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13・シーナの居ぬ間にじわじわ接近(1/3)

「はい、それじゃあ、出来上がったお饅頭をこの経木に乗せますよぉ」


「きょうぎ?」


「あ、この薄い木の板?」


 多江おばあちゃんに一番近い位置で、お饅頭を丸めていた清野さんと玉城さんが薄い木の板をもらう。


 板というよりは、厚紙といった方がいいくらいの薄いものだ。


 それが四角に切ってある。


「そうですよぉ。いつもはクッキングシートを使ってましたが、お店に行ったら売っていたのを見つけちゃってねぇ。

 楽しいから奮発してしまいました」


 うふふ、と、多江おばあちゃんが楽しそうに笑う。


「切らないで、大きいままだと、お団子を包んだりできるんですよぉ」


「あぁ、そういえば見たことある」


「すこぉしだけ、木の香りが移っていいんですよぉ。

 近ごろは見なくなってたけど、まだあったんだねぇ」


 大河と悠河さんも、珍しそうに経木を手にとったり、かざしたりして見ている。


 僕も武田さんから8枚貰う。


 本当に薄い。


 でも、木の匂いがする。


 鼻先に近づけて、すうっ、と香りをかぐ。


「……おばあちゃん、久しぶりにおじさんたちに車を出してもらって、食材とか買い出しに行ったみたいなんです」


 僕の隣でお饅頭を作っていた武田さんが、少し体を寄せて、こっそりと話してきた。


「今年の夏は暑かったから、おばあちゃん、全然出掛けなかったらしくて。

 私、いつも連絡してから遊びに来てたから知らなかったんですけど、ずっと家にいたんですね……」


「そうなんだ」


 確かに、今年の夏は暑かった。


 あの暑さの中、散歩で出かけるのもおばあちゃんにとっては命がけになりそうだった。


「はい。だから、こんなにおばあちゃんが張り切っているの、初めて見て。

 ……雅樹せんぱいのおかげです。せんぱいがいなかったら、こんなにおばあちゃんが楽しそうにお饅頭作りの用意をするの、知らなかったから」


 武田さんが嬉しそうに僕の顔を見て、笑った。


「また、お饅頭作り、しましょうね」


 僕は多江おばあちゃんや玉城さんと清野さん、大河と悠河さんが賑やかに話しているのを見て、


「うん、そうだね」


 と、武田さんに微笑んで答えた。






 その後、渡された経木にそれぞれのマークをつけた。


「自分の作ったお饅頭が分かるように、なんでもいいですから、印をつけてくださいねぇ」


「はーい、多江おばあちゃん、他の人とかぶらなければいいんですよね?」


 玉城さんが右手を挙手しながら、のんびりと尋ねた。


 おばあちゃんは、にこにこしながらうなずいた。


「じゃあ、玉城だから『丸(○)』で」


「じゃあ、清野だから、『の』、で」


「丸ばっかりじゃないですか」


 僕が思わずつっこむと、清野さんがゆるゆると首を振った。


「めんどいの、書けないから」


「じゃあ、私は悠河だから、『ゆ』、で」


「やっぱり丸じゃないですか」


「大河だから、『大』」


「……それはそれで、簡単だな。僕はどうしようかな」


 迷いながら、とりあえずイニシャルの「M」を書いてみる。


 油性ペンが滲んで、読みにくい。


 2つくらい書いてから、別のにしようと、ペンのキャップをしめる。


 隣にいる武田さんを見ると、


「あ」


「え?」


 僕と同じように「M」の字を書いていた。


「武田さん、それ……」


「名前のイニシャルの……あ」


 武田(たけだ)美園(みその)さん、だったな。


 確か。


 同じ「M」だった。


「滲まない?」


「……滲みますね。なんだか四角っぽい」


 武田さんも3枚目まで書いて、手を止めた。


 それを見ていた大河が、


「別に誰のか分かればいいんだから、点3つとか、棒線とかでいいんじゃないか?」


「あー、そうか、そうだな。

 えーと、じゃあ、点3つ」


 ぽんぽんぽん、と、軽く点を打つ。


 武田さんは、しばらく迷ってから、漢数字の「二」のように、棒線を短く2本引いていた。


 それぞれに多江おばあちゃん特製の餡子を包んだお饅頭を8個、マークをつけた経木にのせる。


「それじゃあ、蒸し器に入れますよぉ。お饅頭がくっつかないように、経木を重ねて置かないでくださいねぇ」


 おばあちゃんが年季の入った木でできた四角いセイロを置いた。


「あとは、外にあるガス台で蒸しますからねぇ」


「え、ここで蒸さないの?」


 セイロに並べていた悠河さんが聞いた。


「台所のは、アイエイチコンロだからねぇ。今日は外に業務用のガスコンロを置いたの。

 うふふふ、久しぶりにガスコンロが使えるから楽しいねぇ。

 使い慣れた道具はみぃんな、ガス台で使っていたから」


 しわしわの手で、ゆっくりとセイロを撫でる多江おばあちゃん。


 おばあちゃんの手と同じくらいに、角の丸くなっているセイロは、長い時間を経ていることを感じさせた。


 古いけれど、大切に使われていたのか、木目が光って見えた。


「前は一緒に作ってくれていた人がいたんだけどねぇ。

 美園ちゃんが来た教室が最後で、もう辞めちゃった。

 同じ市内にいるらしいけど……元気かねぇ」


 ぽそりとこぼした多江おばあちゃんの声は、セイロの底の隙間に落ちて消えた。




(*´ー`*) 2023年2月4日1時(午前1時)~2023年2月4日19時(午後7時)

なろうがメンテだそうです。


メンテ終了後、予約投稿が一斉に流れてくると思うので、次話の投稿は20時(午後8時)以降にします。



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