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26・それぞれの密談(1/3)



 二度あることは三度ある。


 誰が言い出したのかは知らないけれど、その通りだと思った。




「雅樹くん、好きです。私と付き合ってください」

「ごめん。気持ちは嬉しいけれど……」


 心愛さんに告白された翌日から、昼休みと放課後に告白され続けている。

 手紙を渡されたり、直接呼ばれて連れて行かれた場所で告白されたり。

 5人目を超えた時点で、僕のキャパはいっぱいいっぱいになった。


「……雅樹、おい、雅樹、大丈夫か?」

「……なあ、大河、今日って金曜日だっけ?」

「まだ水曜日だ。おい。しっかりしろ」


 心愛さんに告白されたのが月曜日。まだ2日しか経っていない。嘘だろ。

 僕は頭を抱えて机に突っ伏した。


「ちょっともう、感情の処理が追いつかないんだけど……」

「すまん……。俺もなんて言っていいのか分からない」

「あと、同じ美術部の天野が、シーナに会わせろってうるさい」

「……それは俺もうるさいって思ってた。大変だな、雅樹」


 机に額をつける距離になって、机の中にある教科書から封筒が突き出しているのが見えた。

 まさか。


 おそるおそる手を伸ばすと、僕の名前が宛先に書かれている。


 これ、今開けなければ時間稼ぎにはなるのかな。


 一瞬逃げ出そうとする気持ちが出たが、相手の気持ちを考えるとそれも出来ないと腹を括った。


 机に上体を預けたまま、周りから見えないようにして封筒を開ける。中身は覚悟していた通りの内容だった。


「……テスト前の部活休止日っていつだっけ」

「明日からのはずだけど……雅樹?」


 こういう手紙って、日時の変更ってできるんだろうか。明日の放課後は、さすがに真っ直ぐに家に帰りたい。


「ちょっと、行ってくる」

「お、おお。顔色悪いぞ。気をつけろよ」

「うん、わかった」


 ふらふらとした足取りで、教室を出て隣のクラスへ向かう。手紙の差し出し人の名前を頭の中で復唱しながら、なんでこんなことになっているんだろうと、どうにもならないことを考えていた。



 *



 手紙の差出人を呼び出して、要件があれば今のうちに聞きたいと伝えたら、屋上の扉の前まで連れてこられた。


「好きです」

「ごめん、気持ちに応えられそうにないんだ」


 できるだけ柔らかい口調になるように気を配ってみても、僕の返事は誰に対しても断る内容になるから。


「そう、ですか」


 一生懸命に言葉を紡いだ後、必ず相手の女の子たちは、泣きそうな顔になる。


 それが僕には辛かった。


 でも、ここで「わかった。付き合おう」とは、絶対に言えないから。


 ぎゅうっと痛む胃の悲鳴を押し殺して、対峙するしかなかった。


 今回も気持ちは嬉しかったことや、応えられなくて心苦しいことはできるだけ伝えようと努力した。

 それでもやっぱり誰もが行き場を失くした感情を抱えながら去っていく後ろ姿に、僕はどうしようもない気持ちになった。


 鬱々としながら、誰もこない階段をのろのろと降りていくと、人の話し声が聞こえた。

 こんなところに誰だろうと、自分のことを棚に上げて思った途端、「ずっと好きだったの。今度、試合の応援に行ってもいい?」と言う女の子の声が聞こえた。


 うわ、これ、告白だよな。


 邪魔をしてはいけないと思ったが、他の人はどう答えているのだろうかという切実な悩みの参考になるかもしれないとすぐに気がつき、じっと息をひそめて聞き耳をたてた。


 熱のこもった女の子の声に反して、答える男子生徒の声はあっさりしたものだった。


「部員の奴らが喜ぶから、応援してくれるのはありがたいけど、オレ、あんたと付き合うつもりはないから」


 シンプルかつストレート。女の子の要求に淡々と答えただけだった。

 しかし、冷たくされたと僕でも思う塩対応にも関わらず、女の子は嬉しそうに、「うん!ありがとう!応援に行くね!」と言った後、「遠藤くんが誰とも付き合わないことは知ってるから。告白できてよかった」とあっさり立ち去っていく足音が聞こえた。


 え?なんで?告白して断られていたのに、なんでそんなに明るく終われるの?


 今週立て続けにフラれた女の子たちが、いつも泣きそうな顔で帰っていくのを見てきた僕にとって、かなりの衝撃展開だった。

 試合の応援に来てもいいけど、付き合わない。

 誰とも付き合わないと知った上で女の子が告白して、フラれて帰っていく。


 え?なんで?


 相手の気持ちに添えなくて、だんだんと胃を痛めている僕には何がどうなってこうなったのか、ちっとも分からなかった。

 階段の途中で固まったように立っていると、下の方から「おい、雅樹、だっけ?いつまでそこにいるの?」と呆れたように言われた。

 おそるおそる階段を下りて、両手を制服ズボンのポケットに軽く突っ込んだまま立っている男子生徒の前に立った。


「えーと、確か大河と同じバスケ部の遠藤くん」

「そういうお前は絹田に敵視されてる雅樹だろ」


 にやにやと嬉しそうに言われた。絶対からかってるだけだろ、これ。


 そういえば、この間バスケ部と一緒にランニングした時、唯一抜かせそうもなかったのが遠藤だった。1人だけ飛び抜けて走るのが早かった。


「で、雅樹、お前も呼び出されて告白されてたんだろ?」

「なんでそれを」

「だってオレ、被害者だもん」










_:(´ཀ`」 ∠):土日に19時更新されてなかったら、察してください……!

更新されてたら、がんばったねって労ってください……!

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