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あの夏に咲いた君の笑顔に  作者: 凪野 祐介
4/6

6月 夏 適当

あの夏に咲いた君の笑顔に 第3話

 6月になった。窓から生温い風が入ってくる。まだ、クーラも解禁されていないため、この風は暑がりの私に対してかなり応えた。これまで、半分くらい集中していた講義も、ここ最近まともに受けられていない。加えて、本を読んでサボる気力すらもないため、ただ講義に出席しているだけの日々が嵩んでいった。

 同時に、件の女子にも何も話しかけられず、ただ遠目に見ているだけで2ヶ月が経った。自分の意気地の無さに情けなくなる。しかも、なおさらひどいのは、あちらも私のことを見ているような気がすることだ。話しかけさえすれば、すぐ親しくなれるかもしれないのに…。一歩を踏み出す勇気が、あの子に話しかける勇気が、私には無いのである。

 終業の時間になった。今日も何もできなかったと、心の中で顔を顰めて講義室を去る。外に出た瞬間、教室以上の暑さと湿気さに襲われる。一瞬、本当に顔を顰めつつ、リュックのフロントポケットからイヤホンを取り出し、ミュージックアプリを起動して、曲を再生する。

 私はこれまで、歌詞を考えずに曲を聴くというのが習慣であった。ところが最近、読書を始めたことで、『言葉』に対して情のようなものが芽生え始め、歌詞を考えるようになっていた。今聴いているのはお気に入りの曲の1つだ。絵描きの青年が少女と話し合う仲になるまでの課程を歌った曲だ。まさか…まさか!今の自分にぴったりの曲が身近にあるなんて、これは奇跡だ!宇宙で生命が誕生するくらいの奇跡だ!いや、それは言い過ぎか…。歌詞の中に『君に触れたら適当なことを喋ってみよう』というフレーズがあった。体の奥から熱い何かが、こみ上げてくるのが分かる。今まで、何を話せば良いのかも分からなかったが、そうだ…そうなんだ、適当なことで良いんだ!私はその曲から勇気を分けてもらったことですっかり元気になるのだった。

 明日、適当なことでもしゃべってみよう。

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