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21・休日は狙い目(談・同中女子)(1/2)

「たこ焼き、焼きそば、出来たてだよ〜」

「雅樹くん!たこ焼きお持ち帰りで3つ追加!」

「はい!ソースかけたら出せます!」


 蒼天の下、のぼり旗に囲まれたテントの中で、焼き上がったばかりのたこ焼きを皿に並べる。

 かつお節がふわふわと舞うのを見ながら、爪楊枝を2本刺す。


「はい。おまたせしました。熱いので気をつけてくださいね」

「……うん!雅樹くんも熱中症に気をつけてね!」


 失礼にならない程度に笑顔を作り、たこ焼きの皿を渡すと、化粧をした(たぶんクラスメイトだと思われる)女の子が顔を真っ赤にしながら、冷えたスポーツドリンクを渡してきた。


「お代はいただいてるので」

「あ、あの、休憩中に飲んでね。そこの自販機で買ったから、冷たいし」


 上目遣いで僕を見る女の子の後ろにはお客さんが並んでいて、隣りで焼きそばのパックを袋に詰めている玉城さんが「もういいから早くもらって帰らせろ」と視線で言ってくるので、お礼を言って受け取った。


「ありがとう。えーと」

「クラスメイトの心愛です……またね!」


 そう言って、友達と思しき女の子たちのいる所へと走っていった。

 みんなでたこ焼きを食べるかな。きゃあきゃあと楽しそうだ。



 大河の家に泊まった翌日は、午後から道場の駐車場で、出店の準備をした。

 テントを建てたり、鉄板を運んだりと中々の重労働だった。


「筋トレやる?」

「やる」


 大河も手伝いに駆り出せたので、思ったよりも早く終わった。

 そのおかげで帰り際、明智先生に1時間ほど稽古をつけてもらえた。


「少しは、落ち着いたようだね」

「……どう、なんでしょうか」


 エミルおじさんとミセス土田の力技で、1週間はシーナと登下校を一緒にする必要がなくなった。

 ただ目の前から問題を隠しただけのような気もするけど。

 とりあえず、それなりに眠れたし、いつも通りに稽古もできるくらいにはなった。


 3連休の間は、シーナはミセス土田のところに泊まるそうだし、僕も秋祭りの出店の手伝いで忙しい。

 シーナにされたキスの感触を突発的に思い出す回数も減っているから、明智先生の言う通り、少しは落ち着いてきているんだろう。


 先生たちが手慣れた様子でたこ焼きと焼きそばを作っていく。

 くるくると回す手元を見ながら、そろそろ取り出す頃合いかなと見当をつける。

 秋祭りの手伝いは、中学生になってからなので、焼いたりする係を担当したことはない。


 むしろ、たこ焼き屋と鉄板焼きの店をそれぞれ営む先生たちに、手さばきや味で勝てる気もしない。


「最近は店も人に任せてばかりだから、腕が鳴るな……!」

「もっちもちの新開発焼きそばを忘れられない体にしてやるぜ……!」


 嬉々として先生たちが朝から暑い鉄板の前に立っている。


「むさ苦しいおっさんたちが作ってても、玉ちゃんと雅樹くんが売ると美味しそうに見えるね」

「明智先生、聞こえますよ」

「本人たちが言っていたから、大丈夫だよ。

 雅樹くん、なんだか今日は貰い物が多いね」


 皿やパックなどの補充で裏方仕事をしている明智先生が、僕の後ろの方に視線を向けた。

 折りたたみテーブルの上には、午前中からの貰い物がひと塊りになって置いてあった。


「SNSでここの画像が出ていたみたいで。それを見た中学校の人たちが来てるみたいです」

「ふぅん。それにしてもすごい数だね。女の子ばかりだし」

「男子も来てますよ。たこ焼きと焼きそばを買って食べてました」


 そういえば、「……焼きそば、焼きそば」とうわ言のように言っていてちょっと怖かった。あのソースに何か薬でも入っているんだろうか。

 リピーターの数に負けていると、たこ焼きの方にも何か入れ始めていたし、また忙しくなりそうな気がする。


「玉ちゃんがもうそろそろお昼を食べ終わるから、雅樹くん交代で休むようにね。その間は私が売り子をしよう」

「はい、ありがとうございます。

 あ、友だちが来るので、もし休憩時間に当たったらすぐ戻ると言ってください。玉城さんも知っている人たちなので」

「そう。その時は休憩所の方に通すとしよう」


 穏やかに答える明智先生が、空を見上げた。


「今日はいい天気だね。トンボも気持ち良さそうに飛んでいる」


 道場にいる時と違って、柔らかい顔で笑う明智先生は、楽しそうに目を細めた。


 僕も同じように空を見上げた。

 彼岸の週の空は、高く青く澄んでいて、シーナの瞳を思わせる美しさだった。

 シーナはどうしているのかな、帰りにたこ焼きを届けに行ってもいいかなと、混乱の答えも出ていないのにシーナに会いたくなった。


「あ、すみませーん!たこ焼きください!」


 ぼんやりと明智先生と空を見上げていると、いつの間にかお客さんが来ていた。

 慌てて「すみません、たこ焼きですね」と、言いながら視線を向けると、お客さんではなく、悠河さんがニヤニヤとした顔で立っていた。


「雅樹くん、法被着てる〜。レアだねー。撮っていい?シーナに送るから」

「いいですけど、シーナに会う予定があればたこ焼き持たせますよ」

「ううん。今日は無いからいいよ。あ、大河ー!こっちこっち!」


 少し大きめのデザインTシャツを着た悠河さんが、頬にかかる髪を払いながら、後ろの方に手を振った。

 黒いキャップをかぶったTシャツジーンズ姿の大河が両手に袋を下げて近づいてきた。


「買ったものは自分で持てよ……!」


 うんざりとした顔で、大河が言った。



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