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ゾンビがいる終末世界を生き抜いた最強少女には異世界はぬるすぎる  作者: 鳥助


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26/99

26.醤油ラーメン

 ラーメン。それは私にとって日常の食事だった。元の世界で一番食べた食事と言ったらカップラーメン。お湯を作って注いで待てばすぐに食べられる品物。それに保存が効くから、世界の文明が崩壊した後でも食べられる数少ない食べ物だった。


 前の世界の食事と言えば、カップラーメンとサプリメントだった。どちらも保存が効いて、多少消費期限が切れていても食べれる貴重なものだ。今の私の体はカップラーメンとサプリメントで作られたと言ってもいいだろう。


 お腹を満たすためにカップラーメンを食べ。野菜が食べられない代わりにサプリメントを飲んで。肉や魚が食べられないからプロテインを飲む。それが、日常の食事だった。


 食べ飽きたとは言ってはいられない食事。ただ減ったからその分を満たすだけの行為、食事は自分にとってその程度の物だった。


 だけど、異世界に来て久しぶりに人の手で作られた美味しい料理を食べた。今までただ満たすだけの行為だったものが、美味しいという感情のせいで別物に変わってしまった。


 食事は美味しいを楽しむ行為。ゾンビが蔓延る前の世界で当たり前のように感じていたものが、私にも蘇った。だから、前の世界で日常の腹を満たすだけだったラーメンが、この異世界でどんな感想を抱くのか気になった。


 ◇


「ラーメンってどんな料理なんですか? 私、あまり地球食を食べたことがなくて分からないんです」

「ラーメンはね、色んな物を煮込んで出汁を取ったスープに小麦粉で作られた麺が入っている料理だよ。麺料理って言われるものでね、その中でもオススメが日本式のラーメンっていう食べ物だよ!」

「スープの中に入った麺なんですね。どんな味か、とても楽しみです!」


 セシルはテンション高めにラーメンを紹介すると、フィリスは興味が惹かれたように笑顔になった。絡まれないように話に入らなかったのに、セシルがこちらを向く。


「ねぇ! ユイはラーメン食べたことあるんでしょ? やっぱり、現地のラーメンはとびっきり美味しいんだろうね!」

「……私はカップラーメンくらいしか食べたことがない」

「えっ!? カップラーメンって地球で流行った食べ方だよね! まだ、この世界では開発途中でどこにもないんだよねー」

「カップラーメンって違う物なんですか?」

「それがね、カップラーメンっていうのは!」


 フィリスが不思議そうにしていると、セシルが鼻息荒くして説明を始めた。この世界にないものを知っているのは、かなりのオタクだ。この世界にはどれくらい、地球の知識が流れてきているんだろうか?


 セシルが楽し気にカップラーメンを語っていると、それが突然止まった。


「あ、お店についたね!」


 歩いていた先に暖簾がかかっている扉が見えた。暖簾にはお店の名前が書いていて、扉の前に置いた看板には醤油ラーメン専門店と書いてある。


 私たちは暖簾をくぐり、扉を開けて中に入った。


「いらっしゃい! 好きな席に座ってくれ!」


 すると、元気のいい声がすぐに聞こえてきた。店主はカウンターに囲まれた中にいて、カウンターの他にもテーブル席がある。お店の席は半分埋まっていて、座れる席はカウンターしかないみたいだ。


「じゃあ、カウンターに座ろうか」


 セシルがカウンターに座ると、私たちも席に座る。すると、すぐに店主が話しかけてきた。


「ウチは醤油ラーメンしかないけど、それでいいか? トッピングとかつけられるけど、どうする?」

「ここはオーソドックスなラーメンを食べて欲しいから、普通の醤油ラーメンにしてもらってもいい? ちなみに、何が乗っているの?」

「ウチの醤油ラーメンにはメンマ、チャーシュー、味玉が乗っているぞ!」

「うん、問題ないわ。その普通の醤油ラーメンを三つね」

「はいよ!」


 店主は威勢のいい返事をすると、鍋に向かっていった。


「ここは私のオススメを食べて。絶対に損はさせないから!」

「麺以外にも具が乗っているものなんですね。どんな料理か楽しみです!」

「楽しみにしてて! でも、ユイがお店のラーメンを食べたことがないなんて驚いたわ。地球の日本には沢山ラーメン屋があるって聞いてたから」

「……私には分からない」


 私が適当な事を言うと、セシルが不思議そうな顔をした。


「んん? 何か事情があったってこと? うわー、私の知らない地球がどんな感じか気になるー! ねぇねぇ、ユイがいた地球ってどんな感じだったの?」

「……話すのが面倒」

「わー、焦らすなー! フィリスも気になるでしょ? ね、ね?」

「私も地球の存在は知ってますが、詳しくは知らないので知りたいですね。それにこれは友情を深めるチャンスです! さぁ、ユイさん! 話してください!」


 二人から詰め寄られて、とても面倒だ。私が適当にあしらっても、二人は詰め寄ってくる。いくら冷たくしようとも二人は全く意に介さない。


 いずれパーティーを解散するつもりだから、仲良くする気なんてない。このまま適当にあしらって、その時まで我慢するしかない。


「へい、お待ち! 醤油ラーメン、三つだ!」


 その時、店主がどんぶりを私たちの前に置いた。その瞬間、醤油と出汁が合わさった香ばしい匂いが漂ってきた。それはいつも嗅いでいたカップラーメンの匂いよりも美味しそうな匂いだ。


「きたきた! 早く食べないと麺が伸びちゃうから、お喋りはあまりしないほうがいいよ。そうだ、フィリスは箸で食べる? それともフォーク?」

「箸は使ったことがないので、私はフォークで食べますね。お二人は箸なんですね」

「うん。地球食の中でも日本食が好きだから、箸を使えるようになったんだ。日本食を食べるには箸が一番!」


 それぞれが使う食器とレンゲを取ると、早速食べ始める。


 見下ろしたラーメンのスープは濃い茶色をしているのに、透き通っていた。スープの中に沈んだ麺の一本一本が良く見えるぐらいだ。その上にはチャーシュー、メンマ、黄身が半熟な味玉が乗っている。


 これが生のラーメン……カップラーメンとは大違いだ。具が大きくて瑞々しいのが見ていても分かる。私はレンゲでスープをすくい、一口口に含んだ。


「っ!」


 醤油と出汁が合わさったキレのある旨味が舌の上に乗った。ごくりと呑み込めば、あっさりとした風味の中にコクを確かに感じる。粉末のスープとは違う生のスープに一口で惹き付けられた。


 美味しい。カップラーメンでは出せない、透き通った旨味を感じた。これが、生のスープ……お店で作るラーメンなのか?


 出汁は色んなものを感じる。深みのある鶏の風味を感じるかと思ったら、まろやかな本鰹の香りを感じた。だけど、その中に野菜の甘味も確かにあって、複雑な旨味を醸し出している。こんなに素材を感じるのは初めてだ。


「あ、スープが美味しいですね! この味は今まで飲んだことないです!」

「それが醤油の美味しさだよね。でも、本当の美味しさはこれからだよ。麺を食べてみてよ」


 いつもはお湯で戻した麺だったけど、生の麺はどんな感触がするのだろう。箸で麺をすくってすする。そして、噛んだ瞬間小麦の風味が口に広がった。


 カップラーメンの麺と全然違う! 生の麺は小麦の風味を感じることができるし、何よりコシが違う。しなやかなコシは口に入れて噛むだけで心地よくなるのはなぜなんだ。食べているのに気持ちいい……。


「この麺、とても美味しいですね! こんな感じの麺は初めてです!」

「気に入った? ほら、どんどん食べて!」


 フィリスが口元を抑えて、食べた麺に感激している。その様子を見ていたセシルは嬉しそうに笑った。そして、勧められるとフィリスは夢中で麺をすすっていく。


 生のラーメンがこんなに美味しい物だって知らなかった。一口食べると、またすぐに次の一口が欲しくなる。何口か食べると、今度はスープが飲みたくなって、レンゲでスープをすくって飲む。


「はぁ……」


 思わず感嘆としてしまった。一休憩入れなければ我を忘れそうになっている。それぐらい、夢中になって食べ進めてしまいそうだ。


 箸休めにとメンマを箸で取る。カップラーメンよりも大きく、一本でも食べ応えがありそうだ。一口で食べると歯でサクサクと簡単に千切れてしまう。カップラーメンのメンマはこんなに簡単に千切れないのに……生は凄い。


 少し麺をすすった後、今度はチャーシューを食べてみる。厚めに切られているのに箸で簡単に千切れてしまった。ホロホロになったチャーシューを口の中に入れると、上質な脂と肉の味が広がる。噛めば幸せになる感触が待っていた。


 また少し麺をすすった後、味玉に手を伸ばす。トロリとした黄身が光っていて、喉がゴクリと鳴った。堪らずかぶりつくと、黄身の濃厚な味が広がり、柔らかな白身の感触がした。噛めば、漬けていたであろうタレの味がほのかに感じでその塩味が心地いい。


 それからは、夢中で食べ進めた。あっさりとしているのに、コクのある飽きないスープに夢中で麺をすすり、箸休めに具をつまむ。食べ進める手が止まらない。これが生のラーメンの美味しさ……こんなの初めてだ!


 気づいたら私はどんぶりに手を当てて、スープを飲み干してしまっていた。そして、感嘆とため息を吐く。


「……美味しかった」


 こんなに夢中になるなんて……生のラーメンが恐ろしい。


「ぷはーっ、美味しかったね!」

「はい! 全部美味しかったです」

「スープはあっさりなのにコクがあるところが堪らなかったわ。それに絡む麺も相性ピッタリ!」

「なんか、料理として完成されていると思いました。無駄なものが一つもない感じです」


 二人が感想を言い合っているのを見ていると、友達とグルメの漫画を思い出す。あの漫画の高校生編で部活帰りにラーメン食べていた話があったな。部活の帰りに友達同士で夕食前の腹ごしらえっていいながら、ラーメンを食べていたっけ。


 楽しそうにお喋りをしながら食べるシーンが楽しかったな。その場に自分がいたら……なんて考えていたような気がする。だから、今の状況は漫画の状況に似ていて、私も感想を言い合えればシーンと同じようになれる?


 ……いいや、ダメだ。どうせ、このパーティーは解散するつもりだから仲良くする必要はない。漫画と同じシーンになりたいからと、ここで自分の考えを曲げちゃだめだ。


「ユイはどうだった? このラーメン、めちゃくちゃ美味しかったと思うんだけど」

「お……別に」

「今、おって言いました! 美味しかったんですね!」

「ち、違うっ!」

「もう、ユイは素直じゃないな~。スープまで飲み干しちゃって、相当美味しかったんだね!」

「う、うるさい!」


 くっ、仲良くするつもりなんてないのに! 


「私としてはカップラーメンとどんな違いがあるのか知りたいなー。ここで話すのも迷惑だから、まずは宿屋に行こう! 話すのはその後からでもいいよね」

「折角パーティーを組んだんですし、同じ宿屋にしましょう! さぁ、行きますよ!」

「私は遠慮する。別の宿に泊まる」

「ダメですよ! 一緒の宿屋に泊まって、友情を育むのです!」

「よし、行こう!」

「は、離せ!」


 会計を済ませると両腕を二人に掴まれて、店の外へと連れ出された。

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ユイちゃん過酷な環境に居たのに押しに弱くて優しいよね 仲間の性格に賛否あるみたいだけど この調子でどんどん絆していってほしいわw
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