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26・それぞれの密談(3/3)

「雅樹くんが反抗期かどうかは別にして、シーナがこのままの状態だとちょっと困るのよねぇ……。

 女子校だからって油断していると大変なことになりそうだし」

「シーナさんのこの状態って、いつもはどうしているんですか?」


 研吾さんが軽く片手を上げて、マダム土田に質問した。真面目だ。


「私はシーナの防衛本能だと理解してるんだけど……。

 危機を感じたからひとりにならないように注目を集める。子どもの時ほど有効な手段じゃない?」

「シーナ、合ってる?」

「そうなんじゃないの?よくわかんないけど」


 視線を逸らして、シーナが紅茶のカップをつまんだ。これはあんまり思い出したくないことが何かあるなぁ。

 不機嫌そうな横顔を見て、なんとなくそう思った。


「シーナが精神的に落ち着けばいいんだけどねぇ…。

 今まではポーズモデルを繰り返していれば、安全なメンバーだけ残って穏やかになっていったんだけど…。

 雅樹くんもだけど、シーナも思春期で成長期なのよねぇ」


 ふうっと、もの憂げにため息を吐くマダム土田。それだけで絵になるって凄いなぁ。

 計算していないのに、ゆるくウェーブした髪がほろりと顔にかかる。赤ワインに濡れた唇が艶っぽいまま、ほんの少し空いている。


 エロい〜。


「悠河、ご機嫌ね」


 シーナが面白くなさそうに私を見る。雅樹くん不足になるとシーナはイライラしてくるからなぁ。


 ただ残念ながら、そんな顔のシーナも可愛いからね!私にとってはただのご褒美よ!!


 にやにやとしながら、紅茶を飲む。


「両手に花だからね〜、研吾さんもイケメンだから目の保養になるし」

「悠河さんはシーナさんがああなった時って、どうしてたの?」


 おや、イケメンと言われてもスルーとは。さすがですね、王子様。


 紅茶のカップに口をつけながら、思わず片眉を上げてしまう。ソファでくつろぐ研吾さんは、長い足をゆったりと組んで、片手にグラスを持っている。

 どこまでも落ち着きと良識を保ちながら、このカオスに身を委ねている。

 不思議な人だ。


「どうしてたっていうか、シーナ連れて一緒に逃げて、その後にターゲットを攻撃するのがパターンだったんで」

「攻撃……?」

「主に口先で。物理攻撃はしていないですよ?」


 研吾さんが不思議な顔をしている。変な人だな。


「シーナが一方的に理不尽な目に遭ったら、すぐにやり返す。それだけです。

 痴漢野郎だったら、警察に突き出せばいいんですし」

「さらっとすごいこと言うね……」

「女子中学生だって、それなりに自衛をしますからね。

 そんなことよりも、ねぇシーナ。このままだと、雅樹くんの中2の夏服見納めになっちゃうよ?」


 軽く首をかしげてシーナを見ると、顔面蒼白になっていた。

 うん、体の成長が著しい中学生男子だもん。1年の違いは大きいよね。雅樹くん大好きのシーナが、華奢さの残る今の雅樹くんの夏服姿を味わい損ねることは避けたいもんね。

 そこにマダム土田が追い討ちをかける。


「ねぇ、シーナ。抑えられるように努力しないなら、麗香に連絡してもいいかしら?」

「やめて!おねーちゃんには言わないで!!」


 ソファから立ち上がってシーナが叫ぶ。うん、こうなるだろうなぁと思った。


 マダム土田がゆっくりと人差しでシーナを指差すと、言った。


「自覚しなさい。自分が何をしているのか。

 そして、それをコントロールしなさい。いつまでも私たちがあなたを守れると思わないで」

「……だって」

「雅樹くんを待っているから?いつまで子どもでいるつもなりなの?

 来年には成人するのよ?」


 予言をする魔女のように、厳かにマダム土田が突きつけた言葉は、私でも分かる未来の話だ。

 いつまでもシーナと一緒にはいられない。同じ大学に行ったとしても、同じクラスの中学生のようにスケジュールを合わせることはできない。高校を別にした理由のひとつに、シーナと私の独り立ちがあったのは、まだ誰にも言っていない。でも、マダム土田は勘づいていそうな気がする。そういう人だから。


 目を伏せながら、濁りのない褐色の液体を飲み干す。

 空になったカップを静かにソーサーに置いてから、シーナににっこりと笑いかけて言った。


「ねぇ、シーナ?私と一緒にウェイトレスのバイトしてみない?」




 *



「ゆ、悠河ぁ。これ、おかしくない?」

「大丈夫、大丈夫、かわいいから大丈夫!!」


 もじもじとしながら、着物の合わせ目に手を当てては、何度も鏡の前に戻るシーナ。めっちゃかわいい。


「肌の露出は極小だし、胸も着物用のブラで潰してあるし、清楚でかわいい!ひとつ結びの髪のシーナもレアでいいね!」

「お腹苦しいんだけど……」

「そこは慣れかなぁ。帯は緩くできないし。半帯だからその内慣れるよ!」


 満面の笑みでサムズアップすると、シーナが絶望感に満ちた顔で私を見た。


「……どうしよう。悠河にそう言われれば言われるほど、ダメな気がしてくるの」

「にゃにおう?荒療治でもなんでも注目を集めるスキルをコントロールできないままだと、雅樹くんに会えないからね?」


 本当は雅樹くんの異性への意識の芽生えが始まっただけなんだけどね!

 でもシーナにはここまでの覚悟を持たせないと、変われないから。


「今日は日曜日だからね!たくさんお客様が来るから、静かに目立たないように、料理を運んでね!」

「へ、変な人来たら、やだぁ」

「その時はいつも通りにピンポイントで落として!

 不特定多数の視線を集めない!そこだけ気をつけよっか」

「ゆ、悠河が優しくなぁい〜!!」


 青い目をぐずぐずの涙目にしながら、シーナが着物の袂をいじっている。


「大丈夫!私はいつでもシーナのことを想ってるから!」

「な、なんでこうなったのよぉ〜!」


 にこやかに笑う私に、シーナが泣きながら叫んだ。








( ;´Д`)な、なんとか、間に合った……。

次話からは書き上がり次第なので、不定期更新です!でも投稿時間だけは19時で統一するよ!引き続きよろしくお願いします!!

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[一言] ウェイトレスキターーー!!!!(大歓喜)
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