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26・それぞれの密談(2/3)

「被害者?遠藤くんが?なんで?」

「雅樹への告白ラッシュの余波で、やる気に満ちた女子が増えた」

「ごめん、意味が分からない」


 本当に言っている意味がわからない。思わず眉間に皺が寄る。

 遠藤は怪訝な顔で僕に言った。


「雅樹が学年の男子で一番モテるのは知ってたか?」

「は?やめろよ、そんな嘘」

「マジかよ。大河、いつまで隠すつもりだったんだよ」


 この話の流れで大河の名前が出てきてびっくりする。それはつまり、誰と誰が付き合っているとか、そういう情報に詳しくなさそうな大河が知っているくらいに、僕を好きな女の子が多いということだろうか。


 いやいや、そんなまさか。


「……まあ、いいや。

 まだまだ告白されるだろうから、そのうち分かるだろ」


 なんか恐ろしいことをさらっと予言された。


「えええ?!まだまだ?もういいよ!」

「去年からずっと誰も抜け駆けしないでいたんだから、まだ続くだろう?実際、かなり告白されてるじゃないか」


 それは否定できない。昼休みと放課後がかなりのストレスになりつつある。今日の放課後も3人から別々に呼び出されている。一体何が起きているんだろうか。

 おもわず遠い目になると、遠藤がそっと肩に手を置いた。


「……なんか思ったより大変そうだな。オレみたいに彼女よりバスケの方がいいって大声で言える奴じゃなさそうだもんな、お前」

「……なんであんなに明るく答えて、さっぱりした雰囲気で終わるんだよ、教えてくれよ」


 遠藤相手に気を使うのも馬鹿馬鹿しくなって、直球で訊いてみた。


「泣くなよ、モテているんだから」

「泣いてない」

「いや、今、ものすごく泣きそうな顔になってるぞ。ぷるぷるしてる小型犬みたいになってる」


 心底嬉しくない喩えをされた。僕はチワワか。トイプードルか。

 肩に置かれていたはずの手は、いつの間にか頭の上に移動していて、撫でられていた。やめろ。本気で泣きたくなる。


「こういう奴だったとはなぁ。

 お前、相手に可能性があると思われているんじゃないのか?泣きおとしで付き合えるなら、やりそうな女子が結構多いからなぁ……」

「……みんな泣きそうな顔して帰っていくんだ」

「それ、泣いてないだろ。本気で泣いてる奴なら涙くらい落とすぞ」


 そうなのかな。心愛さんは本当に泣きそうに見えたから、あの後気持ちが沈んで仕方なかった。

 他の子たちは……。


「……そういえば、顔は見えなかったな。うつむいていたり、手でおおってたり」

「気をつけろよ。泣きおとしに弱そうだもんな、お前」

「泣いてなかったのか……。そうか」


 言われてみれば、他の子たちは泣いていなかった。最後は目も合わせてない。それなら、まぁ、いいのか、な?


 僕の表情を読み取ったのか、遠藤はにっと笑うと、頭から手を離した。


「それか好きな女か、彼女がいますで返せばいいじゃないか。

 お前、あの人と付き合っているんだろ?金髪のでかい」

「違うから。幼馴染だから」


 胸のことを言われる前に遠藤の言葉をぶった斬った。なんだろう、ものすごくイラッとした。

 遠藤は虚を突かれたように一瞬黙ったが、すぐに嬉しそうに笑った。


「いいじゃん。そういう顔してる方がオレは付き合いやすい」

「そういう顔って」


 遠藤に言い返そうとした途端、授業の始まるチャイムが鳴り響いた。

 気がつけば廊下には誰もいない。


「やばい。走って戻るぞ」

「あ、先生来てる!」


 叫び合いながら、猛ダッシュでそれぞれに自分の教室に向かって走る。

 こんな時でも遠藤の足は早く、後ろ姿を見ながら、確かにこれはかっこいいなと思った。



 ***




「雅樹に会いたい」

「また拒絶されるんじゃない?」

「雅樹を直接見たい」

「………カメラとか仕込んでそうで怖いなぁ」

「雅樹と同じ空間にいたい」

「市内という括りで考えれば、同じ空間にいるよ、シーナ」


 話は少し遡って。

 秋祭りで雅樹くんとの再会が秒で強制終了になったシーナを囲み、その日のうちにマダム土田の家で反省会が行われた。


 参加者は、シーナの親友ことワタクシ、悠河。そして、マダム土田と研吾さん。

 研吾さんは帰ろうとしたところをマダム土田の秘蔵の酒で釣った。20歳でウイスキー嗜むとかちょっとおかしい。


 4人でマダム土田のリビングで、ゆったりとソファに座って話し合った。


「雅樹くんだって思春期と反抗期の14歳なんだから、シーナと距離を置きたい時もあるんじゃない?」

「だって、そんなこと今までなかったもん」

「それが成長っていうものよねぇ。シーナだって、14歳くらいからモデルやらないって駄々をこねはじめたでしょう?」


 安物の赤ワインでも、マダム土田がグラスを傾けるだけで、数十万円しそうに見えるのは何故だろう。

 私とシーナは好きな紅茶を並べて飲み比べるようにして飲んでいる。


「だって、嫌だったんだもん」

「私の夫を骨抜きにしておいて、よく言えるわねぇ」

「土田先生が勝手に堕ちただけだもの」


 ソファの上に両膝を抱えて、ぷすーっと頬を膨らませているシーナ。うん、可愛い。


「土田さん、美玖ちゃんと出かけていてよかったですね」


 舐めるようにウイスキーを飲む研吾さんが、嘆息するように言った。うん、なんだか常識人がいる感じがして、とても新鮮。









_:(´ཀ`」 ∠):あと1話の更新は、来週中にします……。

諸々あって書けない状態が続いてます。

その後は書けたら投稿するので、金土日のローテーションは維持できないかもしれません。

(´;Д;`)ブクマ増えてたのに!ごめんなさい!!

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― 新着の感想 ―
[一言] >お前、相手に可能性があると思われているんじゃないのか?泣きおとしで付き合えるなら、やりそうな女子が結構多いからなぁ…… 女子は怖いぜ( ˘ω˘ )
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