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13・シーナの居ぬ間にじわじわ接近(3/3)




 ***



「……姉ちゃん……、あんまり見過ぎないでくれ」


「あの泥棒猫が……!」


「言いたいだけだろ、それ」


 吸引マシンのように、無言でおにぎりを食べている弟が、ぼそっと言ってきた。


 また空になった手で、別のおにぎりに手を伸ばす。


 私も同じタイミングで、おにぎりを食べ終わり、次に手を伸ばす。


 その前に、漬け物を爪楊枝にさして、ぱくり。


 うん、美味しい。


「なんであんな風に見つめあっちゃうかなー。武田さん、勘違いしちゃうよー?」


「……いや、姉ちゃんの彼氏でもなんでもないんだから」


「推しのスキャンダルは、命とりよ!」


「……スキャンダルって、なんだよ」


 指に残った米粒を舐めて口に入れる弟。


「まあ、本気で心配してないから、騒げるんだけどねー」


「うん、そんな感じだった」


「分かるー?なんだろうねぇ、武田さんはあんなに一生懸命、雅樹くんに片想いしているのが分かるんだけど、ないなーって」


「シーナさんしか勝たん、ってやつ?」


 大河が次のおにぎりに手を出す。


 食べるの早いな、コイツ。


「うーん、なんだろうねー。雅樹くんがサラッとしてるからかなぁ」


「何、そのサラッと、って」


「シーナの時と反応が違うのよ。なんかこう、シーナが食べている時の雅樹くんは、こう、もっと慈愛に満ちてるっていうか」


「感情あふれて、ダダ漏れって感じだよな」


「そう、そんな感じ。

 でも武田さんだと、あんたに対してよりも、こう、フラットな感じ?」


「やめろ、BLの相関図を作り出すな」


「弟は入れてないから、安心して」


「……誰を入れて作ってんだよ」


 はあ、と、これ見よがしにため息をつくと、そのまま立ち上がった。


「麦茶のおかわり無くなりそうだから、台所からペットボトル持ってくる」


「お、気がきくなぁ〜。できれば、残りのお漬け物も持ってきて?」


「……ちっ」


「舌打ちしたわね?」


 そのまま無言で行ってしまった。


 もぐもぐとおにぎりを食べていると、少し離れた所に座っているおばあちゃんが、



「おにぎり、足りるかい?」



 と、心配そうに聞いてきた。


「えーと、私は大丈夫ですけど……」


 答えながら皿やお盆の上を見回すと、それぞれに1個くらいしか残っていなかった。


「おにぎり足りますか?そろそろお饅頭食べられると思うんですけど」


 私が尋ねると、玉城さんと清野さんが、口をもぐもぐさせたまま頷いた。


「それじゃあ、お饅頭にしようかねぇ。美園ちゃん、お皿と手を拭くもの持ってきて」


「はぁい」


「あ、僕も手伝うよ」


 武田さんが立ち上がると、雅樹くんも一緒に縁側の方へと歩いて行った。


 おいおい、雅樹くん、そういうとこだぜ?


 スマートに親切な14歳って、そんなにいないんだぞ?


 それに、合気道をやっているせいかもしれないけど、思春期でぐずぐずになってる中学生の中で、背筋をぴんと伸ばしている男子って、目を惹くと思う。


 その真っ直ぐな背中を見ている後輩女子のハート撃ち抜くなんて、雅樹くんにとっては朝飯前だろ?


「……罪な男だなぁ」


 ひとり、ふふっ、と、ニヒルに笑う。


 それが聞こえたのか、多江おばあちゃんが、


「どうしたい?お腹痛いかい?」


 と、心配そうに聞いてきた。


「いえ、お腹いっぱいですけど、痛くないですよ!お饅頭食べるの楽しみです!」


 元気な女子高生のような見本で答えた。


 すると、


「そうかい?大丈夫ならいいんだけど。

 ……ふぅ、それともおこわ足りなかったかねぇ。これでも1升分炊いたから、お土産分にまでなると思ったんだけどねぇ。

 若い子たちがよく食べるの、忘れていたねぇ」


 と、頬に手をあてて、おばあちゃんがため息をついた。



 え?


 おばあちゃん?


 今、なんて?



「……これ、1升分のおこわだったんですか?」


「そうだよぉ」


「1升って、10合ですよね?」


「ん?そうだよぉ?」


 1合で2人分ちょっとのご飯。

 その10倍だから……




「た、玉城さん……!」


「なぁに?悠河ちゃん」


 玉城さんがのんびりと漬け物を食べている。


 それどころじゃない!玉城さん!


「わ、私たち、20人前のおにぎりを、食べてました」


「えー?だって、ここにいるの………おばあちゃん入れて、……7人……?え……」


「玉城さんすごいよねー。俺と同じペースでずっと食べてたもん。

 よく食べる女の子ってす」


「いやぁぁぁ!太る!」


「か、帰りは、走って帰ろうかな!た、玉城さんも稽古で動きましたもんね!」


「……悠河ちゃん、帰りに行かない?温泉つきのスポーツジム。さっき体験用チケットもらったの」


「行きます!」


 何故か顔をおおってうつむいている清野さんの隣から、玉城さんが勢いよく私の方に走り寄ってきた。


 互いの拳を軽く打ちつけて、目を合わせてうなずく。


 玉城さんと、私の中に何かが通い合った。


「……ちなみにだけど、シーナちゃんが、太らない理由、教えて!」


「……全部、胸にいっているからだと思います……!」


「………くっ!」


 ごめん、シーナ。


 シーナは一番の親友だけど、今日だけは玉城さんと仲良くさせてもらうね……!


 私はそっと、心の中のシーナに呟いた。







(*´Д`*)次は久々に大河視点だよ〜

 そろそろシーナ出てこないかなぁ、と、思ったので、悠河の心の中に出してみた。でも、脳内映像は青空に大きく投影されるシーナ。死んでないよ!


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[一言] シーナへの熱い風評被害( ˘ω˘ )
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