14・似て非なるもの(1/3)
台所で麦茶とお茶のペットボトルを抱えて、ラップされたままの漬け物の皿を探していると、
「あ、大河、1本持つよ」
雅樹と武田さんがやってきた。
「わり。さんきゅ」
お茶の方を渡し、武田さんに、
「ラップした方の漬け物って、どこ?」
と、聞いてみた。
「あ、さっき冷蔵庫にしまったんです。出しますね」
軽く微笑みを浮かべたまま、くるりと回って冷蔵庫の扉へと、手を伸ばす。
それを見て、俺は改めて思った。
うーん。
雅樹に惚れてるなぁ。
雅樹に向けていた笑顔の余韻が、俺にまで伝わって、これが普通の恋する女の子か、と、妙な感慨にふけった。
「雅樹たちもお茶をとりに来たのか?」
「いいや。お饅頭食べるから、皿と手を拭くもの持ってきてって。
……あ、持ち帰りしたいから、パックも持っていこうかな」
「シーナさんへのお土産?」
「うん。今日来られなくなって、かなり悔しがってたから」
「あー、まぁ、なぁ」
そりゃあ、そうだろう。
たいした関わりのない俺でも、雅樹に恋していると分かる女子が一緒だもんなぁ。
シーナさんの心情を考えると、恐ろしい。
「……パックは、この袋に入っているので、ウェットティッシュと一緒に持って行ってください」
話を聞いていた武田さんが、口元にぎこちなく笑みを浮かべて、雅樹にテーブルの一角を指差してみせた。
「私、お皿を持っていくので。その袋の方、お願いします」
「あ、うん、分かった。持っていくね」
雅樹は言われた通りに袋を手にとると、ペットボトルを持ったまま、縁側の方へと向かった。
「……じゃあ、漬け物の方持って行くから」
残された俺と武田さんでは、特に会話もないので、さっさと雅樹の後に続こうとした。
けれど。
「あ、はい。あの大河、さん」
武田さんに引き止められた。
「……何?」
姉がいるからと、女の子の相手に慣れているわけじゃない俺は、必要な単語だけで答えた。
こういうところが、雅樹と違う。
正解の言葉も思いつかないけれど、間違った対応だということだけは分かっている自分に気づいて、はけ口のない苛立ちが生まれる。
だから、女の子の相手をするのは嫌いなんだ。
シーナさんの命令でやっている同級生女子へのあやふやな情報提供と牽制は、素っ気ない態度の方が信憑性が出る。
だから、端的に、時々は半笑いの曖昧な態度でやり過ごせるのに。
本当にこういうのは、苦手だ。
愛想笑いのひとつも浮かばない無表情のまま、俺は振り返った。
武田さんは、俺に言う言葉を出そうと、それだけに注意を向けているようで、目線はテーブルの方を向いていた。
「あの、今日、来てくれて、ありがとう、ございます」
「……別に、雅樹に誘われただけだから」
武田さんがお礼を言うことではない、と、言いたいけれど、そこまでは俺の重い口は回らない。
言外に察してくれなければ、それまでだ。
「それでも、来てくれたおかげで、こんなに色々できたので……良ければ、またおばあちゃんのお饅頭作りに、来て欲しいな、って、その」
「都合がつけば、来るよ」
他にもっと柔らかい言い方があるだろうと、自分でも思う。
なんで相手が同じくらいの年の女の子になるだけで、こうも調子が狂ってしまうんだろうか。
雅樹にだけ夢中で、雅樹の友だちには何の気配りもしない、同級生の女たちのように、俺に話しかけたりなんてしなくていいのに。
本当に、こういうのは、苦手だ。
それなのに。
「本当ですか?
ありがとうございます!」
顔をあげて、ふんわりとした髪を揺らしながら俺を見る。
「……都合ついたら、だから」
「はい、分かりました!」
にこにこと笑みを浮かべて、人数分の皿と箸を持って、俺に並んだ。
「おばあちゃんのこし餡、とっても美味しいんですよ。
蒸したてのお饅頭は、あついので、餡子の味がすごいと思います」
「……そうだろうな」
相変わらず下手くそな相槌しか出ないけれど、気にしても仕方ない。
何を言っても、「雅樹と仲がいい人」と思ったままだろう。
俺を利用する気がないのなら、それでいい。
先に行くよう手で示すと、ぺこっと頭を下げて、髪が揺れる。
縁側の方に向かう後ろ姿を見ながら、普通の女子っていうより、普通にいい子なんだな、と思った。
こういう子が、素直に雅樹へアプローチしているのは、ちょっと妨害が難しそうだ。
「……シーナさんが難航してるくらいだからなぁ」
毎日、中学校に来ては、美術部のモデルをしているのも、雅樹に群がる女子たちへの牽制だろう。
特に武田さんへの。
お菓子を渡そうとしただけで、そこまでシーナさんにマークされているのに、シーナさん抜きで雅樹と休日にお饅頭作ったりしているし。
「いい子だけど、あんまり関わりになりたくないなぁ……」
重いため息が出る。
なんで雅樹に食いつく女たちって、ひと癖もふた癖もある感じなんだろう。
まだ姉の悠河の方が、マシのような気がする。
そんなことを思いながら、縁側から下りて、ペットボトルと漬け物の皿を玉城さんと並んで座っている姉に渡す。
「はい」
「おー、サンキュー。持つべきはフットワークの軽い弟ね〜」
「いーなー。私も大河くんみたいな弟欲しい」
「ここまで仕込んだ私の努力の賜物ですからね!玉城さん。そこのところ、お忘れなく」
「………調子に乗るなよ」
前言撤回。
姉はただの暴君だ。
座っている姉の頭は、大変よい位置にあったので、そのまま重力と筋力を掛け合わせた重みのあるチョップを脳天にかました。
「いったあい!!」
姉の悲鳴があがる横で、
「お、今の私にやってみて〜。
今日習った返し方やってみるから」
嬉しそうに自分の頭を指差す玉城さんも、これはこれで関わりになりたくない系の女子だなと改めて思った。
「……嫌です」
また重いため息が、勝手に出た。
(*´ー`*)不憫枠・大河。




