表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

68/101

19・引き続きの混乱と羞恥(2/3)

 5秒くらい経って、清野さんが目を開けて、手を下ろした。


「ごめん。はい、お待たせ。雅樹くんは急に思いがけず女の子にキスされて、困っている。

 それで合ってる?」


 僕に問いかける清野さんは、真摯な表情になっていた。


「はい」

「急にってことは、告白してお付き合いしましょうって、雅樹くんも相手の人も合意した後でのキスではなかった?」

「……はい」


 合意。

 あの時、シーナが僕の意志を確認することなく、急にキスをしてきた。


 それは、ちょっと、傷ついた。

 その理由が、いつも僕のことを大事にしてくれるシーナが、急に僕の気持ちを無視してきたからだと、ようやく清野さんに言われて気がついた。

 シーナとのキスの感触は、気持ちよかった。でも。


「それで、その女の子は、雅樹くんのことが好き?」

「……はい」


 シーナが、僕を好きか嫌いかの2択で選ぶなら、好きを選ぶ自信はある。


「じゃあ、雅樹くんはその子のことを異性として好き?」

「……異性として?」


 シーナは女の子だ。

 それは間違いない。

 ずっとシーナのことは、女の子として好きだと思って育ってきた。


 でも。

 異性?

 今、清野さんが質問している内容は、そういうことではないと思った。


「そう。その子と付き合って、他の女の子とは付き合わない。

 手を繋ぐ。デートする。抱きしめ合う。キスをする。……子どもができることは、まだ早いから聞かないけど。

 簡単に言うと、そばにいたいか、触りたいか。

 他の人とはしないことをその子とだけしたいか」

「……他の人とはしない」

「キスだって、普通しないよね。恋人同士じゃないと。あ、日本の場合ね。この辺の感じで」


 清野さんが人差し指だけを立てて、くるくると部屋の中を指差す。


 恋人。

 異性として。

 シーナを?


 この時、頭の中を駆け巡ったのは、悠河さんから借りたヤンデレ漫画や小説のシーンの数々だった。


 え?

 あれを?

 僕が?シーナに?

 するの?されるの?


「えぇ〜?」


 僕は頭を抱えて、その場にしゃがみこんだ。


「……あれ?思ったより、重症なの?雅樹くん」


 心配そうに呟く、清野さんになんて答えるべきか、僕にはもう分からなかった。





 結局、清野さんの車で送ってもらうことになった。


「俺のせいで、雅樹くんが事故にあったら、死んでも死に切れない」


 真顔で言われたら、断ることもできない。

 そんなにダメな状態に見えるのかとさらに落ち込んだ。

 音楽もかけない静かな車内で、清野さんが僕を励ますように、自分のことを話しはじめた。


「俺もねー。あったよ。

 先輩の女子にイタズラみたいにキスされて。

 彼氏がいる人なのに、何してくるんだって、がっかりした。

 後から知った話では、一応別れた後だったらしいけど」

「……それで、どうしたんですか?」

「どうにも。

 先輩のことは好きだったけど、淡い好意だったから。彼氏がいるのに急に僕にしてきたと思っていたから、正直ショックだった」


 少しだけ、運転席側の窓ガラスが下げられた。

 昨日の雨で、秋が近づいたようで、入る風が冷たい。

 ウィンカーのカチカチという音だけが響く。

 大通りへと曲がる。


「もし、あの時先輩がちゃんと彼氏と別れているって教えてくれた上で、告白があったなら、そのキスも嬉しくて仕方なかったんだろうなぁと思うけどね」

「……嬉しくは、なかったんですか?」


 うーんと唸る声だけがしばらく続いた後。


「少しだけ嬉しかったのもあったと思うよ?かわいい人だなーって思ってはいたし」


 再び、うーんと唸る声。


「……何も言われなかったから、一体なんだったんだろうって、悩んだ時間の方が多かったからなぁ。嬉しいのは一瞬。

 合意って大事だなぁと思ったよ」

「合意」

「うん。合意。別に書類書いてとか、誰かの承認が必要とか、付き合うだけなら、いらないじゃないか。

 2人だけのルールで、他の人とはしないことまでするって、合意が大事だよねって、俺は思うけど」


 僕は助手席のシートに沈むように背中を預けた。

 シーナは、他の人とはしないことを僕とだけ、したいと思っているのだろうか。


「あ」


 思わず声が漏れた。

 そういえば、前にキスされそうになって、手の甲にキスして逃げたことあったな。

 なんであんなことできたんだろう。

 そして、シーナはあの時から僕にキスするつもりはあったんだろうか。


「でも、ベビーベッドの頃からの話をされると…」

「え、何、雅樹くん、なんかすごい高度な話になってない?俺の深読みのしすぎ?思った以上に俺の脳みそがヤバいのかな」


 高度な話ってなんだ。

 あまりにも長すぎるシーナとの付き合いで、キスを挨拶としか考えていなかった過去の自分をぶん殴りたくなっていた。


『キスだって、普通しないよね。恋人同士じゃないと。あ、日本の場合ね。この辺の感じで』


 妙なところで、僕の一般常識が無自覚に捻じ曲がっていることを気づいた僕は、本日何度目かの頭を抱えることになった。


「え、雅樹くん?ベビーベッドって何?もしかして俺よりもなんかすごい高みの域に達してたりしないよね?」


 不安そうに話しかける清野さんに、とりあえず、


「ベビーベッドで高みの域ってなんですか……」

 と素直に答えたら、黙った。


 逆に黙られて、ものすごく困った。

 しばらくして、


「……ごめん。俺の脳みそがおかしいだけだ。雅樹くんはピュアなままでいてね」

 と、ぼそっと言われた。


 掘り下げる気もなかったので、そのまま「はい」と、返事をした。




(*´ー`*)……清野さん、作者にも分からないことを突然言い出すのやめてくれないか?高度って、何。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ