15・黄昏時は一瞬でやってくる(1/4)
薄い青が消えて、あっという間に日が暮れる9月の黄昏時。
パステルカラーの軽自動車が停まる駐車場に、玉城さんと向かう。
「ふぁ〜、いいお湯でしたね〜。スポーツジムに併設されている温泉なんて、期待してなかったんですが」
濡れた髪のまま、冷えたペットボトルをあおる。
「うーん、予想以上によかったねぇ。これは迷うなぁ」
ほんのりと上気した頬のまま、玉城さんがアイスコーヒーを飲み干す。
「合気道のほかにスポーツジムまで行くんですか?」
「うーん、週に1回通うだけならいける。あとは温泉だけ入りにくると思えば……」
「大学と道場からは結構遠いんじゃないですか?あ、車だから大丈夫なのか……」
「この辺はバイト先近いから、それなりに来るんだけど……どうしようかなぁ〜」
とりあえずは、日も暮れるから帰ろうと、車のドアを開けようとした玉城さんが、
「あれ?」
と、言って、駐車場の先にある信号待ちをしている車を指差した。
「シーナちゃんじゃない?」
「え?シーナ?」
シーナならマダム土田に連れ去られて、モデルのバイトをしているはず。
そう思って信号待ちの車列を見るけれど、マダム土田の真っ赤な車は見当たらない。玉城さんが指差す車は、焦茶色の小さな車。
運転席には知らない男の人。
運転席の後部座席には、ぼんやりとした夕暮れの光の中でも輝いて見える金色の髪の女の子が座っている。
気だるげに窓にもたれかかっているのは、
「シーナ?」
思わず声が出た。
その声が届いたわけでもないのに、青信号になった焦茶色の車は、ゆっくりと発進して、シーナの家とは反対方向に走り去った。
「……シーナ、だよなぁ」
「シーナちゃん、だよねぇ。あんなきれいな子、2人もいないよね……」
何台も車が通ってから、ようやく玉城さんと確認する。
「ねぇ、悠河ちゃん」
「いやいやいやいや。えー?シーナ?」
「だよねぇ。あんな警戒心強いシーナちゃんが、知らない男の人の車に乗らないよねぇ?」
「私は、知らないけど、シーナは知ってる人?」
んんんん?
頭の中ははてなマークでいっぱいだ。
確かにミセス土田の絵画教室兼自宅の場所は、この辺だった記憶だけど。
日が暮れていく中、玉城さんと私は、狐に化かされたように顔を見合わせて、車が走り去った方向を眺めた。
「……とりあえず、シーナに連絡してみます」
「そうだね。落ち着いて座ってたから、シーナちゃんだとしても誘拐とかじゃないと思うし」
「はい」
玉城さんが運転する車で、自宅へ送り届けてもらう途中、シーナから返信が来た。
長々とした私の状況説明と質問に、シーナからの返事は短かった。
『同じバイトの人に送ってもらった
雅樹の寝込みを襲うからまた後で』
うん、いつも通りのシーナだ。
誘拐とかじゃないなら、大丈夫。
それでも少し気になったので、後でシーナ見守り隊のグループメッセージで情報共有だけはしておこうと思った。
だって、シーナが男の人の車に乗るって、今までになかったから。
同じシーナ見守り隊の誰かであればいいなと思った。
「私も高校3年の春休みに免許とろうかなぁ」
玉城さんの静かな車の運転に身を委ねながら、ぼそりとつぶやいた。
目の前にはたくさんのテールランプ。
日が暮れるのは、一瞬だった。
私が高校生なのも、あと1年半。
スポーツジムと温泉の疲れが出たのか、切ない気持ちになった。
「それなら、早めに合格しないとね〜。国公立だと3月まで試験あるよ〜」
「うー。もう憂鬱なこと言わないでくださいよぉ」
「もうそろそろ、進学先決めないといけない時期なんだろうね。……がんばれ」
1年半前に受験を終えた玉城さんは、前を向いたまま、そう言った。
「……うう。がんばります」
手で顔をおおいながら、助手席のシートに身をうずめた。
シーナと同じ大学に行きたいけれど、シーナはどうするんだろう。
今日のお饅頭教室のことも含めて、シーナと会って話さなきゃと思った。
「……お腹空いた。お饅頭食べちゃえ」
「あ、私も食べる。悠河ちゃん、私のも出して」
そして、家に送り届けてもらうまで、スポーツジムでのカロリー消費を消すに等しいだけのお饅頭を車内で食べてしまったことに、私も玉城さんも気がつかないのであった。
_:(´ཀ`」 ∠):体調不良のため、今週はこれだけです。
楽しみにしてくださっている方には申し訳なく候。
書きたいけれど、体調回復の方を優先します。
か、書きてぇ……早く続きを書きてぇ……_:(´ཀ`」 ∠):




