20・女子たちの裏側を垣間見る(4/4)
*
武田さんを見送った後、教室に入ろうと一歩足を踏み入れた瞬間、何人かの女子からの視線を感じた。
ふいっとすぐに逸らされたが。
「……雅樹に片想いしてる奴らか」
一瞬で理解して、ため息をはいた。
武田さんが雅樹のところに来たと警戒していたのだろう。
抑え込まれた恋心ほど、よくわからない方向に動き出すと、最近ようやく学習した。
俺だってバスケがしたいのに、バレーボールやハンドボールを渡されて、「これでいいでしょ?」と言われたら、相手の顔面にボールをぶん投げてしまいたい気持ちになる。
ましてや、対人関係の感情。
俺には理解できない上に、ものすごい強い感情であるのは分かった。
だからこそ、雅樹のためにもこのまま抑え込み続けると危険だと感じたのだ。
ただ。
「……去年からのを考えると、すでに手遅れになってるような気もする」
まぁ、ハーレム漫画じゃあるまいし、校内で雅樹が女子の集団に追いかけられるなんてことはないだろう。
雅樹が困ったら、相談にのってやろう。
とりあえず、昼休みの時は、そう考えて終わったのだった。
「なぁ、大河。今日泊まりに行っていい?」
「へ?いいけど、合気道は?」
「休み」
「へぇ。珍しい。いいよ、部活終わったら一緒に帰るか?」
5校時目を終えて、雅樹が珍しいことを言ってきた。
何度か泊まりには来ていたが、だいたいは週末で、何日も前から決めてから来るのがパターンだった。
しかも稽古も休みとは。
よほど追い詰められているらしい。
「うん、それまで図書室で課題やってる」
「あー。親には言っておけよ?」
「一度家に寄るから」
雅樹の家は俺の通学路の途中にある。泊まると言っても、歯ブラシくらいしか用意するものはない。だいたいは俺の家にあるものを貸して済ませている。
簡単な取り決めをしてから、放課後に待ち合わせ場所を決めて別れた。
今日は体育館が使えるので、バスケットシューズをはいて、更衣室から出た。
ボールを取りに用具室へ入ると、開いたままの小さな窓から話し声が聞こえた。
ベッタベタな体育館館裏への呼び出しって、マジであるのか。
漫画みたいな展開やってるなーと思ったが、そのままボールかごを押して出て行こうとした。
しかし。
「……武田さん、だっけ?どういうつもり?」
……知ってる名前が、不穏な女子の声色で呼ばれてるのを聞いてしまったら。
「どう、とは、なんでしょうか」
そして、昼休みに話したばかりの1年後輩の女の子が、戦闘モードで応対しているのを聞いてしまったら。
……思わず聞き耳をたててしまうのも、仕方ない、と思う。
「ねぇ、昨日シーナ先輩に注意されてなかった?」
「注意ってなんですか」
「雅樹くんに近づくなとか、言われていたでしょう?
転校してきたばかりのくせに、雅樹くんにまとわりついて。
身の程を知りなさいよ」
なんか似たような漫画を最近読んだような。
妙な既視感を覚えるけど、なんだっけ。
だいたいが姉の漫画だと予想はついているが。
「身の程ってなんですか。同じ学校の生徒ですよ?
それに、部活の先輩後輩なら、それなりに関わりがあってもおかしくないと思います」
武田さんの声が固い。
複数の先輩女子に囲まれていたら、まぁ、怖いよな。
「そう?他の男子にはそんなに関わっていないじゃない。
それに休みの日にまで会ってたんでしょ?
雅樹くんにはシーナ先輩がいるんだから、まとわりつくのはやめてよね」
……やっぱり、何か、既視感が。
「あ」
思わず声が漏れたので、慌てて口を押さえた。
あー、なるほどねー。思い出した。
姉ちゃんが持っていた漫画だ。
悪役令嬢とか婚約破棄とか、ドレス着た貴族が通う学園もので、取り巻きたちがヒロインをいじめているシーンに似ているんだ。
「ぶふっ」
あいつら、漫画読んでるのかな。
同じことしてるって、気づいているのかな。
雅樹への告白妨害工作をもうしなくてもいいという解放感からか、じわじわと笑いのツボがハマっていく。
「雅樹くんが優しいからって、調子に乗らないでよね!」
「そうよ!」
やべえ。テンプレのセリフきた。
ここでまた何かきたら、吹き出す。
じっと身を固くして待っていると、武田さんが真面目な声で話し出した。
「シーナさんに言われたことは、シーナさんと私の問題です。
先輩たちとは何の関係もありません。
それに、こんなところで後輩いじめをしていないで、直接雅樹せんぱいに告白するべきだと思います」
「……何よ。それこそアンタには関係ないでしょ」
「私は告白しました。返事はまだですけど」
すると、武田さんを呼び出して取り囲んでいる女子たちが、ざわざわと騒ぎ出した。
「え、告白したら、怖い人たちに何かされるんじゃないの?」
「シーナ先輩と雅樹くんは付き合っているから、告白しても意味ないって……」
「……雅樹せんぱいとシーナさんは、付き合ってません。
そうなるかもしれないけど、それと私が雅樹せんぱいを好きな気持ちは、ぜんっぜん、関係ないです」
どこまでも武田さんが強い。
さすがシーナさんに真正面から立ち向かうだけある。
俺は笑いを堪えて立ち上がると、用具室のドアを力強く内側から開けて、大きな音を立てた。
そして、わざと体育館に向けて大声を出してみた。
「あれぇ?
おーい、ボールかごのキャスターが引っかかってダメだ〜!
誰か手伝ってくれ〜!」
他のバスケ部員たちが走り寄る足音が聞こえたのか、小窓からは、
「そ、そういうことだから!じゃあね!」
と、またまたテンプレにありそうな捨て台詞が聞こえてきたので、俺は笑ってしまった。
バスケ部の後輩たちが不思議そうな顔をしていたが、俺は文字通りに笑って誤魔化した。
「スリーポイント勝負やるか!」
「うわ、大河先輩がむっちゃ笑顔だ。こわっ」
窓を閉める時に外を見たが、もう誰の姿も見えなかった。
(*´Д`*)いつも読んでいただき、ありがとうございます。
pvの数字を見て読まれているぞ…!と、励みにさせていただいてます。
(*´ー`*)……でも、「いいね!」ボタン、押してもらえたら、ものすごく嬉しいぞと前々から思ってまして。完結してないから、まだ面白くないから、マイページの履歴に出るから……ポイント入れたくないなっていう場合でも、いいねボタンは作者が見るだけですから。
よければ「いいね!」を気が向いた時にでもお願いします……!




