表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

82/101

23・あなた誰ですか(3/3)

 シーナを車の後部座席に押し込めて、他の人たちが追いかけてきていないことを改めて確認すると、ほっと安堵の息が出た。


「大隈研吾さん、ナイスカバーでした!

 今度から服を被せて、走って逃げます!」

「普段からこんな感じなの……?」

「いえ、たまに。です」


 ちょっと遠い目になった研吾さんに頭を下げて、シーナに軽く手を振ってから、屋台のある方へ戻った。


 飲み物を回収しに、玉城さんの隣りにまでいくと、腕をとられた。


「ねえ、悠河ちゃん、さっきシーナちゃんと王子を追いかけていかなかった?」


 興味津々といった顔で、玉城さんがぎゅっと腕に絡みつく。


「王子?誰ですかそれ」

「うちの大学の有名人。ていうか、私の友だちがファンなだけなんだけどね」


 王子……。最近の異世界恋愛のコミカライズだと色々なビジュアルの王子がいるよなぁ。白馬に乗った白タイツとかもう無いよなぁ、と思わず違う思考に飛びそうになった。


「さっきの大隈研吾さんですか?」

「そうそう。見た目がいいでしょ?同じ授業を1年の時にとっていたけど、あの人見たさに選択してる人が結構いたんだよ」

「へぇー。

 あ。なるほど、だからシーナに免疫があるんだ」


 自分がキラキラ王子様なら、シーナに執着しなくても十分満たされているんでしょうね。よく分からないけれど。

 なんならさっき初めて会ったばかりだから、本当によく分からないんだけれど。


「玉城さんも、ああいう人が好みですか?」

「ううん、違う。私はどちらかっていうとエミル教授みたいな人がいいな」

「うわぁ、年上好きですか」


 色々な意味でハードルが高い。

 玉城さんの理想の高さにちょっと慄いた。


 シーナのお父さんであるエミル教授は、異国から来た在原業平と言われるほどに、女性人気が高い。

 高身長も加わった見た目、物腰の柔らかさ、そして美声の低音ボイス。


 私には読めない仮名文字の並んだ和綴の本を、いつも楽しそうに読んでいる印象が強いけれど、そこから平安貴族の美の心とか読み取っているからすごいなと思う。


 何冊か本を出しているらしいけれど、「まだちょっと早いかな」とやんわりと止められた。

 ヤンデレに鍛えられているから、大丈夫だと思うんだけどなぁ。


「小さい時から道場で年配の方達に可愛がられていたせいかもね」

「なるほど」

「悠河ちゃんはどんな人がタイプ?」


 突然女子トークで恋バナを投下されるとは思わなかった。


「タイプ……」


 改めて考えると、中学の時のパワハラセクハラ教師とか、流浪の旅に出る前は毎晩のようにお父さんと喧嘩していた兄の江河くんとか、シーナにまとわりつく変態たちとか、ろくな男がいない。


 そういう意味なら雅樹くんみたいに一途な男の子っていいよね、となるが、シーナあってこその雅樹くんの良さなので、タイプであるとは言えない。


「うーん。

 高圧的な態度をとらなくて、両親と仲が良い一途で良識のある人ですかねぇ」


 とりあえず、思いついた嫌な例を反対にしてまとめてみた。


 すると、玉城さんは「うわ、悠河ちゃん、理想高すぎるよ」と、ドン引きしていた。


 解せぬ。



 ***



 シーナが連れ去られた後、武田さんに法被の裾をつままれた。


「あの、雅樹せんぱい」


 シーナを追いかけようとした勢いは、武田さんの指先で止められてしまった。


「……雅樹せんぱいは、シーナさんのこと、どう思っているんですか?」

「どう、って?」

「私、雅樹せんぱいが、たぶん、初恋だと思うんです。だから、これが好きっていう気持ちだと思うんですけど。

 ……雅樹せんぱいのシーナさんへの気持ちって、どういうものなんですか?」


 どういう気持ち。


 シーナについて初めて言われた。

 今まで周りには、小さい時から仲の良いふたりとして扱われてきた。兄と麗香さんと違って、僕らはいつも一緒にいた。

 今までもそうであったように、これからもずっと一緒なんだろうと思っていた。


 そこに気持ちの種類の違いがあるなんて、考えたこともなかった。


 シーナは大事で、傷つけたくなくて、いつもそばで笑っていてくれるのが一番安心する。


「兄弟とか、親とか、家族に思う気持ちとは別のものだって、私は気がついたんですけど。

 雅樹せんぱいも、そうなんですか?

「それは……」


 シーナは好きだけど、その好きは、家族に当てはめても通用するような好きの喩えしか出てこないことに気づいた。


 迷ったように言葉が出てこない僕を見て、武田さんはまっすぐに僕の目を見て言った。


「私は雅樹せんぱいをシーナさんに渡したくないです。

 一緒に仲良くとか、できません。

 ただ、それだけ、なんですけど」


 最後まで言い切った途端に、爆発しそうなくらいに顔が真っ赤になった武田さんは、「そ、それだけです。それじゃ」と言って、小走りで離れていってしまった。


 紙袋を持ったまま、その場で固まった僕は、改めて武田さんに言われたことを思い返して、赤面した。


 ドア越しの告白よりも、今日の方がいろいろと凄かったと思うのは、僕の気のせいだろうか。



(*´ー`*)武田さんのポテンシャルの高さに驚いております。雅樹がチョロインになってる。どうしよう。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[一言] 恋の一番厄介なところって、人によって形が違うところだと思います( ˘ω˘ )
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ