食べたい」
気を取り直してセシルがスマホを片手に検索し始めた。私たちが横でそれを見守っていると、列はどんどん先に進んでいく。
「よし、決めたわ。ここでどうかしら?」
画面を見せてくると、そこには美味しそうな魚料理が並んでいた。それに私の希望が通って、パンが主食じゃない。主食は……パイ? へー、いいね。
「魚料理、いいですね。そこにしましょう」
「じゃあ、ここで決定ね。あっ、そろそろ私たちの番よ」
「ようやくか」
昼食の話をしていると、私たちの番が回ってきた。簡単な質問に答えると、すんなりと中に通してくれた。ようやく、第三領都だ。ここには何があるんだろうか?
◇
「宿屋に行く前に、ちょっと寄っていってもいいですか?」
お店から出ると、フィリスがそんなことを言った。
「どこに寄るの?」
「リトンモーグ公爵家です」
「……領主の所に?」
「はい。私の家は北部にありますから、自然とリトンモーグ公爵家の傘下に入っています。その領都に来たんですから、素通りすることはマナーがなっていないのです。だから、来たことを伝えて余裕があれば顔合わせをします」
格上の貴族の領都に来たんだから、格下としては形式として挨拶をしなければいけないのか。貴族は面倒くさいな。
「じゃあ、フィリスはリトンモーグ公爵と面会するの?」
「するかもしれませんし、しないかもしれません。とにかく一度連絡を取ってみて、後は相手の出方次第でしょうか。手紙を書いてきたので、それを門番に渡すだけで終了です」
「なら、リトンモーグ公爵家まで行きましょう」
その後、公爵家の豪邸に行き、門番に手紙を渡して終了した。フィリスは仕事をやり切った顔つきをして、これで終わりだと思っていた。だが、話はこれで終わらなかった。
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