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14・似て非なるもの(2/3)

 ***


 ペットボトルを置いてから、みんなにウェットティッシュを配る。


 手を拭いた人たちから順に、お饅頭の蒸し器の前に集まった。


「それじゃあ、自分の分をとってねぇ。

 全部食べてもいいけど、食べきれない時はパックに入れて持ち帰れるからねぇ」


「はぁい」


「わかりました〜」


「はい、それじゃあ、お兄さん、蓋あけて」


「はぁい」


 すっかり多江おばあちゃんと仲良しになった清野さんが、そっと木の蓋を持ち上げる。


 ふんわりと湯気が立ち昇る。


「わぁ〜」


「美味しそう〜」


 玉城さんと悠河さんが、歓声をあげる。


「餡子を入れて丸めた時は、失敗したかなぁーと思っていたけど、けっこうなんとかなるものなのねぇ」


「あ、大河の餡子がはみ出てるのは、そのままだ」


「ねーちゃん、うるさい」


「私のは綺麗にできたもんね〜」


 そう言って、悠河さんがお饅頭をひとつ取り出す。


「熱くないの?」


「熱いです!」


 玉城さんの持つ皿の上に、投げ出すようにして置く。


「一瞬だけなら、なんとか……」


「あれ?悠河ちゃん、これ、清野さんのじゃない?」


「えー?悠河の『ゆ』ですよ?」


「……いや、これ、『の』じゃない?」


「………本当だ」


 しょんぼりと悠河さんが、玉城さんの持つお皿を清野さんに手で示す。


「綺麗なお饅頭になったなぁ〜と思ったのに。清野さんが作ったのが綺麗だっただけですね……」


「そんなことないよ〜。ほら、悠河さんのお饅頭、豆入りかな?綺麗にできて……」


「清野さん、それ、皮が薄くなって、餡子が透けて見えるだけです……」


「あ」


 悠河さんが肩を落としながら、自分で作ったお饅頭をお皿に乗せる。


「大河のとそんなに変わらない……」


「……悠河ちゃん、どんまい」


「……はい」


 玉城さんが悠河さんの肩を優しく叩いた。


 僕も自分の作ったお饅頭を取ろうと手を伸ばすと、武田さんが箸を使って取り出してくれた。


「はい、雅樹せんぱいのお饅頭。点が3つ書いてありますよ」


「あ、ありがとう」


 お皿に2つ取って貰ったので、椅子に戻って座る。


 特に餡子の漏れもなく、まん丸のふっくらとしたお饅頭に出来上がっていた。


「大河のはどうなった?」


「まぁ、材料は同じだから。味は大丈夫じゃないか?」


 そう言って、ひと口でお饅頭を食べた。


「……あっつ!」


 大河は口を押さえたが、すぐに上を向いて、はふはふと声をあげて熱を逃がそうとしている。


「餡子が熱いに決まってるだろう」


 お茶のペットボトルを手にとって、大河のコップに注いで手渡す。


 涙目になりながら、大河はお茶を口に含むと、少しだけおとなしくなった。


「……やけどした」


「自業自得だな」


 冷たく大河に答えてから、僕はお饅頭をそっと手にとり、2つに割った。


 ふんわりと香り立つ、こし餡の湯気。


 しばらく、そのまま手に持ったまま、冷めるのを待つ。


「……俺の犠牲を目の前で役立ててる」


「大河の犠牲は、無駄にはしない」


 じっとりとした目で、大河が見ているが気にしない。


 そろそろいいかな。


 割ったお饅頭の端っこから、少し口に入れる。


 ふわっとした皮と、なめらかなこし餡。


 甘すぎず、優しい味の餡子。


「……おいしい」


 思わず声が漏れる。


「なんだろう……おいしい」


「なんだろうって、なんだよ」


 1個目を食べ終えた大河が、ツッコミを入れる。それにはかまわずに、もうひと口。


 なめらかな口あたり。舌で口の中をゆっくりなぞると、甘さに消えていない小豆の味。


 そして。


「……黒糖?」


 ほんの少し、砂糖とは違う幅のある味わい。


「雅樹せんぱい、よくわかりましたね」


 武田さんが嘆息したように言った。


「私、食べた後におばあちゃんから教えてもらってから気づきました。

 ほんのちょっとだけ入れてるんだって」


「ああ、やっぱり黒糖が入ってたんだ。へぇ。これは確かにもう一度食べたくなるね」


「そうなんですよ!小学生の時に食べて、また食べたくて!

 お店で売っているお饅頭とか、食べてみても何か違うなぁって」


「うん、あんまりお店では食べないよね。甘さが控えめだし」


「そうなんです!このお饅頭の餡子は、体験教室用に作っていて。

 蒸したてのあつあつで食べるから、甘さ控えめにしてるんだそうです。

 だから保存には向いてなくて」


「ああ、だから人数がいないとダメなんだね」


 このお饅頭のためだけに餡子をほんの少しだけというのは、確かに作りにくそうだ。


 蒸し器も大きなものだったし。


「ふぅん、そうなのか」


 大河が感心したように言った。


「餡子の味が甘いのと、保存が関係あるなんて思いもしなかった」


「砂糖が多いと腐りにくいっていうか、かびにくいっていうか。

 前にシーナが作ってたんだよね」


「え!シーナさん、お饅頭作ったんですか?!」


 武田さんがびっくりしている。



(*´Д`*)雅樹のためなら何でも作っちゃうよ〜。それがシーナ。

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