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25・雅樹の情操教育担当は漫画(3/3)

 デートって、そもそも付き合っている2人がするもののはず。


 僕は心愛さんと付き合っていない。だから、デートはおかしい。


「えーと、デート、は、しない、です」


 そう言ってから思い出したのは、シーナとのお出かけ。だいたいはシーナが「雅樹とデート!」と断言していただけだったと思うんだけど、あれはデートだったのか?

 それじゃあ、デートって何?


「デートじゃなくても、その、私のことを知ってもらいたいから、2人でお話しするために出掛けるとか、そういう軽い感じで。

 駅ビルの中とか、ショッピングモールでもいいし」


 デートが何なのか分からなくなった途端に、デートではないものを提案された。それは買い物に付き合うということなのかな?

 でも、2人で出かけるだけでもシーナはデートだと言っていたような気がするんだけれど。


 あれ?そもそもシーナとのデートは本当にデートだったのかな?


 理解しているはずの言葉の意味がわからなくなり、途方に暮れ始めた。そんな僕に視線を合わせた心愛さんは、一歩だけ近づくと、僕の手を指先で握った。


「ね?お願い、雅樹くん」


 突然指が触れたことに驚き、心愛さんを見つめてしまった。

 目を潤ませながら、頬だけではなく顔全体を真っ赤にさせている。


 一生懸命に僕に気持ちを伝えようとしてくれたんだなと分かった。


 分かったんだけれど。


「ごめんなさい。心愛さんとは付き合えないよ」


 大河が忠告してくれた通りに、自分で考えて、自分で判断すると、心愛さんと付き合うという選択肢はなかった。


「好きだと言ってくれてありがとう。本当に嬉しいんだけど、同じ気持ちを返せそうにないから。

 ごめん」


 お互いに好き合って付き合うのが一番正しいと物語の中で学んだ。

 ヤンデレは好きだけど、相手がなんとも思っていない場合は、それは僕の好きなヤンデレにはならなかった。


 お互いに好きだから付き合う。


 それが僕の出した答えだった。


 僕の手を握っていた心愛さんの指が、急に力を失って離れていった。赤かった顔も少しずつ戻っていく。潤んでいた目を何度も瞬かせては泣くのを我慢しているように見えた。


「……そっか。私じゃダメだったか。

 1年前から、ずっと気持ちを押さえつけてたから。

 もっと早く雅樹くんにアピールしておけばよかった」

「ごめん」

「ねえ、雅樹くん。雅樹くんはあのシーナ先輩と、やっぱり付き合っているの?」


 泣きそうな目をしながらも、僕と視線を合わせて心愛さんが言った。


「……付き合っては、いない、と思うけど、小さい時からずっと一緒で、これから先もずっと一緒にいられたらと、思っているけど」


 嘘にならないように、今の僕の気持ちを正直に答えた。だって、僕みたいな奴を好きだと言ってくれた心愛さんは、きっと勇気を振り絞って、本当の気持ちを口にしてくれたと思うから。


 そう、本当の気持ちほど、言葉にして誰かに言うことが、怖くて仕方ないと僕は知っているから。


「そうなんだね……」


 泣きそうな顔になりながらも、精一杯の笑顔を作ると、心愛さんは「じゃあね」と言って走り去っていった。



 *





 美術部に行こうとしたけれど、なんとなく行きたくなくなった。

 教室から鞄を持ち出すと近くの公園に向かって歩き出す。


 その公園はシーナが誘拐されそうになった時に遊んでいた公園で、今日も小学生が何人か遊んでいるのが見えた。

 少し前まで同じようにここで遊んでいたはずなのに、ずいぶん小さかったんだなと、当時の自分の幼さを自覚した。


 今の僕と同じくらいの歳のシーナが、あの頃はとても大人びて見えた。同じランドセルを背負って学校に行っていた時は、それほど違いを感じることはなかったのに。

 制服を着たシーナは、もう僕とは一緒にいられないんだなと思った。


 シーナが離れていくことがわかっているなら、僕の方から離れていこうと思った。そのほうが傷つかないから。


 小学校の休み時間は男友達とゲームの話をしたり、放課後は男子だけでひたすらに公園で遊んだりして、シーナのいない生活に慣れていった。

 これなら、もう大丈夫だ。

 時々会うくらいの環境になっても、僕は寂しくないと思えるようになった。そう思っていた。


 それなのに、シーナが誘拐未遂に遭った後、僕の隣に戻ってきたことに本当はほっとしていた。

 シーナが僕を頼ってくれることに、実は少しだけ満足していた。それは誰にも言えない、とても汚ない感情で、ずっと見ないふりをしていた。


 それが、武田さんや心愛さんが言葉を尽くして思いを伝えてくれたことで、少しだけ自覚してしまった。


「………こんな奴なのに告白されるなんて」


 本当に僕もそう思う。こんな僕を………。


「ん?」


 モノローグを代弁されたような声が聞こえたけれど、さすがに自分では口に出してない。

 声が聞こえた方向に勢いよく顔を向けると、そこには同じクラスでバスケ部の絹田が立っていた。


 校外ランニングの途中らしく、顔から汗が滝のように流れていた。


「テスト週間でもうすぐ部活ができなくなるってのに、サボりかよ!!汗くらいかけよ!!!」

「サボっては……いるけど。美術部は特に運動しな」

「かー!!選ばれし者の余裕か?!モテる男の余裕か?!普段は努力してないけど運動もできますとか、お前ふざけんな!!」


 一応、毎日道場まで自転車で走っているし、稽古の方がハードだし、努力しててようやくこの状態なんだけど。


 そう思ったけど、今言っても聞いてくれなさそうだなぁ。


 どうしようかと思っている内に、追いかけてきた大河が、絹田を後ろから羽交い締めにした。そして、「雅樹に絡んでないで、お前も告白してこいよ」と、僕にも聞こえる声で言った。


 すると、それが呪文だったかのように絹田は沈静化し、無言のまま走り去っていった。


「……つまり、絹田は、その、もしかして、心愛さんを?」

「告白もできないチキン野郎だが、いい奴で一途なんだ」


 大河は僕の質問には答えず、遠く夕日を眺めながら薄く微笑んだだけだった。







(*´ー`*)武田さんとはまた違った押しの強さを出してきましたね!シーナ免疫機能が育成されていなければ落とせたと思います。心愛ちゃん、がんばったね!

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[一言] 絹田……( ˘ω˘ )
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