14・似て非なるもの(2/3)
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ペットボトルを置いてから、みんなにウェットティッシュを配る。
手を拭いた人たちから順に、お饅頭の蒸し器の前に集まった。
「それじゃあ、自分の分をとってねぇ。
全部食べてもいいけど、食べきれない時はパックに入れて持ち帰れるからねぇ」
「はぁい」
「わかりました〜」
「はい、それじゃあ、お兄さん、蓋あけて」
「はぁい」
すっかり多江おばあちゃんと仲良しになった清野さんが、そっと木の蓋を持ち上げる。
ふんわりと湯気が立ち昇る。
「わぁ〜」
「美味しそう〜」
玉城さんと悠河さんが、歓声をあげる。
「餡子を入れて丸めた時は、失敗したかなぁーと思っていたけど、けっこうなんとかなるものなのねぇ」
「あ、大河の餡子がはみ出てるのは、そのままだ」
「ねーちゃん、うるさい」
「私のは綺麗にできたもんね〜」
そう言って、悠河さんがお饅頭をひとつ取り出す。
「熱くないの?」
「熱いです!」
玉城さんの持つ皿の上に、投げ出すようにして置く。
「一瞬だけなら、なんとか……」
「あれ?悠河ちゃん、これ、清野さんのじゃない?」
「えー?悠河の『ゆ』ですよ?」
「……いや、これ、『の』じゃない?」
「………本当だ」
しょんぼりと悠河さんが、玉城さんの持つお皿を清野さんに手で示す。
「綺麗なお饅頭になったなぁ〜と思ったのに。清野さんが作ったのが綺麗だっただけですね……」
「そんなことないよ〜。ほら、悠河さんのお饅頭、豆入りかな?綺麗にできて……」
「清野さん、それ、皮が薄くなって、餡子が透けて見えるだけです……」
「あ」
悠河さんが肩を落としながら、自分で作ったお饅頭をお皿に乗せる。
「大河のとそんなに変わらない……」
「……悠河ちゃん、どんまい」
「……はい」
玉城さんが悠河さんの肩を優しく叩いた。
僕も自分の作ったお饅頭を取ろうと手を伸ばすと、武田さんが箸を使って取り出してくれた。
「はい、雅樹せんぱいのお饅頭。点が3つ書いてありますよ」
「あ、ありがとう」
お皿に2つ取って貰ったので、椅子に戻って座る。
特に餡子の漏れもなく、まん丸のふっくらとしたお饅頭に出来上がっていた。
「大河のはどうなった?」
「まぁ、材料は同じだから。味は大丈夫じゃないか?」
そう言って、ひと口でお饅頭を食べた。
「……あっつ!」
大河は口を押さえたが、すぐに上を向いて、はふはふと声をあげて熱を逃がそうとしている。
「餡子が熱いに決まってるだろう」
お茶のペットボトルを手にとって、大河のコップに注いで手渡す。
涙目になりながら、大河はお茶を口に含むと、少しだけおとなしくなった。
「……やけどした」
「自業自得だな」
冷たく大河に答えてから、僕はお饅頭をそっと手にとり、2つに割った。
ふんわりと香り立つ、こし餡の湯気。
しばらく、そのまま手に持ったまま、冷めるのを待つ。
「……俺の犠牲を目の前で役立ててる」
「大河の犠牲は、無駄にはしない」
じっとりとした目で、大河が見ているが気にしない。
そろそろいいかな。
割ったお饅頭の端っこから、少し口に入れる。
ふわっとした皮と、なめらかなこし餡。
甘すぎず、優しい味の餡子。
「……おいしい」
思わず声が漏れる。
「なんだろう……おいしい」
「なんだろうって、なんだよ」
1個目を食べ終えた大河が、ツッコミを入れる。それにはかまわずに、もうひと口。
なめらかな口あたり。舌で口の中をゆっくりなぞると、甘さに消えていない小豆の味。
そして。
「……黒糖?」
ほんの少し、砂糖とは違う幅のある味わい。
「雅樹せんぱい、よくわかりましたね」
武田さんが嘆息したように言った。
「私、食べた後におばあちゃんから教えてもらってから気づきました。
ほんのちょっとだけ入れてるんだって」
「ああ、やっぱり黒糖が入ってたんだ。へぇ。これは確かにもう一度食べたくなるね」
「そうなんですよ!小学生の時に食べて、また食べたくて!
お店で売っているお饅頭とか、食べてみても何か違うなぁって」
「うん、あんまりお店では食べないよね。甘さが控えめだし」
「そうなんです!このお饅頭の餡子は、体験教室用に作っていて。
蒸したてのあつあつで食べるから、甘さ控えめにしてるんだそうです。
だから保存には向いてなくて」
「ああ、だから人数がいないとダメなんだね」
このお饅頭のためだけに餡子をほんの少しだけというのは、確かに作りにくそうだ。
蒸し器も大きなものだったし。
「ふぅん、そうなのか」
大河が感心したように言った。
「餡子の味が甘いのと、保存が関係あるなんて思いもしなかった」
「砂糖が多いと腐りにくいっていうか、かびにくいっていうか。
前にシーナが作ってたんだよね」
「え!シーナさん、お饅頭作ったんですか?!」
武田さんがびっくりしている。
(*´Д`*)雅樹のためなら何でも作っちゃうよ〜。それがシーナ。




