表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

72/101

20・女子たちの裏側を垣間見る(3/4)

 それを見て、俺はため息をついた。


「今のところ、雅樹に言うつもりは無いから。

 シーナさんもバラすつもりは無い。ただ」

「ただ……?」


 おそるおそるといった顔で、俺を見上げる。

 そんなに怖がるくらいなら、最初からやらないで欲しい。

 食べ物に下剤を入れるなんてこと。


「雅樹に手作りのお菓子も食事も与えないでくれ。

 見つけたらその場でぶん投げる」

「え、それだけ?」

「絵ヅラとしては結構ひどいぞ」


 仮に汁物だったら、周りも大惨事だ。


「ああ、あと、その場で雅樹にバラすかもしれない」

「……もう、しませんよ」


 虚脱したような笑みを浮かべて、武田さんは場がもたないのか、指先で制服のスカートを掻いた。


「告白もできましたし、シーナさんの恐ろしさも知りました。

 でも、まだ終わりにしたくないんです。

 想い続けるくらい、いいですよね」

「それは俺に聞かれても……雅樹との問題だろうし」


 告白なんか、したこともされたこともない。何が妥当なのかもよく分からない。

 シーナさんに指示されて、雅樹が告白されないように学校で立ち回っていた。

 けれど、武田さんが告白した後の雅樹の反応を考えると、妨害し続けるのもよくないなと思った。


「あの状況で言えたのは、素直にすごいと思う。けど、正直言って怖い。

 それに武田さんは、結局は武田さんがやりたいようにやるんだろ?」


 あのシーナさんですら、手を出せなかった。

 なんだか分からないけれど、普通のおとなしそうな女の子ではないんだろう。


「恋する女の子は、強いんですよ」


 無理に笑顔を作った武田さんが言った。


「まぁ、そうなんだろうね。雅樹が大変になるだけだろうけど」


 最終的には、雅樹へ向けられた想いは、雅樹にしか解呪できない呪いのようなものなんだろう。

 周りがどう動いたところで、何の意味もないのだ。


 *


 昨夜、シーナさんから、姉の悠河のスマホに電話がかかってきた。


 俺への要件は、

「雅樹に手作りの食べ物を食べさせないで。

 あと、雅樹が傷つくから、武田さんのことは、言わないで」


 徹頭徹尾、雅樹の心配だけだった。


 シーナさんにとって、武田さんが告白したことよりも、目の前で俺にキスシーンを見られたことよりも、雅樹が傷つけられないかどうかだけが重要だった。


 シーナさんは、雅樹のことだけしか考えていない。

 つまり、雅樹を害する行為でなければ、基本的に反発されないということだと、改めて気がついた。


 だから、シーナさんに言っておいた。


「雅樹への好意があるなら、それを外野の俺が潰しちゃいけないんじゃないですかね。

 シーナさんだって、雅樹への愛を捧げられなくなったら、発狂しますよね?」

「それは、そう、だけど……」

「むしろ告白を妨害するより、雅樹に直接言ってもらってはっきり答えをもらった方が……雅樹にとっても相手にとってもいいと思いました」


 姉のスマホ越しに、シーナさんの沈黙が伝わる。

 ちょっと怖いけど、我慢した。


「……雅樹は、武田さんと、付き合うの?」


 予想通り冷えた声が返ってきた。


「いえ、そんな感じじゃなかったです」


 むしろシーナさんとのキスに、動揺しまくりでした。

 だが、これは男同士の会話なので、言えない。

 相談にのるって言ったしな、俺。


「学校で雅樹がシーナさん以上に気持ちを持ってかれている人なんて、見たことありません。

 告白をされても付き合いそうな相手はこの学校にはいませんよ。

 ……シーナさん、雅樹を信じてくれませんか?」


 ホラー映画よりも恐怖の沈黙に、俺は耐えた。

 たっぷり50を数えたころ、


「……わたしが、決められることじゃないから」


 と、感情を押し殺した声が返ってきた。


 それでも、通話が切られていないなら、聞き入れてもらえる余地がある。

 そう思った俺は、勇気を出して言った。


「雅樹への告白の妨害は、もうしません。

 ちゃんと告白して振られた方が、雅樹にとってもいいし、相手にとっても気持ちを引き摺らないと思います」

「……わかった。でも、雅樹が傷ついたら、止めて。お願い」

「わかりました。それじゃ」


 通話終了のボタンをタップして、重い息を吐いた。

 そばで様子を見ていた姉の悠河が、心配そうに見ていたが、とりあえず俺は初めての交渉がうまくいったことに安心して、脱力してソファに寝そべった。


「……ねぇ、何があったの?」

「シーナさんの目の前で雅樹が武田さんに告白されて、その後シーナさんが雅樹にキスして彼女と認めろと詰め寄ってた」


 まとめてみると中々の修羅場だ。

 それを何で砂かぶりのアリーナ席で見る羽目になったんだろう。

 頭が痛い。


 ふと、急に黙ってしまった姉を見上げると、

「……うわぁ、何それ、ちゅーしてたの?うっわぁ……」

 姉にとって楽しそうなところだけピックアップして、妄想ドリームに入っていた。


 楽しそうだな。

 実の姉ですら、いたいけな中学男子のハートを思いやってくれない。


 俺は虚脱したまま、目を閉じた。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[一言] 大河くん、これ女性不信になりそう……。 もう巻き込まないであげて〜! はっ。 もしかしてシーナ最大のライバルが誕生間近!?
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ