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15・黄昏時は一瞬でやってくる(2/4)



 窓が開いている。


 夕方の疲れた空気が、網戸越しに部屋の中に入ってくる。


 ため息のように時々白のレースカーテンが揺れる。


 その動きを見るともなしに、ベッドで仰向けになって眺めていた少年は、いつの間にか眠ってしまっていた。


 時々、カーテンを伝ってくる風が、髪を撫でる。


 わずかに残る夕陽の余韻が、ベッドの上で眠る少年……雅樹の肌を淡く光らせている。


 規則正しい寝息と、思い出したように入り込む車が通る音だけの部屋に、ひとりの少女が身をすべり込ませた。


 さらりと、肩から流れた髪は、夕陽よりも眩しい金色。


 青い瞳は見つかるのを恐れるかのように、伏し目がち。


 袖のないマキシ丈の麻のワンピースを着た少女……シーナは音を立てないようにゆっくりと、ドアを閉める。


 ほう、と、シーナがため息を吐く。


 そして、閉じたばかりのドアに背中をあて、そのままもたれかかる。


 雅樹は起きる気配もない。


 雅樹を見つめるシーナのまつ毛が青い瞳を隠すように、影を作っている。


 通り過ぎる車の乾いた音が、何度も部屋の窓から聞こえた。


 シーナは動かない。


 眠る雅樹の様子をずっと見ている。


 雅樹は仰向けの姿勢のまま、眠り続けている。


 部屋の中から残照もすべて消えた頃。


 シーナがそっとドアから体を離した。


 そのまま、足を前に運び、窓際のベッドで眠る雅樹の枕元まで進む。


 そして雅樹の寝顔を数秒間凝視した後、ゆっくりと音を立てずに、ベッドに腰をかけると、雅樹の顔の両側に手をついた。


 微かな衣ずれの音。


 穏やかな雅樹の寝息だけが、聞こえる。


 シーナは、片方の手をはずし、自分の髪が雅樹の顔に触れないように、こぼれる金髪を片手でまとめると、静かに顔を雅樹の口元に寄せた。


 シーナの唇が、雅樹のそれに触れるまで、あと1センチになった時。


 かさり、と、机の上に置かれたビニル袋が音を立てた。



 ほんのわずかな音。



 シーナにしか聞こえていない音が、動きを止めさせる。


 顔を上げて、体を起こそうとしたが、もう一度シーナは顔を近づけると、雅樹の肌の熱をもらうかのように、頬に一瞬だけのキスを落とした。


 しばらくの間、雅樹が起きてしまわないかと、反応を伺っていたが、規則正しい寝息のままだった。


 シーナは寂しそうな笑みをこぼすと、体を起こして、ベッドからすべり落ちるように、床まで腰を落とした。


 乱れたスカートの裾を直す。


 そして、雅樹の枕元に頭を寄せると、そのまま重ねた自分の両腕に頬を乗せ、目を閉じた。


 雅樹の規則正しい寝息の音だけが耳に入る。


 いつしかシーナも眠りはじめた。


 部屋には2人分の規則正しい寝息。


 ふわりと、レースカーテンが夜の風を届けている。




 ***




 目を覚ますと、夜になっていた。



 開けたままの窓からは、虫の声が聞こえる。


 多江おばあちゃんの家を出た後、大河と道場に向かって……。


「なんか肩が痛い……」


 ああ、そうだ。


 バス停まで行く大河と一緒に道場の自転車置き場から、出ようとして捕まったんだ。


 明日、粗大ゴミの回収車が来るから、出すのを手伝えと言われて、先生たちと一緒に何十年前のか分からない畳とか、運ばせられたんだった。


 昔の畳は、冗談じゃなく重かった。湿気とかがすごいんじゃないかと思うんだけど。


 大河も清野さんに変な触発をされたのか、率先して重いものばかり持とうとしてたし。


「そんなんでバスケに使う筋肉は育たないって」


「やってみないとわからない」


「1人で運べないものを持つなよ……必然的に僕がサポートに入るんだから」


「大丈夫だ。雅樹ならできる」


「持ち上げ方が雑すぎる」


 どうでもいいことを言い合いながら運ぶと、なぜかそのまま箱単位の野菜を店から道場まで運ぶことになったり。


 1時間くらいは、ひたすら運び続けていたような気がする。


 お駄賃に飲み物を渡されたけれど、大河とバス停に行くまでに飲み干したし、その後の家までの自転車がとどめだった。


 帰宅すると、リビングでは母さんがお友達とお茶会してるし。


 挨拶だけして、すぐに部屋のベッドに転がった。


 あの時はまだ夕方にもなっていなかったんだけど……。



 かなり眠り込んでたみたいだ。



 時計を見ようと、ベッドの上で体を起こすと、片手が何かに触れた。


「……ん?」


 何か置いてたっけ?


 お饅頭の入った袋は、机に置いたはず……。


 暗闇の中、手を動かすと人肌に触れた。


 びくっ、と、反射的に手が動いてしまった。


 枕元に置いていたリモコンで、電灯を点けると。


 金色の髪が広がっている。


 シーナだ。


 ベッドに上体を預けて眠っている。


 僕はシーナの体が冷えないように、静かに窓をしめる。


 照明を少し落としてから、ゆっくりとベッドを下りて、シーナの肩にタオルケットをかけた。


 すうすうと、小さな寝息をたてている。


「……モデル、疲れたのかな」


 なんとなくの手癖で、眠っているシーナの頭を撫でる。



『いいこ、いいこ』



 小さい時から、何度もシーナに頭を撫でられたことを思い出す。


 何をしてもシーナは褒めてくれた。



(`・ω・´)つ● ひな祭りですね!くらえ!お饅頭!



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