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ゾンビがいる終末世界を生き抜いた最強少女には異世界はぬるすぎる  作者: 鳥助


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78.リリアンへの捜査

 死んで棺桶の中に入れられたのはイアンではなく、別の誰かの遺体。他の棺桶に入っていた遺体を移動させたのか、それとも自分で他人を殺して入れたのかは分からない。


 分かっている事実と言えば、イアンの遺体が棺桶にないことだ。翌日、冒険者ギルドに集まった私たちは改めて話をする。


「昨日は驚きましたね。まさか、棺桶に入っているのがイアンさんではない他人だったなんて」

「いつ替えたのかも問題よ。棺桶を埋める前なのか、埋めた後なのか」

「あの棺桶を開けた形跡はなかった。だから、棺桶を埋める前から中身がイアンじゃなかった可能性がある」

「これでリリアンが死んだ恋人を傍に置いてある可能性が高くなったってことか」


 棺桶を埋める前から中身が違っていたら、かなり前から計画的に動いていたことになる。まるでイアンが死ぬことが分かっていたような素早さだ。


「本当にリリアンが犯人なのかは分からない。可能性があるっていうだけだ」

「だとしたら、誰かイアンの遺体を持っているっていうの? 家族が故人をそんな扱いにする?」

「でも、恋人でもそんなことはしませんよ」

「普通の神経をしていたら、誰もそんなことはしない。だけど、そういう人はいる」


 リリアンへの疑いは深まるが、確証はできない。恋人と離れたくなくて、傍にイアンの遺体を置いている可能性があるっていうだけだ。可能性だけで動くのは危険だが、死臭という証拠はある。


「ちょっと、リリアンの周りを調べてみるか?」

「そうですね。まだ疑惑の段階ですが、はっきりさせるために調べるのがいいでしょう」

「じゃあ、今日は町の中で活動ね。とことん、調べるわ!」

「本人にバレないようにね」


 リリアンの疑惑を確かなものにするため、周辺を調べることにした。


 ◇


「ほ、本当に行くんですか?」

「まさか、そんな……」

「この方が早い」


 私たちは今、トリリアン雑貨屋の前にいる。周辺の聞き込みをクガーたちに任せ、私たちは本丸を調べることにした。二人は戸惑っているみたいだけど、そんな様子が感づかれる。


「落ち着いて。中に入って、様子を窺うだけだから」

「そ、そうですが……。直接乗り込むのってドキドキしますね」

「緊張と好奇心で心臓がどうにかなりそうだわ」

「じゃあ、行くよ」


 私たちは扉を開けて中に入った。中に入ると店の中は棚が沢山あって、そこには様々な雑貨が並べられていた。日用できるものから、飾る用のオブジェまで様々だ。


 そして、店の中は沢山の人で賑わっていた。だけど心なしか、男性客の方が多く感じる。きっと、リリアン目当てのお客が沢山いるのだろう。


 人にぶつからないようにお店の中に入ると、気づいたことがあった。


「……これは香水の匂いですか?」

「香水の匂いがするお店なんて、高級店でしかあったことないわ」


 店に充満する香しい香水の匂い。この匂い、あの時のお店で嗅いだ匂いと同じだ。じゃあ、死臭を隠すために香水を付けていたんじゃなくて、通常の空間の匂いが体についていたのか?


「こんな庶民のお店でこんな香水の匂いがするのは変よ。きっと何かあるに違いないわ」

「貴族のお店では香水の匂いがする所は沢山ありますが、庶民のお店だと中々ないですよね」

「じゃあ、聞いてみようか」


 二人は庶民のお店でこんな香水の匂いがするのはおかしいと言った。なら、調べるしかない。私は近くにいた女性客に話しかける。


「すいません。このお店ってずっとこんな香水の匂いがしているんですか?」

「えっ? うーん、前までは香水の匂いはしなかったわ。ほら、あんな事があったでしょ? その後から、香水を使ったらしいのよ。なんでも、気分転換になるからって言って」

「そうなんですね。ありがとうございます」


 女性客から離れると、私たちは小さな声で会話をする。


「あんなことって、多分イアンさんが亡くなったことですよね。それから香水を使うようになったっていう話しですから……もしかして」

「えぇ。イアンの遺体がここにあって、異臭がしてきたから香水を使ったっていう可能性が出てきたわ」


 異臭を隠すために香水を使っている線が濃くなった。でも、そこまで考えると一つの疑問が浮かんでくる。一緒に住んでいる家族は異臭に気づいていないのか、だ。


 店頭を見てみると、リリアンが男性客と話をしている。だけど、そこに親の姿がない。確か、親と一緒に経営をしているって言っていたから、てっきり親も店頭に出てきていると思っていた。


 娘にだけ働かせて、親が家の中にいる? こんなに混んでいるのに、姿を見せないなんてなんだか怪しい。ちょっと、聞いてみるか……。


「あの……リリアンの両親は店頭には出てこないんですか?」

「ん? そういえば、最近見てないよなぁ。前までは仲良く一緒に店頭に出ていたと記憶しているが……」


 近くにいた男性客に話を聞くと、最近親は店頭に出てきていないことを知れた。その男性客から離れて、私たちは小声で話す。


「親がお店に出てこなくなったって、おかしいですよね。こんなに忙しいのに、娘にだけ仕事をさせるのはおかしいです」

「何かがあってお店に出られなくなったとか? でも、一体何が……」

「出れない理由……死臭の原因になっているとか」

「いやいや、まさか! そんなことはないでしょう」

「もしかしたら、イアンの遺体があってそれを親子で隠しているとか?」


 親が店頭に出なくなった理由が分からない。他の客も不思議そうにしているから、きっと事前の説明も無しに突然出なくなったのだろう。そんなこと、普通なら起こらない。


「そういえば、ずっと話ししてますね……リリアンさん」

「何を話しているのか気になるわね。ちょっと、近づいて聞いてみましょうよ」

「えっ、盗み聞きですか?」

「いいんじゃない。バレないようにやれば」


 お店に入ってからしばらく経つが、リリアンはずっと一人の男性客と話しているみたいだ。男性客がリリアンを落とそうとしているのか、それともリリアンが引き留めているのか……。


 気になった私たちは店頭の方に近寄って行き、聞き耳を立てた。


「リリアンが元気になって良かったよ。でも、まだちょっと疲れているみたいだな。顔に出ているぜ」

「そうですか? ふふっ、隠せないですね」

「俺の前では隠さなくてもいいよ。少し俺を頼ってみないか? リリアンを少しでも元気にさせたいんだ」

「頼る……そうですね、私には頼る人が必要なのかもしれません」

「俺で良ければどんな話しでも聞くぜ」


 聞き耳を立てていると、どうやら男性客がリリアンを口説いているように聞こえた。お店に入った時からずっと話していたから、その間口説いていたのかと思うと随分と独りよがりだ。


 だけど、そんな男性客を目の前にしてもリリアンは嫌な顔をしない。それどころか、気があるような目配せをしている。


「そうですね。ちょっと頼っちゃいましょうか」

「おっ、そ、そうか?」

「だったら、今日の仕事が終わったらここに来てくれますか? 聞いて欲しい話があるんです」

「も、もちろんだ! 仕事が終わったらだな! 絶対来るから、待っていてくれるか?」

「はい、お待ちしてますね」

「よっしゃっ」


 リリアンが男性客の誘いに乗ると、男性客は戸惑いながらも嬉しそうにしていた。それから一言二言話すと、男性客は意気揚々と店を出て行った。


「どうやら、口説き口説かれの話しだったみたいですね。恋人が亡くなってからそんなに時間が経っていないのに、遠慮なしに口説くんですね」

「なんか生々しくて嫌だわ。リリアンはもう恋人の事を思ってないのかしら」

「そうだとしたら、死んだ恋人の遺体を囲うこともないだろう。話はこれで終わりになる」


 先ほどのリリアンをそのままの意味で受け取るんなら、リリアンはもう死んだ恋人の事は何も思っていないことになる。そうなると、遺体を囲っている仮説は外れていることになるだろう。


 もし、店の奥から死臭がすれば仮説があっている可能性を高められる。店頭の隣を見てみると、扉があった。そこには「この先自宅に付き、関係者以外立ち入り禁止」と書いてある。……ちょっと傍に寄ってみるか。


 リリアンがまた他のお客に気を取られている内に、自宅に続く扉に近づいた。何だか分からないけれど、嫌な感じがする。どんどん近づいていき、その扉の取っ手に手をかけて少し開く。


「お客さん!」


 その時、大声が聞こえた。ドタドタと走る音がすると、開いた扉を力いっぱい閉められた。


「この先は自宅ですよ! 中に入っちゃいけません!」


 振り向くと、先ほどの穏やかな表情から一変して怒りの形相に変わったリリアンがいた。


「ごめん、トイレかと思って」

「ここに書いてありますよ! ちゃんと、見てください!」

「そう、分かった」


 リリアンは周りのことを気にせずに、私を怒鳴った。みんなが注目する中、私はそれだけを言うとその場を離れてお店の玄関に向かう。そして、お店の外に出ると残りの二人も追ってきた。


「大胆なことをするわね」

「まさか、開けるとは思いませんでした」


 二人とも私が扉を開けたことに驚いていた。だけど、そのお陰で分かったことがある。


「扉を開けたら、中から死臭がしてきた。どうやら、自宅には何かあるらしい」


 少しだけ空いた扉の向こうから匂ってきた、死臭。あの奥には何かがある。

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リリアン!クロか!!
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