14・似て非なるもの(3/3)
「えーと、お饅頭ではないけど。
おはぎだったかなぁ。
手作りおはぎを家族の誰かが貰ってきて。その時も甘さが控えめで、美味しいって言ってたら、シーナが自分もやるって」
「うわぁ……シーナさん、すげえな……」
大河がドン引きしてる。
目玉焼きに四苦八苦してる大河には、餡子作りなんてやりたいとも思わないだろうなぁ。
「それで甘さ控えめで作ったら、すぐにカビが生えちゃってて。
美味しかったけど、餡子全部は食べ切れなくて。もったいなかったなぁ」
「……雅樹せんぱいは、いつもシーナさんの作ったものを、食べているんですか?」
「うーん」
お饅頭を食べながら、考える。
朝ごはんとお昼は違うけれど、帰ってからの紅茶とか、おやつはシーナが用意することが多いし、夕飯はだいたいがシーナだなぁ。
母さんたちと、どういう取り決めをしたのか分からないけれど、いつの間にか学校のある日の夕飯は、シーナが作ることになっていた。
しかも4人分。
レシピが4人分のものが多いから、その方がいいってシーナは言うけれど。
父さんも母さんも、ものすごく助かると言って、全然やめようともしないし。
悠河さんには、
「完全にそれ、嫁じゃん……!」
と嬉しそうに言われるだけだし。
もう少し、僕も料理とかできた方がいいと思うんだけど。
兄貴もなんだかんだで料理うまいし。
改めて考えると、シーナの作ったものを食べるだけで、何も僕は作ったことがない。
作ろうと思っても、シーナに止められるし。
「うーん、そうだね」
うんうんと、何度もうなずきながら、武田さんに答えた。
「もう少し、自分で作るとかした方がいいかもね」
「……そう、ですか」
「……いや、雅樹が料理とかし始めたら、シーナさん、もっと作るようになると思うぞ」
「え?そうかな?」
「うん、間違いなく」
「うーん……それなら、せめて一緒に作るとか。
未だにリンゴの皮剥きもできないからなぁ」
「俺もできないけど」
「……大河はリンゴの皮くらいなら、そのまま食べそう」
「洗えば大丈夫だろ?」
大河とどうでもいい話をしながら、お饅頭を食べる。
2個目を食べ終わって、かなりお腹がいっぱいになっていることに気づいた。
「おこわのおにぎり、何個食べたかなぁ。結構食べたよね?」
「そうだなぁ。俺、お饅頭はもう1個食べるけど」
「僕はもういいや。シーナに持って帰る」
親の分をのぞいて、残り4つか。夕方にはシーナが帰ってくるから、お茶と一緒に出そう。
皿を持った大河と一緒に、持ち帰り用のパックを持って蒸し器の方へ行くと、悠河さんと玉城さんが懊悩煩悶していた。
「……あと、1個食べたい……!」
「でも、もうおこわを食べすぎているし……!」
あまりの悩みっぷりに、ちょっと引いた。
「………大河、どうしよう」
「気にしなくていい。
どうせ食べるから。
そんで、また食べ過ぎたって騒ぐだけだから」
大河がそう答えると、
「玉城さん!出来たてが、食べられるのは今だけです!」
「悠河ちゃん……!確かに!」
「ほら、な?」
「……本当だ」
悠河さんも玉城さんも、お饅頭を皿にひとつずつのせて、残りを持ち帰り用のパックに詰めはじめた。
「玉城さん、4つ?」
「うん、悠河ちゃんも4つだね」
にこにこと、2人が話している。
けど。
「持ち帰りが4個……?あれだけ食べて、さらにお饅頭を4個?」
大河が信じられないとでもいうように、ぼそっと呟いた。
僕もちょっと2人の食欲に恐れ慄いた。
おもわず、一歩後ろに後ずさると、
「きゃっ」
「あ、ごめん!」
後ろに並んでいた武田さんに当たってしまった。
「ごめん、気がつかなくて」
「い、いいえ、大丈夫です」
「あ、武田さんは、もうお饅頭はいいの?」
「はい。2つも食べたらお腹いっぱいで。あとは持ち帰って家で食べます」
そう言って、空のパックを持ち上げて見せた。
「お箸、持ってきたので、雅樹せんぱいのお饅頭も取りますね」
「あ、じゃあ、お願いしようかな」
「大河せんぱいのも、取りますか?」
「え?ああ、うん、じゃあ、頼む」
武田さんに持っていた空のパックを渡す。
「えーと、全部で6個で合ってますか?」
「うん、ありがとう」
経木に点が3つあるものと、「M」の字が潰れたものがパックに並ぶ。
パックに並ぶと、それなりに売り物っぽく見える。
どれをシーナに食べさせようかな。
餡子を皮で包んだものだけど、一応初めての手作りお菓子だ。
シーナは美味しいと言ってくれるかな。
少しだけ、こそばゆい悦びが胸の中に湧き上がる。
シーナはいつもこんな気持ちで、僕にお菓子や料理を作っていてくれたんだろうか。
それなら、嬉しいと、思う。
「はい、大河せんぱい」
「……ありがとう」
武田さんがにっこりと笑って、大河に渡している。
今日のお饅頭作りで、それなりに仲良くなったみたいだ。
それから、僕たちは椅子や蒸し器などを運んで、片付けを手伝ってから、多江おばあちゃんの家から辞去した。
雅樹「玉城さん、清野さん、今日は来てくれて、ありがとうございました」
清野「なかなか面白かったよ〜」
玉城「うん、お饅頭の蒸したて初めて食べた〜」
雅樹「それじゃあ、僕は道場の方に自転車が停めてあるので。お先に失礼します」
玉城「うん、それじゃあまた明日ね〜」
清野「……あ、お饅頭渡し忘れてた。玉城さん、一緒にちょっとだけ残って多江おばあちゃんのところに付き合」
悠河「玉城さぁーん!行きましょう!運動に!」
玉城「悠河ちゃん!そして温泉でツヤ肌になろうね!じゃあ、清野さん、お疲れ様でした!」
清野「……おつかれ」
多江「おや、お土産をわざわざありがとうねぇ」
清野「……いえ、お饅頭でかぶってすみません」
多江「お茶入れるから、飲んで行きなさいなぁ。あら、この後は、用事があるかねぇ?」
清野「用事……そんなものないですよ……。ははは……」
(*´ー`*)不憫枠・その2




