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ゾンビがいる終末世界を生き抜いた最強少女には異世界はぬるすぎる  作者: 鳥助


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43.卓球(2)

 フィリスのサーブで始まった。普通のラリーをしていくと、フィリスからの打球がだんだんと速く重くなってくる。このままジリ貧になる。だから、そうなる前に仕掛ける。


 フィリスの強い理由はフォアハンドが上手だからだ。ラリーもスマッシュもフォアハンドで打って、それで得点をしている。でも、バックハンドで受けた所を見たことがない。


 だから、バックハンドになるように打球を打ち返す! ボールはラケットがある方向とは反対側に飛び、フィリスは慌ててそれに対応する。ラケットにボールが当たったが、角度が微妙だったのかボールが浮いて戻ってくる。


「ここっ!」


 大振りになって、フィリスが持つラケットの反対側に向かってスマッシュを打った。鋭い打球が飛び、フィリスは球を零さないようにラケットを手前に引っ張る。


 なんとかボールはラケットに当たったが、角度が悪くてボールはあらぬ方向に飛んでしまう。


「はい、一対一だよー」

「あー、取られましたー。今度は取られませんよ」


 フィリスがガックリと肩を落としたが、すぐに気を取り直した。この様子なら、私がわざと打球をラケットがある反対方向に打球したとは気づいてないようだ。これなら、勝てる。


 ボールを手に持って、サーブを打つ。フィリスがフォアハンドで打球して返してくる。しばらくラリーを続けていき、ここだ! というところで、ラケットがある方向とは逆の方に打球を打ち返した。


「くっ!」


 慌ててラケットを引っ込ませて打球に反応するフィリス。咄嗟のことで上手くラケットを調整できずにボールは浮いてこっちのコートに落ちてきた。


 だから、同じように打つ! 強打したボールは真っすぐにラケットとは反対側に飛んでいった。フォアハンドしかできないフィリスはその打球を打ち返すことができなかった。


「はい、二対一だよ」

「さっきと同じコースですね。ユイさん、わざと取り辛いところにボールを打ってきたんですか!?」

「そりゃそうでしょ。だって、フィリスはそっち側は対応できないみたいだから」

「ちょっとタイムです! 教本読んできます!」


 自分の弱点に気づいたフィリスは試合中にも関わらず台を離れてしまう。そして、脇に置いてあった教本を読み始めた。付け焼刃の知識でどうにかできるとでも? ……いや、どうにかしてたか。


 しばらく待っていると、本を閉じてフィリスが戻ってきた。その顔は自信に満ち溢れている。


「対策はバッチリです。さぁ、どこからでも来てください」

「……ふーん」


 ラケットを持って構えるフィリス。そこにサーブを打ち込んだ。最初は難なくボールを拾っていき、フォアハンドでのラリーが続く。同じように段々と速くなる打球。また同じようにラケットがある方向とは逆に打球する。


「そうはさせませんっ!」


 すると、フィリスは打球の正面に瞬時に移動して、バックハンドで返球してきた。付け焼刃の知識、侮れない。もう一度、同じ所へ打球するとまたバックハンドで返してきた。


「ふっふっふっ、対策はバッチリです! さぁ、どこからでもかかって来てください!」


 ……ふーん。じゃあ、こんなボールはどうかな?


 台から少し距離を取る。ボールが返ってくると、ラケットを下にしてラバーで擦って返球した。バックハンドになるように返球すると、フィリスは同じようにラケットを打とうとした。


 だが、台に当たったボールは低く飛び、いつもと同じ高さではなくなった。


「あっ!」


 とっさにラケットを前に出すが、打ち所が悪かった。ボールはラケットに当たったが、飛んでいったボールはネットに引っかかってしまう。


「はい、三対一でユイの勝ちー!」

「そ、そんなー! 今のは変なボールでした! またユイさん、細工をしましたね。ラケットの動かし方も違いました!」

「対策取られたんだから、対策するしかない」

「くぅ~! 折角上手くいくと思ったのにぃっ!」


 フィリスは悔しそうに台を叩いた。慣れていないカットボールだったけど、上手く決まったみたいで良かった。今日やり始めたんだから、こんな程度でしょ。


「じゃあ、次は私の番ね」


 フィリスと場所を交代したセシル。不敵な笑みを浮かべて台の前に立った。台とは距離を取っていて、独特のスタイル。それを私は知っている。というか、漫画で見たことがある。


「セシル……それはまさか」

「ふっふっふっ、ユイは気づいたのね。そう……これはカットマンスタイル!」


 カットマン、守りの戦術を駆使して戦う人。ボールに強い下回転をかけて、相手のミスを誘うことでポイントを取る戦術だ。付け焼刃の知識でそれを知っているなんて、おかしすぎる……。


「卓球の漫画、読んでいるのよ」

「……卓球漫画がこの世界にも?」


 何それ、読みたい。というか、この世界にも漫画はあるのか。今度本屋を探して、漫画を買い漁ろう。漫画があるなら小説もある……町を歩き回って本屋を見つけなければ。


「さぁ、ユイは私をどう攻略する気なのかしら?」

「……攻略手段がないとでも?」

「じゃあ、サーブはユイからですね」


 ボールが私に渡される。構えてセシルを見ると、まだ不敵な笑みを浮かべている。漫画の知識でカットマンがなんたるかは分かっているようだ。だけど、重要なのはそこじゃない。実際に正しくボールを打ち返せるかだ。


 サーブを打つ。ボールが頂点を超えたところで、セシルがボールの下からラケットの表面で撫でるように切る。すると、下回転をしたボールが低く飛んでくる。


 台に当たったボールは高く上がることはなく、低く飛んできた。その下回転に抵抗するように回転をかけて返球する。うん、セシルのボールは思っている以上に甘いボールだった。


 ボールは難なくセシルのコートに入っていく。そのボールをセシルが同じ態勢で打ち返してきた。態勢だけカットマンだが、ボールの回転が甘い。だから、ミスをしようがない。


 なので、カットマンの弱点……左右前後に揺さぶるようにボールを返球する。


「あれ? あっ、あっ……」


 セシルが揺さぶられて、ボールに追いつくのがやっとになってきた。そこで甘いボールが返ってくる。すかさずスマッシュを打った。揺さぶられたセシルはそのボールを拾う事ができない。


「はい、一対零です」

「そんな……私の防御陣形が崩されるなんてっ」

「……陣形なんてしてない」

「まだまだよ! 勝負はこれから!」


 やる気満々の目でこちらを見てくる。だけど、これでセシルが良く分かった。カットマンと態勢は同じだけど、そのボールがとても甘い。これなら、揺さぶるだけで勝てる。


 またサーブを打つと、セシルがカットして打ち返してくる。だけど、甘い回転だから難なく打ち返すことができる。打ちにくい体の中心を狙うと、セシルは苦しそうな顔をしてなんとか返球してくる。


 そこからは一方的だ。左右前後に揺さぶったり、打ちにくい体の中心を狙っていく。それを続けていくとセシルの態勢が崩れて、浮いたボールがこちらに返ってくる。それをスマッシュすると、気持ちよく相手の台に当たって、ラケットから逃げた。


「二対零ですー」

「えーん、どうして上手くいかないのー!」

「素人だっていうこと」

「むぅ、素人でもできそうな気がしたんだもん。もういい! 今度は普通にする!」


 どうやら、もうカットマンは止めたらしい。そういうことなら、普通にやらせてもらうかな。


 サーブを決めると、セシルがフォアハンドで返してくる。しばらくお互いにフォアハンドでラリーを続けていく。だから、先に仕掛ける。ボールをラケットが向いている方向とは逆に打球した。


「ちょっ!」


 いきなりボールが変わったことでセシルは慌ててバックハンドにしようとした。だけど、セシルもバックハンドが苦手なのかラケットに当たったボールは高く打ち上がった。


 そこをラケットで強烈に相手のコートに叩きつける。


「ひぃっ!」


 これもなんとか拾った。だけど、ボールはまた高く上がりチャンスが舞い込んでくる。


「決める!」


 そのボールにラケットを叩きつけた。しかも、打ちにくい体の中心を狙って。セシルはバックハンドの形を取ろうとした。ボールはラケットに当たったが、ボールはあらぬ方向に飛んでいってしまった。


「三対零でユイさんの勝ちですー」

「そ、そんなー! 一点も取れないなんてー!」

「まぁ、こんなもんでしょ」

「ふっふっふっ、セシルさんも残念でしたねー」

「ちょっと、なんでフィリスが嬉しそうなのよ」

「同じ負け仲間ができて嬉しいんですー」

「そんな仲間は嫌ー!」


 フィリスとセシルがじゃれ合っている。二人とも初心者なのに、それなりにボールを打つことができていたな。まぁ、お陰で少しは楽しめたかな。


「で、これで終わりでしょ? 満足した?」

「いいえ、まだ満足してません! 負けっぱなしは嫌です!」

「私も負けっぱなしは嫌よ! 絶対にユイに一点は取って見せるんだから」

「はぁ……まだやるの?」

「そのつもりです! 諦めなければ負けたことになりませんしね!」

「そうよ、フィリス良いこと言ったわ! 諦めなければ負けじゃない!」


 二人のやる気が凄まじい。こんなことなら、わざと負けた方が良かったんじゃないか?


「次は……ユイ対フィリスと私よ!」

「いいですね、それ!」

「一対二なんて卑怯だ!」

「どんな手段を使ってでもユイに勝ちたい……その思いがそうさせたのよ!」

「素敵な思いです!」

「どこが素敵なんだ!」


 まさか、二人を一度に対戦することになるとは……。まぁ、いい。初心者が二人いても勝てないことを教えてやらないとな。


「フィリス、協力してユイを倒すわよ!」

「ユイさんを倒しましょう!」

「はぁ……手加減はしないよ」

「そうじゃなきゃつまらないわ!」

「全力でやりましょう、全力で!」


 二人には分からせないといけないみたいだ。この勝負も……私が勝つ!

お読みいただきありがとうございます!

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