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22・魔王襲来(1/3)


***


「……あの、ちょっとだけ、いいですか?ここじゃ話せないので、あの」

「……うん、それじゃあ、うん、あっちの方で。

 悠河さん、先に戻っててください。残りは、後で僕が持って行くので」

「あー、うんうん、わかった。気にしないで行ってきなよ、雅樹くん」


 もじもじと紙袋を持つ指先を見つめるように伏し目がちな武田さんと、何か含むところがありそうな返事をする雅樹くんに、ひらひらと手を振る。


 2人はテントから離れて、道場用の駐車場隅にある細い樹木の影へと移動していった。


「……うわぁ、なんかアオハルっぽいわぁ」

「あ、玉城さんもそう思いますか?」

「お饅頭教室にはなかった空気感があるね。告白でもしたのかな」


 法被姿で腕を組む玉城さんが、堪えきれないように口の端をむずむずさせている。

 隣に立つ白髪の先生は、私たちの会話を何も聞いていないような顔で穏やかに微笑んでいる。


 ふむ。スルーしてくれるならありがたい。このまま女子トークだ。


「武田さん、この前のときより、かわいい服を選んできましたね」

「うん。あの日はお饅頭作るから動きやすさ重視だったんだろうけど、今日はなんか何か違うね」

「あ、玉城さんもそう思いますか?」


 昼のピークを越えたテント前の広場は、買いに来るお客さんもまばらで、休憩用に設置したベンチでそれぞれ出店で買ったものを食べたり飲んだりしている。

 小さな子どもたちは、他の屋台で買った戦利品で遊んだりと、大変のどかな風景が繰り広げられている。


 そんなのどかな祭りの風景の端っこで、アオハルな空気の中学生男女。


「なかったわー。あんな感じの中学時代、なかったわー」

「私も見てるだけでしたねー」


 そして、それをニヤニヤしながら甘酸っぱい思いで見ている女子高生と女子大生。それが私と玉城さんだ!


 雅樹くんが武田さんに告白されたことより、シーナとのキスで混乱中だというのは知っている。知ってはいるが、推しの1人が初めて告白されて、もじもじしている女子にどう対応するのかを見たいという欲望を隠すつもりもない!それが私だ!


「ねー、悠河ちゃん。雅樹くん、なんて言ってるのかな」

「えー?やっぱりここは『シーナがいるから付き合えない』と言って欲しいところですねー。無理っぽいけど」

「雅樹くん、ハーレム願望無さそうだよねー。もしあったとしたら、先輩として教育指導しないといけないねー。物理的に」

「物理的に」


 爽やかに折檻宣言した玉城を思わず見てしまうが、雅樹くんに紙袋を渡す武田さんの動きが見えて、慌てて視線を戻した。


 細い樹木の影で、2人の顔は見えない。


「あれ?あの紙袋……たしか多江おばあちゃんの息子さんの菓子屋、かな?」

「おや?それじゃあ、ただの差し入れ?んん?もう一つ渡したよ?」

「告白の返事待ちじゃなかったのかな?」

「…………告白の返事?」


 玉城さんと違う方向から返事が聞こえたので、びっくりして振り向くとテント前の日陰に、いつの間にかシーナが立っていた。


「ねぇ、悠河。雅樹はなんであの子と2人きりになっているの?」

「え……と、呼び出しが?あって?」


 振り向いた先には、無機質な青い目のシーナ。

 涼しげなシースルー素材で首元から腕が覆われているけれど、胸元が強調されているワンピース姿で、やけに人形じみて見えた。

 頬のあたりで切り揃えられた姫カットが風に吹かれて、シーナの周りだけ冷気が漂っている。


「……シーナ、コルセットしてるの?なんか、姿勢がいつもよりすごいぴしっとしてる」

「……別にしてないけど」

「……そ、そう」


 ここ最近は見ていなかった臨戦態勢のシーナ。

 前よりも妙に迫力が出ている気がする。

 思わず視線が泳いで、シーナから目を逸らすと、シーナの方にひとりの男の人が歩いてくるのが見えた。


「シーナさん、車はそこに停めたから……あ、こんにちは」

「こんにちは……」


 その人は薄いグレーのポロシャツにチノパンと、シンプルで着飾ってもいない姿なのに、全体的に整って見えた。

 身長も高く、顔もいい。清潔感もある。

 私たちに軽く会釈をして、ショルダーバックを肩にかけながらシーナの隣に立つ。並んで立っただけなのに一枚のポスターのように、さまになって見えた。


「1時間くらいで戻るけど、ミセス土田の約束は守って」

「そこに雅樹がいるから、話してくる」

「……シーナさん?」


 話しかけられたシーナは、近づいた男の人に一方的に断りを入れると、そのまままっすぐ雅樹くんたちのいる方へと歩き出した。


 すっと伸びた背筋に、高めのヒールの靴。

 ふわりと揺れるワンピースの裾が、無骨なアスファルトの駐車場でひらめけば、そこはステージのように一瞬で違う空間を作り出した。


 いつものシーナと違うシーナ。


 それぞれベンチでのんびりとしていた人たちの視線が、シーナに集まる。食べかけのたこ焼きを口元に運ぼうとして、止まるおじさんたち。

 飲みかけのペットボトルを手にそのまま固まるお姉さんたちとはしゃぎ回るのをやめる子どもたち。


 みんながシーナを視界に入れた後、目が離せなくなっている。


 あ、これ、やばい。


「うわ、これ、ダメだ」


 あれ?心の声が漏れた?




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