25・雅樹の情操教育担当は漫画(1/3)
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秋祭りの手伝いも無事に終わって、あれからシーナと会わないまま月曜の朝を迎えた。
「あぁ〜、もう、何やってるんだろう………!」
目が覚めるなり、布団の中で自己嫌悪に陥る。
体の正直な反応だから、仕方ないと分かっているけど、後先考えなかった自分に呆れる。
無駄に全身が筋肉痛になっている。
シーナが大隈さんに連れられて帰った後、体を動かしてモヤモヤから逃げようとしたけれど、稽古は無し。
大河も親が車で迎えに来るからと、一緒に走ることも出来ず。
「先に言ってくれれば、バスケができる公園まで連れてったのになぁ」
「またひたすら大河のリバウンド練習の相手か?」
「いいじゃん。雅樹はシュート練習になるし。あと、ドリブル練習も見るぞ」
普段やらない動きなら、余計なことを考えなくていいと思ったけれど、ゴールポストのある公園が遠い。そもそも大河がいなければ、ボールもないから、何もできない。
それじゃあ、何をするか。
結果、自転車で市内をひたすら走り回った。
そして、気がつけば何度もマダム土田の絵画教室近くの幹線道路に出ては戻るを繰り返し。
シーナをひと目見たいような、顔を合わせたくないような、はっきりしない気持ちを抱えて、日が暮れるまで走り回った。
それで落ち着くかと思えば、翌日の秋祭り最終日にも、またシーナがやって来ないかと一日中そわそわして落ちつかなかった。
顔を合わせたら走って逃げ出したくなるのに、来るかもしれないと期待をしている。いつも通りにすればいいのだからと脳内シュミレーションをしようとして、いつも通りってなんだっけと謎の思考ループに嵌る。
余計な気持ちを消そうと奥歯を噛み締めて笑顔を作るが、玉城さんに「怖いし、それ、違う」と言われる。その後、変な顔になるたびに、ほっぺを掴まれてむにむにされ続けた。
大河はすっかり焼きそばとたこ焼きの虜になり、いつの間にか店に行く約束を取り付けていた。
中間テストが終わったら、2人で行くことにした。
「タイガーが高校生になったらうちでバイトだな!」
「また手伝ったら、現物支給で食わせてやるよ。なあ、初詣の出店希望、やっぱり出すか?」
「正月っすか?いっすよ。部活休みの日なら。今年は勝ちにいくんで練習増えるかもしれないっすけど」
その言葉で、大河が新人戦からバスケ部の主力メンバーになっていることを思い出した。強豪校とまではいかないけれど、準決勝まで勝ち進んでいることが多い。
大河は高校生になってもバスケを続けるんだろうか。それなら、バスケの強い高校に行くのだろうか。
じゃあ、僕は。
そこではたと思考が止まった。
親は大学に行ってもいいと言う。兄も一応大卒ではある。でも、大学に行きたいかと言われても、全然ピンとこない。
麗香さんは専門学校を自分の好きな事から、やりたい仕事へと繋げて選んだ。
じゃあ、僕は?
シーナはどうするんだろうか。
昔からなりたいものは、「雅樹のお嫁さん」以外で聞いたことがない。
それじゃあ、僕はシーナをお嫁さんにできるようにお金が稼げる仕事をするのか?公務員とか?学校の先生とか?
全然ピンとこない!
笑顔を作りながら、頭の中はずっとごちゃごちゃしていた。
また自転車で走り回ろうかと思っていたら、大河がスポーツジムの体験利用に行かないかと誘ってきた。
「筋トレのマシーンが結構いいらしいんだけど、一緒に行くか?」
「珍しいな……。そういうところ大河行くんだ」
「姉ちゃんが玉城さんと行ったところなんだけど、父さんが気に入ったみたいで。オープン記念で家族割があるから、入会するか考えてみろって」
屋台が予想以上に早く完売してしまったので、午後から大河とそこに行くことにした。
大河のお母さんの車に乗せてもらい、スポーツジムに着く。そして、マシン制覇と言い合いながら、ひたすら大河と筋トレに勤しんだ。
その勤しんだ結果が全身筋肉痛の朝なのだった。
「いててて」
動くたびに声をあげながら、なんとかリビングにまでたどり着いた。
「おはよう。……どうした。変な動きしてるな」
「階段キツい……。筋肉痛がひどくて」
「無料だからってやりすぎよ、あんた」
無料とかそういうことじゃないと、母さんに言い返そうとしたけれど、シーナのことでとか言うはめになるから、黙った。
「今週はシーナちゃんは先に行くんだっけ?油断して遅刻しないようにねー」
「しないよ、兄貴じゃあるまいし」
「あれは麗香ちゃんが絡むとポンコツ化するか、有能になるかの二極化だからなぁ……」
父さんの中での兄は常に変な評価をされている。有能って、料理くらいしか知らないけど。
「そういえば、夏樹がまた来るって。今、店舗改装で土日に休めるらしいんだけど………雅樹、来週から中間テストよね?」
「うん。今週後半からテスト前で部活も休み」
母さんがスマホを操作しながら、「それじゃあ、雅樹は夏樹に構えないけどそれでいいならって、送っとくわ」と、言ったので適当に頷いておいた。
僕に構ってないで、父さんと母さんと出かけて欲しいと心の底から思った。




