13・シーナの居ぬ間にじわじわ接近(3/3)
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「……姉ちゃん……、あんまり見過ぎないでくれ」
「あの泥棒猫が……!」
「言いたいだけだろ、それ」
吸引マシンのように、無言でおにぎりを食べている弟が、ぼそっと言ってきた。
また空になった手で、別のおにぎりに手を伸ばす。
私も同じタイミングで、おにぎりを食べ終わり、次に手を伸ばす。
その前に、漬け物を爪楊枝にさして、ぱくり。
うん、美味しい。
「なんであんな風に見つめあっちゃうかなー。武田さん、勘違いしちゃうよー?」
「……いや、姉ちゃんの彼氏でもなんでもないんだから」
「推しのスキャンダルは、命とりよ!」
「……スキャンダルって、なんだよ」
指に残った米粒を舐めて口に入れる弟。
「まあ、本気で心配してないから、騒げるんだけどねー」
「うん、そんな感じだった」
「分かるー?なんだろうねぇ、武田さんはあんなに一生懸命、雅樹くんに片想いしているのが分かるんだけど、ないなーって」
「シーナさんしか勝たん、ってやつ?」
大河が次のおにぎりに手を出す。
食べるの早いな、コイツ。
「うーん、なんだろうねー。雅樹くんがサラッとしてるからかなぁ」
「何、そのサラッと、って」
「シーナの時と反応が違うのよ。なんかこう、シーナが食べている時の雅樹くんは、こう、もっと慈愛に満ちてるっていうか」
「感情あふれて、ダダ漏れって感じだよな」
「そう、そんな感じ。
でも武田さんだと、あんたに対してよりも、こう、フラットな感じ?」
「やめろ、BLの相関図を作り出すな」
「弟は入れてないから、安心して」
「……誰を入れて作ってんだよ」
はあ、と、これ見よがしにため息をつくと、そのまま立ち上がった。
「麦茶のおかわり無くなりそうだから、台所からペットボトル持ってくる」
「お、気がきくなぁ〜。できれば、残りのお漬け物も持ってきて?」
「……ちっ」
「舌打ちしたわね?」
そのまま無言で行ってしまった。
もぐもぐとおにぎりを食べていると、少し離れた所に座っているおばあちゃんが、
「おにぎり、足りるかい?」
と、心配そうに聞いてきた。
「えーと、私は大丈夫ですけど……」
答えながら皿やお盆の上を見回すと、それぞれに1個くらいしか残っていなかった。
「おにぎり足りますか?そろそろお饅頭食べられると思うんですけど」
私が尋ねると、玉城さんと清野さんが、口をもぐもぐさせたまま頷いた。
「それじゃあ、お饅頭にしようかねぇ。美園ちゃん、お皿と手を拭くもの持ってきて」
「はぁい」
「あ、僕も手伝うよ」
武田さんが立ち上がると、雅樹くんも一緒に縁側の方へと歩いて行った。
おいおい、雅樹くん、そういうとこだぜ?
スマートに親切な14歳って、そんなにいないんだぞ?
それに、合気道をやっているせいかもしれないけど、思春期でぐずぐずになってる中学生の中で、背筋をぴんと伸ばしている男子って、目を惹くと思う。
その真っ直ぐな背中を見ている後輩女子のハート撃ち抜くなんて、雅樹くんにとっては朝飯前だろ?
「……罪な男だなぁ」
ひとり、ふふっ、と、ニヒルに笑う。
それが聞こえたのか、多江おばあちゃんが、
「どうしたい?お腹痛いかい?」
と、心配そうに聞いてきた。
「いえ、お腹いっぱいですけど、痛くないですよ!お饅頭食べるの楽しみです!」
元気な女子高生のような見本で答えた。
すると、
「そうかい?大丈夫ならいいんだけど。
……ふぅ、それともおこわ足りなかったかねぇ。これでも1升分炊いたから、お土産分にまでなると思ったんだけどねぇ。
若い子たちがよく食べるの、忘れていたねぇ」
と、頬に手をあてて、おばあちゃんがため息をついた。
え?
おばあちゃん?
今、なんて?
「……これ、1升分のおこわだったんですか?」
「そうだよぉ」
「1升って、10合ですよね?」
「ん?そうだよぉ?」
1合で2人分ちょっとのご飯。
その10倍だから……
「た、玉城さん……!」
「なぁに?悠河ちゃん」
玉城さんがのんびりと漬け物を食べている。
それどころじゃない!玉城さん!
「わ、私たち、20人前のおにぎりを、食べてました」
「えー?だって、ここにいるの………おばあちゃん入れて、……7人……?え……」
「玉城さんすごいよねー。俺と同じペースでずっと食べてたもん。
よく食べる女の子ってす」
「いやぁぁぁ!太る!」
「か、帰りは、走って帰ろうかな!た、玉城さんも稽古で動きましたもんね!」
「……悠河ちゃん、帰りに行かない?温泉つきのスポーツジム。さっき体験用チケットもらったの」
「行きます!」
何故か顔をおおってうつむいている清野さんの隣から、玉城さんが勢いよく私の方に走り寄ってきた。
互いの拳を軽く打ちつけて、目を合わせてうなずく。
玉城さんと、私の中に何かが通い合った。
「……ちなみにだけど、シーナちゃんが、太らない理由、教えて!」
「……全部、胸にいっているからだと思います……!」
「………くっ!」
ごめん、シーナ。
シーナは一番の親友だけど、今日だけは玉城さんと仲良くさせてもらうね……!
私はそっと、心の中のシーナに呟いた。
(*´Д`*)次は久々に大河視点だよ〜
そろそろシーナ出てこないかなぁ、と、思ったので、悠河の心の中に出してみた。でも、脳内映像は青空に大きく投影されるシーナ。死んでないよ!




