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ゾンビがいる終末世界を生き抜いた最強少女には異世界はぬるすぎる  作者: 鳥助


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20.神官養成学校の卒業

 試験はみんな合格だった。そうなると、待っているのは神官養成学校の卒業だ。試験が終わった翌日、各々の進路を決めるための二者面談が始まった。


 一番初めの面談はなぜか私だった。


「さぁ、そこに座ってください」


 部屋へと通されると、用意されたテーブルとイスが見えた。その向かいにはシュリムがにこやかな笑顔を浮かべて、座るように促す。私は用意されたイスに座ると、話が始まった。


「では、進路相談を始めます。神官見習いたちには二つの道があります。教会に入り、神官としての勤めを果たすこと。もう一つは冒険者となり外の世界に出ることです。ユイさんはどちらを選びますか?」

「私は教会には入らない。だから、外の世界に出ていく」

「それはどうしてですか?」

「教会には人が沢山いる。信用できない人が沢山いるところにはいられないし、わずらわしい。だったら、一人で生きていける冒険者になる」


 私の気持ちは決まっていた。教会には自分と同じ神官が沢山いると聞いた。そんな沢山の人がいる中に飛び込んでいくのはわずらわしい。人がいればいざこざが起こるし、そういうのは面倒くさい。


 だから、人と触れ合わずに生きていける冒険者を選んだ。冒険者になったからといって、人付き合いはゼロじゃない。でも、教会で働くよりはマシだと思った。


 それに、人に縛られたくない。ホームにいた時もそうだった。力がなかった私は、大人の命令を受けて行動しなければいけなかった。それがとても嫌な経験だった。だから、もう二度とあんな経験はしたくない。


「聖女のあなたが教会に入れば、初めから上の位につくことができます。教会の中で出世できる位置に入ることができるんですよ。それでも、ユイさんは外に出ますか?」

「今の話を聞いて、さらに気持ちが固まったよ。出世競争なんて、まっぴらごめん。そんなわずらわしいことがあるのだったら、絶対に教会には入らない」

「そうですか……。ユイさんなら、教会のトップを目指すことができると思ったのですが……そう考えるのであれば仕方がありませんね。外に行くことを認めましょう」


 教会のトップなんて面倒くさいことばかりじゃないか。下の者のことを考えないといけないし、教会全体のことも考えなくちゃいけない。そういうのが、一番わずらわしい。私は自分のことを考えて生きていきたい。


「では、外に出る神官のお話をしますね。外に出る神官、それは冒険者となって困っている人を救うことです」

「困っている人を救う? 私がやりたいのはゾンビ……アンデッドを倒すこと。前の世界ではそれで生きてきた」

「そうですね、ユイさんがいた世界はそうかもしれません。でも、だからと言って同じ生活ができるとは限りませんよ。冒険者になると、魔物討伐をしたり、依頼をこなしたりしてお金を稼ぐしかありません」

「私が聞いた話では、アンデッドを倒すだけでも生きていけると聞いた」

「あぁ、あれですね。その説明は後でしようと思っていましたが、先にしましょうか」


 そう言って、席を立ったシュリムは部屋にあった棚に入った箱から何かを取り出した。それを持ってまた席に着くと、持ってきた物をテーブルに置いた。それは十字架の形をしていて、真ん中に黒い石がはめ込まれたものだ。


「これは神官の功績を目に見えて分かりやすくしたものです。神官の仕事に魂送りがあることはご存じですね? 死んだ人の魂をあの世に送り、アンデッド化を阻止すること。また、アンデッド化したものを魂送りにして浄化させること」

「浄化魔法で魂送りができることは知っている」

「この十字架は魂送りをした数を計ってくれるものです。送った魂に反応して真ん中に埋められた、石の色が変わります。そして、教会ではその石の色に応じて、功績金が渡されます」


 なるほど、浄化魔法で魂送りにすると十字架についた石の色が変わる。その色に応じてお金が貰えるってことなのか。だから、アンデッドを倒すことで生きていける、という話になるのか。


「この世にはアンデッドが蔓延っています。そのアンデッドに人々は苦しめられ、生活を脅かされています。それを救う手は我々聖職者の浄化魔法しかありません。そのため、人々は救いを求めて教会にお布施をして、代わりに我々がアンデッドを浄化しているのです」

「そういうからくりか。アンデッドを浄化するだけでお金が貰える仕組みは分かった」

「ぜひ、アンデッドの浄化に力を入れてください。聖女の地位を授かったユイさんならば、迷える魂を沢山救うことができるでしょう。アンデッドだけじゃなく、アンデッドの王にも手が届くかもしれません」

「魔王を倒す危険を犯すとでも? 私は自分が生きてさえいればいい。だから、魔王なんていう奴は追わない」

「神に導かれたあなたにはきっと地位に相応しい道が用意されていると思いますよ」


 またそれか。自ら危険を犯して、そんな奴の相手をするわけがない。私は自分が生きていればそれでいい。他人のことなんて知ったことか。


 シュリムの言葉を拒絶するが、シュリムは全然気にしていない。きっと、私の話を半分も聞いていないからだろう。シュリムは選ばれた私にはそれ相応の使命があると思い込んでいる。


「それに私は一人で行動する。魔王なんて倒す奴は大体パーティーを組むでしょ? 一人で行動する私が魔王を倒せるなんて思わない」

「ユイさんには人を惹きつける力があります。きっと、ユイさんにも素晴らしい仲間ができると思いますよ」

「絶対に嫌だね。信用できない他人と一緒になんかいられない」

「ふふっ、今はそういうことにしておきましょうか」


 こいつ……全然私の話を聞いてないじゃないか。私は絶対に仲間を作らないし、これからずっと一人で行動するつもりだ。


 すると、シュリムはテーブルの上に何かを差し出した。それは小さなカードみたいだ。


「これが神官養成学校を卒業した証です。これを持って冒険者ギルドに行って、登録するといいでしょう」

「貰っておく」

「ユイさんの活躍、楽しみにしていますね」


 そういって、シュリムはにこやかに笑って見せた。含みのない笑みはどうしても苦手だ。


 ◇


「今日をもって、あなたたちは神官になりました。今後も研鑽を積んで、高みへと目指していってください」


 聖堂でシュリムが私たちに向かって挨拶をした。それなりに長い話だったから、疲れてしまった。でも、これで解放される。話が終わると、ざわめいて空気が緩む。


 もう、ここには用がない。さっさと去るために入口の方にいこうとしたら、腕が重くなった。


「もうユイとお別れなんて寂しいよー!」


 腕に抱き着いてきたのはリットだった。


「最後に聖女の力、補給させてー!」

「だから、そんな力はない!」

「そんなことないもん! ユイがいたお陰で、色んな事がスムーズにいったんだもん」

「はー……勝手に思っていろ」


 最後の最後まで迷惑をかけないと気がすまないのか? 好き勝手にさせたら、腕に顔を擦りつけてきた。やっぱり、強引にでも引き剥がすべきだったか。


 そんなリットに絡まれていると、周りに人が集まってきた。


「ユイは外に行くんだったよな。俺は教会に入るんだ。教会からユイの活躍を楽しみにしているな!」

「私はユイと同じで外の世界に行くんだ! 同じ神官だから一緒のパーティーにはいられないけれど、どこかで会ったらよろしくね!」

「いや、ユイなら一緒のパーティーでもいいかもしれないよ。一人でも戦えちゃうくらい強いんだし」

「あ、それもいいかも! ねぇ、一緒にパーティーを組もうよ!」


 どうして、私の周りにはこんなに人が集まるんだ。わずらわしくて仕方がない。


「私は誰とも組まない。一人でやっていく」

「えー、嘘だー! 一人でなんてやっていけないよ!」

「ユイだったら、あちこちから引っ張りだこになりそうだな」

「だって聖女だもん! それを知ったら、きっとモテモテだー!」


 どうして、そんなに勝手なことが言えるんだ。人の気も知らないで……。


 ……やっぱり、私には人付き合いは苦手だ。こいつらと同じ気持ちになんてなれない。きっと、周囲を受け入れられない自分がおかしいと思うが、そうやって生きてきたからそれしか知らない。


 それでも、ここでの生活は目新しくて……。


「じゃあね、少しは楽しめたよ」


 私はそう言ってみんなから離れた。後ろからみんなの声がするが振り向かない。少しだけ胸がざわつくのはなんでだろう? きっと、今の私じゃ、その意味が分からない。


 あの中にいれば、自分は変われたのだろうか? そう思うが、すぐに思い直す。いや、どこの世界だって美味い話があるわけじゃない。現に信用していた冒険者たちに裏切られたじゃないか。


 ぬるい生活とはここでお別れだ。

お読みいただきありがとうございます!

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