13・シーナの居ぬ間にじわじわ接近(2/3)
お饅頭の詰まったセイロを持って、縁側から庭に出る。そして、レンガが敷き詰められたエリアに置かれた業務用のガスコンロの前まで運ぶ。
ガスコンロの上には、水の入った鍋が置いてあった。
「それじゃあ、ここで蒸すからねぇ。
その間に、おこわのおにぎりを作ってなさいな。
美園ちゃん、頼んだよぉ」
多江おばあちゃんはそう言いながら、近くにある椅子に座ると、
「はい、そこのお兄さん。力がありそうだから、セイロ係ね」
「はぁい」
清野さんがこくりと頭を縦に振った。
「……セイロ係清野……」
ぼそっと、玉城さんが何か言ったけど、聞かなかったことにした。
大河が腕の筋肉を気にして触っているけれど、単純に身長で多江おばあちゃんは選んだんじゃないだろうか。
「……新しい筋トレ、あとで検索するか……」
大河の呟きが聞こえたけれど、スルーした。
それ以上鍛えてどうする。
残りの5人でまた台所に戻ると、
「このおひつに、おこわが入ってます」
武田さんが大きな木のおひつの蓋を開けた。
ふわっと、湯気が出たように見えた。
「わぁ、いい匂い」
「お腹すいた〜。稽古終わってから、菓子パン1個食べただけだったんだよね〜」
悠河さんと玉城さんが吸い寄せられるように、おひつのあるテーブルに向かった。
「この三角の型抜きに入れればいいの?」
「はい。3個まとめてできるので。
最後にこれで上から軽く押してください」
「はーい。了解」
玉城さんがぱたぱたと、型におこわを入れていく。
その隣から悠河さんが軽く木の板を持って押していく。
「あ、武田さん、お皿は?」
「雅樹せんぱいの後ろにある食器棚に。
大きいお皿をお願します」
「はーい」
玉城さんの口調がうつった。
大河に皿を渡して、近くにあったお盆をかかげて玉城さんたちの近くに立つ。
大河の持つお皿に、ぽんぽんとおにぎりがのせられていく。
「……腹減った」
「大河は、家で何か食べて来たんじゃないか?」
「……腹減った」
「大河は最近そればっかりよねー。食べても太らない魔法の体は、いいなぁ〜」
「走ればいいんだよ」
「走ってても、バイト先の賄いとかおやつで太るの」
「あ〜、分かる。なんで高校の時って、あんなに太るんだろうって思う」
「玉城さんもそうだったんですか?」
「悠河ちゃん、残念ながら、高校卒業した後も、別に痩せないから。むしろ見えないところが太るから」
「……え」
恐ろしいものを見たような顔で、悠河さんが玉城さんを見つめる。
「……痩せてません?玉城さん」
「筋肉でなんとかそう見えているだけかもよ」
ふふっと、渇いた笑いを玉城さんが漏らした。
おひつにあったおこわを、すべておにぎりにして皿に盛る。
「なんだか多い?」
「型抜きの大きさが小さいから、そう見えるのかも」
玉城さんと悠河さんも、お皿を持つ。
それからみんなで、お盆やお皿を持ってそのまま縁側へ出ると、
「昔は薪でやったもんだけど、今はもうダメだねぇ。
ちょっとでも燃やすと、消防署に通報されちゃうみたいだねぇ」
「住宅街ですからね、ここ」
「ご実家ではまだ薪風呂なんて、珍しいねぇ」
「毎回じゃないんですよ。裏の山から出た枝とか、もったいないから燃やして使っているだけで」
清野さんと多江おばあちゃんの会話が、予想以上に盛り上がっていた。
「あ、おにぎり!」
清野さんも稽古終わりで、お腹が空いているようだ。
僕ももうお腹がぺこぺこだ。
「それじゃあ、おにぎりを食べようかねぇ。お饅頭は蒸しあがったばかりだから、ちょっと冷まそうねぇ」
庭の水道で手を洗い、逆さにしたビールケースの上に乗せた皿から、それぞれにおにぎりを取る。
そして、その周りに置かれたキャンプ用の折りたたみ椅子に座った。
敬老の日の空は、ほどよく曇り空で、ピクニックのようにみんなで外で食べるには、ちょうどいい天気だった。
「いただきまーす」
「まーす」
玉城さんと清野さんが早くも1個目を食べ終わる。
「おいしー。おばあちゃん、おふかし上手ですね」
「姉ちゃん、なんで上から目線なんだよ」
「昔とった杵柄かねぇ。久しぶりだけど、覚えているもんだねぇ」
にこにことしながら、おばあちゃんもおにぎりを食べる。
僕も、小さなおにぎりを手にとり、ひとくち食べる。
ふわっ、と、紫蘇の香りがした。
その後に、醤油の染み込んだシイタケが少しの歯応えを感じさせる。
もちもちとした餅米と、柔らかくなったニンジン、そして、少し大きな塊が口の中で崩れる。
「あ、栗が入ってる」
思わず声に出た。
「ちょうど売っていてねぇ。美園ちゃんに皮剥きを頼んだんだよ」
「剥いたっていうか、半分に切ってくり抜いただけっていうか……」
もごもごと、口におこわを含んだまま、武田さんが答えた。
こくん、と、飲み込んでから、僕を見て、
「きっと、雅樹せんぱいが食べたのは当たりですね!
みんな小さくなっちゃって、食べても分からないような大きさですから」
と、少し恥ずかしそうに笑った。
僕は、
「それはラッキーだね」
と、笑って返した。
(*´ー`*)おい、今、お前ら、見つめあってるだろ。付き合ってるみたいになってるぞ。




