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22・魔王襲来(3/3)

 武田さんを連れて駐車場スペースの端っこへと移動する。

 何て言えばいいんだろうか。

「好きです」の答えは、何が正しいんだろう。


 武田さんは嫌いじゃないけど、女の子として、付き合うという意味での「好きです」を僕は持っていない。


「あの、雅樹せんぱい」

「は、はい!」


 はっきりした言葉が思いうかばない内に、武田さんが意を決したように話し出した。


「……本当にごめんなさい。あの時、お饅頭に入れてはいけないのに、入れてしまって……」

「お饅頭に?」

「はい」


 俯いていた武田さんが、顔を上げる。


「私が家で試しに作った餡子を、あの時持ち込んでしまって、それで作ってしまったんです」

「え?持ち込み?」

「はい。日にちが経っていたのに。……美味しくできたと思って、多江おばあちゃんには内緒で。

 それが雅樹せんぱいのお饅頭の中に紛れ込んだみたいで。それで、シーナさんのお腹が壊れたみたいで」


 告白の返事ばかりを考えていた僕は、武田さんの言っていることが理解できず、思わず黙ってしまった。


「私もお腹を壊してから気がついて。

 ……シーナさんには申し訳ないことをしました」

「え、と、つまり、シーナの腹痛の原因は武田さん?」

「はい。その話をこの間しました。雅樹せんぱいには、言わないでいいと言っていたんですが、シーナさんに申し訳なくて。それに、間違っていたら雅樹せんぱいが食べていたと思うので、黙っているのもよくないなって」


 あれ?告白されたのって、僕の勘違いだったのかな。

 それならそれで。


「うん、分かったけどなんで僕に?」

「午前中に多江おばあちゃんのおつかいでスーパーに行った時に先輩を見つけて。

 多江おばあちゃんにはもう話していたので、それなら謝っておいでって。でもシーナさんは学校にはしばらく来ないと土田先生から聞いたので、雅樹せんぱいに代わりに渡してもらおうかと思って。

 ……あの、お饅頭のお詫びに餡子の入ったお菓子というのも、その、よくないなと思ったんですが、やっぱりこれが一番美味しいので、和菓子なんですけど……シーナさんに渡しておいてください」


 顔を真っ赤にさせながら、もごもごと言った武田さんは、僕に紙袋をひとつ手渡してきた。

 そして、もうひとつあった紙袋も僕に突きつけるようにして、渡してきた。


「……あと、もう一つはみなさんで召し上がってください。多江おばあちゃんが楽しかったからまたやりたいって、張り切ってて……」

「うん、ちょうど大河たちも今来ているから、いただくよ。

 あ、武田さんも一緒に食べていく?」


 今までに見たことのない焦った様子の武田さんを見て、告白の返事をしなきゃと慌てていた気持ちが落ち着いてきていた。

 たぶん、武田さんに好意を向けられて、僕はそれほど嫌な気持ちにはなっていなかった。ただ、答えられないのが悪いなと思って、困惑していただけだった。


 そんな余裕を持った途端、武田さんがさらに顔を真っ赤にして、言った。


「……あと、告白の返事は、もう少し、待ってください。

 あの時、言ったことに変わりなないんですけど……あれから、色々と考えて、もう一度気持ちを整理したら……ちょっと、その、自分の中で雅樹せんぱいへの気持ちが、その思った以上に、す、好きだと気がついたので、今、混乱していて……だから、もう少し、待って欲しくて……」


 最後は途切れ途切れに言うと、耐えきれなくなったように両手で顔をおおってうつむいてしまった。

 頭を下げた武田さんのつむじが見えて、日焼けではない色で真っ赤になって見えた。


「え」


 動揺して、視線を少し外すと、両手でも隠せなかった耳が、髪の毛に半分隠された状態でも真っ赤になっているのが見えて。


「え」


 武田さんの動揺した気持ちが移ったのか、僕も顔が熱くなったのを感じた。

 その熱が刺激したのか、鼻先の匂いをいつも以上に嗅ぎ取った。目の前で俯く武田さんの体から出る熱に煽られたように出てきた、女の子の肌の匂いが、僕にかつてない熱を与えた。


「えと、その」


 今までに知らないざわざわとした感覚。

 小学生の時に、ふざけながらおしくらまんじゅうのように、男女入り混じって体を押し合った時には、他の人の体臭は、そのままただの体臭だったのに。


 目の前で真っ赤になって俯く武田さんからは、紛れもなく女の子の匂いがして。

 それに動揺している僕がいて。


 ドア越しの告白の時にはなかった目の前の武田さんの姿と匂いで、落ち着かない気持ちになった。


 どうすればいいんだろう。

 渡された2つの紙袋を急に汗ばんだ手で握りしめて、視線は行き場を失ったように、うろうろと樹木の根本をさまよった。


「……え、と、じゃあ、返事は、また別のとき、で」

「……はい、お願いします」


 沈黙に耐えきれなくなって、吃りながら答えると、武田さんも両手で顔を覆ったまま、くぐもった声で答えた。


 そうだ、玉城さんたちにもお菓子を分けよう。


 動揺したまま、次に何をすべきか考えて、顔を上げると、スカートをなびかせて、真っ直ぐとこっちに向かって来るシーナの姿が目に入った。


「え、シーナ?」




(*´ー`*)サブタイトル回収。

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