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あの夏に咲いた君の笑顔に  作者: 凪野 祐介
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4月 春 目覚め

あの夏に咲いた君の笑顔に 第1話

 朝6時半、スマホのバイブ音で目が覚める。アラームなのに音を鳴らさないのは、寝起きの機嫌がとにかく悪く、耳障りな音有りのアラームで起きた暁には、スマホを投げ飛ばしてしまいそうになるからだ。

 支度をして家を出る。大学までは自転車と電車と徒歩という、まるでちょっとしたトライアスロンのようになっている。

 基本、通学は退屈なのだが、自転車を漕いでいるときだけは違う。季節を肌で感じられるから、とても心地よいのだ。ちょうど今も、季節の中を駆け巡っている真っ最中なのだが、聴覚では、キーキーという鳥のさえずりを、視覚では、1ヶ月前よりも明らかにバリュエーションが増えた色彩を、嗅覚では、のびのびと咲いた花の香しい香りを、触覚では、まるで寒い日に布団にくるまっているような、風の温もりと優しさを感じる。このように自転車という乗り物は、五感で季節を感じられるから好ましいのだ。

 駅に着いて電車に乗る。音楽を聴くだけで、他には何もなく、乗車率110%といった具合の車内で虚無の時間を過ごした。大学の最寄り駅に着き通学方法が徒歩へと切り替わる。

 今年は留年した。去年の後期の授業に1日も行っていないから当たり前ではあるが。とにかく結果としては、一浪一留の社会不適合者の誕生だ。

 ふと、イヤホンをポケットへ入れ、歩きながら前方を見上げる。桜が豪勢に枝を四方へと伸ばしながら、荘厳と咲き誇っている。桜は数多の植物の中でも、唯一興味を引かれるといっても過言ではない。なぜなら、全盛のうちに散ってしまうことが非常に美しいと思えるからである。人生の終わりを桜のように迎えられたら、それはどれだけ幸福だろうか。

 いつもは音楽を聴きながら、なんとも思わずに歩く通学路だったが、今日は見慣れない桜色が加わっていたからか、このような思案に耽るのだった。

 一歩一歩、希望への道を踏み込んでいくような気分だった。悪い気はしなかった。

ご精読ありがとうございました。

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