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5.神官養成学校

 異世界転移をして、私の状況は目まぐるしく変わった。地球人保護協会に保護され、国の機関に調査され、国の利益にならない地球人としての烙印を押された。


 私は国に見放された地球人ということになった。だが、完全には見放されなかった。今後の面倒を地球人保護協会が担っていくという話になる。それに頼らなければ生きていく術を得られないなんて……最悪だ。


 だが、この世界で生きていくためにはお金を稼がなくてはいけない。地球人保護協会もずっとは面倒を見てくれない。だから、私はこの異世界で地に足を付けて生きていかなければいけなくなった。


 荒廃した終末世界でゾンビが徘徊する世界で生きてきた私が……今更普通の生活を? そんなの無理に決まっている。私は終末世界に染まっていて、そういう生き方しか知らない。ゾンビがいなかった時代の生き方なんて……忘れてしまった。


 しかし、そんな私でもやれることがあるみたいだ。この世界にもゾンビに似た魔物がいる、それがアンデッドだ。漫画やラノベで読んだからなんとなく分かる、死者が動いている存在だ。


 どうやら、アンデッドは神官の力を行使しないと倒せないみたい。どんな原理かは分からないが。ゾンビと戦うことしかできない、と言った私に適した職業だとウィリーは思ったようだ。


 地球人保護協会としても、異世界転移をした地球人を自立をさせることが目的のため、私に合いそうな職業が見つかるとウィリーは即行動をした。なんでも、神官を育てる学校があるらしい。


 神官養成学校。前に聞いた勇者養成学校と呼び名が似ている。どうやら、そういう学校に人を集めて、人を戦えるように教育しているみたいだ。


 だから、神官に合うと思ったウィリーは私を神官養成学校に入れる手続きをした。一応、私にも意思の確認はあった。正直、私には何をしていいのか分からない。だけど、神様に近い職業と聞いて嫌な気はしなかった。


 私が拒否しなかったことを良いことに、神官養成学校に入ることで話が進んでいく。そして、数日後……私は神官養成学校までやってきた。


 ◇


「ここが神官養成学校の施設になりますね」


 ウィリーに連れられてやってきた。その建物は縦に長く、いつの日かに読んだ教会にそっくりな建物。神官に相応しい場所なのは分かった。


 その建物の中に入ってみると、すぐに大きなホールがあり、そこに大勢の人が集まっていた。どうやら、この人たちは私と同じでここに通う生徒と付添人のようだ。


 こんなに人がいるなんて、落ち着かない。それにホームのことを思い出すから、嫌な感じだ。しばらくはこの中で共同生活をしないといけないのか……気が滅入る。


「ユイさん、いいですか。決して暴力を奮ってはいけませんよ。釘バットの所持を認めましたが、人に対しては決して使わないでくださいね。持っているだけ、いいですね。それと、みなさんと仲良くやること……笑顔が大切ですよ」


 待っている最中、うっとうしいほどにウィリーが注意をしてくる。私を好き勝手に暴力を振るう乱暴者に見えるのか? 襲ってくる奴には容赦はしないが、襲ってこないなら何もしないというのに……。


 隣でくどくどと注意をするウィリーの話を聞き流し、時間が過ぎるのを待った。すると、ホールの扉が開き、そこから法衣を纏った大人たちがやってくる。


「お集まりの皆様、お待たせしました。私がここの責任者のシュリムと申します。この度は我が神官養成学校に通うことを決めてくださって、大変嬉しく思います。同志たちよ、私はあなたたちを歓迎します」


 四十代のおっさんが責任者か……まぁ、それくらいが妥当だろう。


「では、後は我々が引き受けますので付き添った方々はおかえりになられてもよろしいです」


 シュリムがそういうと、他の付添人は当事者たちに声をかけて順々に建物を去って行く。


「ユイさん、くれぐれもみなさんと仲良くしてくださいね。そんなむすっとした表情では、お友達はできませんよ。笑顔、笑顔が大切です。終わったら必ず迎えに来ますので、勝手にどこかに行かないでくださいね」

「……早く行って」

「まだ話したいことがあるのに……仕方ないですね。いいですか、勝手にどこかに行ったらダメですよ。まだ保護をしている状態なんですからね」


 ウィリーが思った以上に口うるさい。適当にあしらうと、ウィリーは後ろ髪を引かれながらも建物から出ていった。残されたのは神官養成学校に通う生徒だけだ。


「これから皆さんに部屋を割り当てます。その部屋に行き、用意された神官見習い服を着た後はまたここに戻ってきてください」


 シュリムがそういうと隣にいた大人が何かを配り始めた。私のところにも来て名前を聞かれて、伝える。それから紙を受け取ると、そこには番号が書かれていた。六番……部屋の番号か何かか?


 すると紙を配っていた人が誘導を始めて、みんながそちらの方に流れていく。私も遅れないように後をついていくと、廊下に辿り着いた。その廊下にはいくつもの部屋があり、扉には番号が書かれてある。


 この部屋に入ればいいのか。私は自分の部屋の番号を見つけると、中へと入っていく。部屋の中に入ると、ベッドが両脇に一つずつ、その中央にはタンスが置かれてあった。


 まさか、この部屋……二人部屋? 一人で寝れないなんて最悪だ……誰かと一緒に寝るなんてホーム以来だ。誰かと一緒に寝るなんて、いい思い出がない。唯一の救いはベッドが離れていることか。


「あの……あなたも六番の部屋?」


 その時、後ろから声が聞こえた。後ろを振り向くと、緑髪の少女いた。


「そうだけど……あんたも六番の部屋?」

「うん、そうなの。同室だね、これからよろしく。私の名前はリット。あなたの名前は?」

「……ユイ」

「そう、ユイっていうのね。可愛い名前だね」

「……そう」


 初めから話しかけてくる、面倒くさい。私がさっさと部屋に入ると、リットも部屋の中に入ってくる。


「あなたの方が年下よね。背、小さいし」


 なんだ? 年齢でマウントを取りにきているのか? しかも、背が小さいのは余計だ。


「私、十四歳だけど……あなたは何歳?」

「……十二」

「十二歳にしては背が小さくて可愛いね! ふふ、妹ができたみたいで嬉しい」


 やっぱり、マウントを取りに来ている。年上だが、背が高いだが知らないが……不愉快だ。


「このままお喋りしたいけど、服に着替えて早くいかないとね。私のベッドは……こっちね」


 リットは早々に自分のベッドを見つけると、神官見習い服に手をかけた。私も自分のベッドに向かうと、そこには名札と神官見習い服が置いてあった。


 白色の神官見習い服を広げると、膝くらいまでの衣とズボンがあった。着ている服を脱ぎ、ズボンを履いて衣を纏う。服がダボダボしすぎて落ち着かない。


「えへへ、これで私も神官見習いよ。目標の聖女と言われるまでは遠いけど、私……頑張るわ!」


 ふーん、神官の上には聖女っていうのがあるのか。勇者に聖女か……本当にここは異世界なんだと思わせてくれる。漫画やラノベの世界と一緒……じゃあ、これから漫画やラノベみたいなことが起こるっていうこと?


 さっきのマウントといい、良い予感がしない。久しぶりにホームに似た場所での生活……人が沢山いるから何が起こるか分からない。まぁ、いい。手を出してきたら、こっちも手を出すだけだ。覚悟を決めよう。

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