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24・アオハルの渦中はそれなりに大変(1/3)

 ***


 真っ赤になったまま固まっている雅樹くんにそうっと近づき、耳元で「わっ!」と声を出してみた。


「うわあ!」

「やほー、雅樹くん。戻ってきた?」

「た、玉城さん!なんですか?!」


 テント裏に戻った悠河ちゃんの代わりに来たけれど、これは。


「告白されたの?それで断る前に追加で何か言われた?」

「……な、ち、違いますよ!」


 動揺してる!アオハルだね!


 弟の成長を見守るような気持ちってこういうものだろうか。

 口元が弛まないように気をつけよう。


 しかし、これだけは言っておかなければならない。


「二股とかハーレム願望とかないと思うけど、その時は教育的指導をするからね?体に」


 何言ってるんだこの人と言わんばかりの怪訝な顔で、雅樹くんが私を見てくる。

 うん。これなら大丈夫だろう。


 思わず笑顔になる。


「それより、早くご飯に戻りなよ。だんだんお客さん増えてきたし、ソフトドリンクの追加が届いたからコップ売り再開するって」

「あ、はい、すみません、わかりました。

 あとこれ、武田さんがみんなで食べてくれって」


 雅樹くんが渡してきたのは、多江おばあちゃんの息子さんが営む和菓子屋の紙袋だった。


「わぁ、このお店。雅樹くんが休みの時に1回食べたよ。清野さんが持ってきてた」

「へえ、そうなんですか」

「うん、なんか清野さんと多江おばあちゃん、仲良くなったみたいなの」


 小さい時から還暦オーバーの先生たちに囲まれて合気道を習っていたせいか、おじいちゃんおばあちゃんっ子の感覚が分かる。きっと清野さんもお年寄りが身近だったのだろうなぁ。


 紙袋の中を見ながら、ふと思い出したので言ってみる。


「そういえば、さっきシーナちゃんと一緒にいた人、私と同じ大学の人だよ。

 シーナちゃんも同じ大学に来るのかなぁ」


 お父さんのエミル教授がいるけど、学部が違えばそれほど会うこともないだろうから、可能性としてあるかなぁ。そんなことを軽く言ってみた。


 すると。


「……さぁ、おおすみさん、とか言ってましたが、知らない人なので」


 急に雅樹くんの声が低くなった。怪訝に感じて顔を紙袋からあげると、目が笑っていない。


「……雅樹くん?」

「大河が焼きそばを気に入っていたので、買ってから戻りますね」


 にこりと口元だけはいつもの笑みを浮かべて言った。え、いや、だから、目が笑ってないんだけど。


「………さっき悠河ちゃんも買って行ったよぉ」


 思わず小声になってしまうが、さっさとテントに向かっていった雅樹くんには聞こえていなさそうだ。

 自分で会計も済ませて、焼きそばを2パック手に持つと、テントの裏へと消えてしまった。


 明智先生がニヤニヤとした顔で笑ってこっちを見ている。

 ああ、これは楽しんでいる。


 ため息をつくと、嬉しそうな顔で待つ明智先生の方へと足を向けた。



 ***



 焼きそばを持って大河と悠河さんの待つ休憩所に戻ると、すでに別の焼きそばを食べていた。


「なんだ、買いすぎちゃったな」


 手に持った2つの焼きそばを見ながら言うと、もごもごと口いっぱいに頬張ったまま大河が手を伸ばしてきた。


「ふふ(食う)」

「え、食べるの?大河、もうやめておきなよ」

「……うわ。何皿目だよ、それ。大河、持ち帰って食べればいいよ」


 大河から隠すように焼きそばのパックを悠河さんが持参していたエコバックにしまう。


「これは先に家に持ち帰るから。帰ったら食べな?ね?」

「……む。わかった」


 ようやく飲み込み終わった大河がしぶしぶといった雰囲気で頷く。


「この焼きそば、ここじゃないと食べられないのか?」

「たぶん、お店に行けば食べられるはず。変な名前の定食出してる店の隣りなんだけど……」

「あぁ、ごめんなさいとかそんな感じの。あの店の隣りか。

 うん分かった」


 神妙な顔でうなずく大河の横では、悠河さんが帰り支度を始めていた。


「悠河さん、帰るんですか?」

「うん、ちょっとシーナと約束したから。先に帰るね。大河、こっちのお皿だけ持って帰ってきてね。食べ物はいたむと困るから持って行くね」

「いいけど。姉ちゃん、迎えの車はそのままにしてくれよ。俺、バス代残ってないから」


 焼きそばを諦めた大河は、持ってきた飲み物を勢いよく飲み始めた。焼きそばしょっぱいからなぁ。


「お母さんの仕事帰りだからそのままにしておくって。いざとなったら走って帰ってくれば?」

「あ、あの!シーナの、ところに、行くんですか?」


 今にも帰りそうな悠河さん慌てて聞いてみた。


 さっきは武田さんに言われたことで頭がいっぱいだったけれど、シーナが来てくれたのにすぐに連れて行かれてしまった。

 咄嗟にシーナから避けてしまって気まずい思いがある。

 それに、あの男の人は。


「……おおすみさんって、誰なんですか?マダム土田の教室でバイトしてるっていってましたけど」


 それは間違いがないんだろう。土田先生に見せてもらった教室で描いたという素描。それに描かれていた男性の方にそっくりだったから。


 でも、シーナに服を被せて、そのまま連れて行けるような関係だとは聞いていない。


「………お、落ち着いて。雅樹くん。ステイ」

「落ち着いてますよ」

「いや、雅樹、そのパターン初めて見たけど怖いぞ」


 怖いって何がだよ。



( ;´Д`)大河にもっと食べられるよ!と、お店の情報を教えつつ、今週発売された村崎羯諦様の『生まれてきてごめんなさい定食』(https://ncode.syosetu.com/n6244hn/)の短編集が逆飯テロすぎて面白かったので、思わず打ち込んでしまいました……!お祝い!お祝いだからどうぞお目こぼしを……!

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