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16・雷鳴と豪雨のお知らせです。(3/3)

 その翌日、雅樹は普通に授業を受けていたし、俺も何事もなく昼休みを過ごした。放課後にはシーナさんが先週と同じように、ポーズモデルをしに中学校へ来ると雅樹が話していた。


 普通だ。ごくごく普通に、放課後になった。


 だから、何も警戒することがあるとか、そんなことはこれっぽっちも思ってもいなかった。



 いなかったのに……!





 ボールを届けに来たら、修羅場に巻き込まれた。





 授業が終わり、手早くジャージに着替えると、外に走りに行く準備を済ませた。

 ボールを届けたら、そのまま外にランニングに行くつもりだったので、バスケ部の奴らに声をかけてから部室を出た。


 ボールバッグを背負って階段を上がっていくと、ちょうどシーナさんと雅樹が美術室に入るところが見えた。


 置き場所が分からないから、雅樹に声をかけようとした時。


 シーナさんが雅樹を背中に庇うようにして立つと、入り口近くに立っていた武田さんに、切りつけるような声で言い放った。



「雅樹に近付かないで」



 その声を聞いて思った。


 関わり合いになりたくない。


 回れ右を素早く行い、美術準備室のドアを開けて、適当に空いている床にボールバッグをそれぞれ置いた。


「さ、ランニングに行くか」


 ほっと安心して、部屋を出ようとしたら。


「……あら、大河くん、いたの?」


 うっそりとした笑みを浮かべたシーナさんが、ドアを開けていた。


「ボール置きに来ただけなので、出ます!」


 慌ててシーナさんの横を通り抜けようとしたら、腕をつかまれた。


 力強く。


「……ちょうどいいわ。武田さんと話をするから、中に入ってドアの前に立ってて。

 雅樹には聞かせなくないの」


 俺もその話は聞きたくないですけど!


 心の中でそう叫びながらも、断られることなど考えてもいないシーナさんがにっこりと笑う。


 考えている間に、武田さんが美術準備室に招き入れられ、無情にも俺の鼻先でドアは閉じられた。


 軋んだドアの音が怖いと、この時初めて思った。



 ***



「おーい、悠河ちゃーん」

「あ、オーナーさん。こんにちは〜」


 古本屋でビルのオーナーであるおじさんと落ち合う。


 今日は塾もバイトもないので、真坂先生の本を読ませてもらうことになった。


「シーナちゃんと雅樹くんは元気かなぁ。なんか体調悪いって聞いたけど」

「どこから聞いたんですか?」

「3箇所からの情報だから、そこは伏せとく」


 相変わらずシーナ見守り隊のネットワークはえげつない。


「それで、おじさん」

「あ、俺、落合っていうんだ。落合のおじさんって呼んでね。

 なんか悠河ちゃんにパパ活させてるみたいで危ないから」

「あはは」


 落合さんに連れられるまま、ビルの近くにある喫茶店に入った。


「最近、コーヒーに凝っててね〜。

 あ、零くーん、ホンジュラスお願い。

 あと、こちらにメニューを」

「アイスコーヒーがいいです」

「それでは深煎りの豆をおすすめします」


 にっこりと可愛らしい顔立ちの男の子が答えた。


 同じくらいの年かなぁ。


「よくわからないので、おすすめでお願いします」

「はい、かしこまりました」

「悠河ちゃん、ここのケーキ美味しいよ。落合のおじさんが奢るから食べて食べて」


 にこにことしながら、落合さんが使い込まれたテーブルの席に座る。


「むしろパパ活っぽいですよ、それ」


 苦笑しながらテーブルの向かい側に座る。


 そして、落合さんが持ち込んだカバンから、それぞれに真坂先生の本を取り出すと、黙々と読み始めた。


 ………何しに喫茶店に入ったんだって言われそうだけど、オタクってこんなもんよ。




 1杯目のコーヒーが空になり、本を半分くらい読んだころ、なんとなく休憩になった。


「……あー、相変わらずですね。真坂先生」

「……うぅん?あ、あー。サンタクロースがヒーローなのに、トナカイ喋ってるやつね。カオスだよね」


 お互いにぼんやりしながら、カウンターの中の店員さんに手を振って呼び寄せる。


「零くん、今日のケーキは?」

「ザッハトルテと、ベイクドチーズケーキです」

「あ、私、ザッハトルテ」

「俺も。あとマンデリンを2つ」


 店員さんがにこやかに頭を下げる。


 ケーキとコーヒーが届くまでの間、なんとなく先日のお饅頭教室の話をした。


「シーナは来られなくなったんですけどね。

 蒸したてのお饅頭は美味しかった〜」

「それはよかったねぇ。最近、饅頭食べてないなぁ。明日は和菓子にしよう」


 話しながら、借りる本を物色する。ヤンデレ味が強いものが多い。


「……そういえば、真坂先生のはメンヘラって感じじゃないですよね」

「あー、なんか、こう、湿っぽさはないよね。正面から重い溺愛を正当化してるよね。その辺が軽やかさを感じさせるのかな」

「まぁ、若干設定がぶっ飛んでるせいもありますけど」


 ページをめくる手を止める。


 メンヘラ。


「……その、お饅頭教室のきっかけになった、武田さんって、同じ苗字の子がクラスメイトでいたんですよね」


「へー、いつの?」

「中学の時に。その子、小さい時に親が離婚して、父親とは血の繋がりがないんですよね。

 あ、そのお父さんは朗らかでいい人っぽかったんですよ?ただ、その武田が、なんか、その辺の関係のせいか……メンヘラで」


 ああ、そうだ。


 武田麻里衣(まりい)だ。


 思い出した。


 バレンタインのチョコレートに薬を仕込んだメンヘラ女子。



 現実のヤンデレは、うまくいかない。





(*´ー`*)……はい。そうです。

『氷の女王と呼ばれるカリスマ美少女モデルが殺し屋の目で婚姻届の用紙を出してくるんだけどまだ16歳なので結婚とか無理です』(https://ncode.syosetu.com/n1193ib/)の主人公・零くんのその後です。高2の9月です。



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― 新着の感想 ―
[一言] >「あー、なんか、こう、湿っぽさはないよね。正面から重い溺愛を正当化してるよね。その辺が軽やかさを感じさせるのかな」 鋭い分析ですね!w 零くんキターーー!!!!(大歓喜) >現実のヤン…
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