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25・雅樹の情操教育担当は漫画(2/3)

 学校まで歩いたことで体がほぐれてきたのか、教室に着く頃にはもうベットの中にいた時よりも楽になっていた。

 大河も筋肉痛が酷いらしいが、妙に嬉しそうなのが怖い。


「家でやってる筋トレより、効く感じがする。ちょっと遠いけど、慣れれば自転車で大丈夫な距離だから、入会させてもらうことにした」

「大河の家からなら、僕の家と道場くらいの距離だから大丈夫じゃない?」

「学校から行った方が近いけど、そうもいかないか」


 休み時間に筋肉痛の場所を教え合いながら、そんなことを話していると、急に肩を誰かにつつかれた。

 振り返ると、土曜日に道場の屋台へ買いに来ていたクラスメイトの女子が立っていた。


「ま、雅樹くん、今、ちょっといいかな」

「えーと、心愛、さん……、何?」

「これ、読んで!」


 真っ赤な顔でルーズリーフを折りたたんだものを渡すと、足早に教室から出て行った。


「なんだろう?」


 焼きそばをまた食べたいとかそういうことだろうかと思いながら、紙を開く。


「え、雅樹、お前、ここで開けんの?」


 大河が慌てたように言うけれど、もう開き終わって読める状態だし。

 何も言わずに黙って文字に目を走らせる。


「……これ、なんだろう」


 ルーズリーフの中央には、授業が終わったら図書室まで来て欲しいと書いてあった。委員会の仕事?でもなんで手紙で。


「とりあえず、いいから、誰にも何も言わずに、書かれてある通りにしてくれ」


 がしっと力強く肩をつかむと、大河は真剣な眼差しで僕に言った。


「中身見てないよな?なんでわか」

「中身は全然見ていないし、今も見えてない。見るつもりもない」


 捲し立てる大河の勢いに気押される。


「いいか。俺は見てないし、それについては聞くつもりもない。

 雅樹が自分で判断するんだ。いいな?」

「あ、ああ。わかったよ」


 なんだか分からないけれど、分かったと言うしかない。すると、大河は安心したように息を吐くと、僕の肩から手を離した。


 戸惑いながら、手紙を机の上に置くと、「しまえ。いいから、その手紙はしまえ」と、大河が強い視線で言ってきた。その勢いにのまれ、素直に鞄の中にしまうことにした。

 教室脇のロッカーに行こうとすると、大河と同じバスケ部の絹田が僕を睨みつけるようにして見ている。


 なんだろう。この間のランニングで抜いたことをまだ根に持っているんだろうか。バスケで勝負だとあれから何度か言われたから、授業でやる時があればと適当に答えておいたけど。


「何か用?」


 黙っているのも気まずいので、話しかけたら、ぷいっと顔を逸らして教室から出て行ってしまった。


 一体、なんなんだろう。


 *


 放課後になって、美術部に向かう前に図書室へ足を運ぶ。


 あれ?よく考えたら、用事があるなら教室で聞けばよかったのか?


 いまさらなことに気がついたが、もう図書室前なので、さっさと用事を済ませることにした。


 入り口の引き戸を開けると、すぐに心愛さんが近づいてきた。


「雅樹くん、来てくれてありがとう。

 あの……そこの非常口の踊り場に、一緒に行ってもらってもいいかな……?」

「あ、うん、わかった」


 話す間、目を合わせては顔を逸らすことを繰り返しながら、心愛さんの顔がだんだんと真っ赤になっていくのが分かった。


 あ、これは。


 既視感を覚えた。


 一瞬で思い出したのは、秋祭りの時の武田さん。

 ちょっと待て。いやいやいや。そんなわけがないから。

 初めて女の子から告白されてから、1週間経っていないのに。


 呼び出されてひと気のないところで女の子が顔を真っ赤にしてるだなんて、漫画の告白でしか見たことがない。って、それじゃあ午前中に渡されたルーズリーフの手紙、ラブレターっていうことになるのか?


 まさか大河は分かってたのか?だからあんなに強く言ってたのか?


 いや、まだ分からない。

 他の用事かもしれない。


 だって、僕がそんなに女の子から好かれるわけが。


「……雅樹くん、ずっと好きでした」


 告白だったー!!




 非常口と書かれた緑色の誘導灯の下で、両手を握りしめながら心愛さんが言った言葉の意味を、僕は受け止めきれずにいた。


「それで、もし、よければ、私と付き合って欲しい、な、って……」


 頬を赤く染めながら、上目遣いで僕の顔を見ると、すぐに視線を逸らした。そして口元をむにゅむにゅとすると、か細い声で「お試しでもいいって、いうか、私のことをあまり知らないなら、これから何度かデートしてみてから、決めてくれてもいいし」と懇願するような口調で付け足した。


 付き合う?

 お試し?

 デート?


 僕は物語の中でしか見たことのない言葉の羅列をもう一度理解しようとした。

 心愛さんは僕に好意を持っていて、付き合って欲しいと言っている。

 けれど、名前すら覚えていなかった相手が好きかどうかも今の僕には分からない。

 それを知っているからか、心愛さんはデートを提案してきた。


 いや、ちょっと待てよ?








(*´Д`*)いけ!心愛(ここあ)!女子の力技で押し切れ!!

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