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23・あなた誰ですか(1/3)

 見たことのない服を着たシーナが、まっすぐに歩いてくる。

 赤い唇をきゅっと引き結んで、僕を見つめながら。


 一昨日の登校の後から、ずっと会っていなかった。学校行事以外で、こんなに顔を合わせずにいたのはいつ以来か、わからないくらいだ。


 これまでなら、僕はシーナに駆け寄っていただろう。でも、今はなぜか武田さんと話していたのをシーナに見られてしまったと思ってしまった。


 どうしよう。なんだかわからないけど、今、僕はすごく動揺している。焦っている。


「雅樹」


 あっという間にシーナが目の前にやってきた。あれ?いつもと違って、シーナの方が目線が高い。靴のせいかと思って、下を向くと。


「……雅樹?どうして目を逸らすの?」


 低い声でシーナが言った。


「え?」


 驚いて顔を上げると、さらにシーナが近づいてきた。僕のつま先まで、足を踏み込む。


 いつものシーナと違う香りがする。香水?


 急にシーナが大人の女の人になった。


 そんなことを思ったら、シーナが僕の腕をとろうと手を伸ばしてきた。反射的に後ろに下がる。


「あ」


 自分でも予想外の反応をしてしまって、思わず声が出た。

 シーナもびっくりしたのか、大きな目をさらに大きくさせて、僕を見ている。


 すると、僕の横から大きな声で「シーナさん!」と武田さんが呼びかけた。


 武田さんは僕の手から紙袋をひとつ奪うと、シーナに向かって突き出した。

 勢いがそのまま菓子箱の入った紙袋に伝わって、揺れている。


「あの!雅樹せんぱいに、お饅頭の餡子に古いものを混ぜてしまったことを伝えました!

 これ、シーナさんへのお詫びのお菓子です! だから、もう秘密にしなくて、いいです!」


 そして勢いよく頭を下げた。


 呆然としたまま、シーナは紙袋を受け取ると、「……もう、しないでね」と、力無く答えた。


「はい、もうしませんので!それはちゃんとお店で買ったものですから……大丈夫ですよね?」


 そう言った時、武田さんはシーナと目を合わせてから黙った。

 なんだろうと思っていると、シーナは苦いものを飲んだような顔で、「……そう、ね」と、しぶしぶといった感じでうなずいた。


「……それじゃ、雅樹せんぱい、そのお菓子、みなさんで食べてくださいね」

「え、あ、うん。大河たちと食べるね」

「はい!」


 緊張したような表情だった武田さんが、気がゆるんだようにふにゃりと笑ったので、つられて僕も笑みがこぼれた。


「雅樹……あの」

「シーナさん!アウト!帰るよ!」


 シーナが何か言いかけた時、それを断ち切るように若い男の人がシーナの頭から服をかぶせた。


「なんでこんなにすぐに人目を集めちゃうんですか!面倒なことになる前に帰りますよ!」

「え、あの、すみません。あなた誰ですか」

「あ、こんにちは。雅樹くん、かな。土田先生の絵画教室でシーナさんと一緒にバイトしている大隈(おおすみ)です」


 にっこりと笑うと、「シーナさんが騒動を起こしそうなので連れて帰りますね」と言って、シーナの肩に腕を回すと、そのまま来た方向へ戻ろうとした。


「あの、ちょっと待ってください!」


 慌てて声をかけるが、その人は足を止めることなく、あっという間に玉城さんたちのいるテントを通り過ぎて見えなくなってしまった。


「……なんなんだ、あの人」


 武田さんが隣にいるのも忘れて、僕はシーナたちが消えた方向をただ呆然と見ていた。



 ***



 シーナがやばいと思ったのは、私だけじゃなかったようだ。


 さっきまでのんびりとしていた人たちが、落ち着きなくシーナに視線を送っている。

 何人かは、シーナの方に近づいていきそうな動きをし始めている。


 なぜかシーナに魅入られる力が強い人ほど、直接シーナに触ろうとする。スマートフォンでの撮影も困るけれど、実力行使に走る奴らが一番困る。


 そう思った時には、少し年上くらいの若い男の人が動き出していた。


 ショルダーバックから何か取り出して、シーナの方に駆けつけたと思ったら、そのままかぶせて連れ戻している。


 誰だ、この人。


 立ち止まることなく屋台を出している道場の駐車場から出て行こうとしたので、急いで後を追った。

 その時、雅樹くんのいる方向を振り返ってみたけれど、びっくりした顔のまま固まっていた。


 まあ、びっくりするよねー。

 あのシーナが抵抗もせずについて行ってるだけで驚きだもの。


 だから、シーナにとって害をなす人ではないんだろうなぁとは思うけど。それはそれ。


 一体、この人がなんなのかわからないまま、シーナに何かあったら困る。


 追いかけていくと、近くのコインパーキングに着いた。丸っこい車の鍵を開けようとしていたので、急いで駆け寄った。


「あの!すみません!その子の友だちなんですけど!」


 威嚇になるように、あえて大きな声を出してみた。

 やましい気持ちがないからか、その男の人は、あっさりと返事をした。


「こんにちは。

シーナさん、お友だちが来たよ」



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