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12・みんなで集まろう!(*シーナを除く)(3/3)

「何かあるんですか?」


「別に何もないよ。その武田さんと雅樹くん、仲がよかったのかなぁ〜って思って」


「別に、ふつーに部活の後輩ですよ」


「カレーをごちそうになっちゃうくらいに?」


「知らない人じゃないんですから、ご飯食べるくらいありますよ。

 友だちの家に行って、ごはん出されたら食べますし」


「ふぅーん」


 何か悠河さんが物言いたげなんだけど、さっぱり要領を得ない。


 首を傾げて、悠河さんを見てもそれ以上は何も言わないし。


 なんなんだろう?





 ***




 雅樹くんを狙う泥棒猫は、私が追い払ってやろう!


 そんなことを考えている。


 シーナは何も私に言ってこない。


 こんな時くらい、頼ってくれてもいいのに。


 ぶらぶらと、麗香さんから渡された緑茶の紙袋を揺らして歩く。


 微かな風が顔にあたり、美容師さんがカットしてくれたばかりのシャギーが、軽く頬を撫でる。


 少しだけ、軽くなった髪。


 首筋が涼しい。


 爽やかな秋の空というよりも、まだ夏の暑さが残っている空の青さ。


 今年の夏は、暑かった。


 その夏の暑さにまだ浮かれているのなら、私が頭を冷やさせてあげないと。


 でも。


 武田……。


 同じ苗字の子が同級生でいたんだけど、関係ないかなぁ。妹いるって言ってたと思うんだけど。


 大河から聞いた話の限りでは、おとなしそうな子らしいから関係ないんだろうなぁ。


 それにしても、中学校の美術部でシーナと雅樹くんが一緒にいるのを見ているのに、それでも押してくるって、ある意味すごい。


 ちょっとだけ、少年漫画の強敵が現れた展開のように、わくわくしてきてたりする。




「こんにちは〜」


 雅樹くんを先頭にして、ごくごく普通の一軒家に声をかける。


 庭の方から、


「はーい。こっちにどうぞ〜」


 と、のんびりとしたおばあちゃんの声が聞こえた。


 ぞろぞろとみんなで庭の方に入ると、縁側に面したガラス戸が開けられていて、そこに白い割烹着を着たおばあちゃんが立っていた。


「いらっしゃい。

 今日はお饅頭の体験教室へ、ようこそ。

 久しぶりにたくさんの子に食べてもらえるから、嬉しいねぇ」


 にこにこと楽しそうに笑っている。


 おばあちゃんはゆっくりと歩いて、部屋の奥の方へと入っていった。


「荷物はこの部屋において、エプロンをつけて手を洗ったら、台所においでぇ」


 私たちは「はーい」と、声をそろえて返事をすると、順番に靴を脱いで、縁側にあがった。


 ごくごく普通の庭に、ごくごく普通のお家におばあちゃん。


 台所にはもう準備ができていた。


「おこわも作ってあるから、お饅頭を蒸している間に、食べようねぇ」


「多江おばあちゃん、昨日から張り切って準備してたんです。ね、おばあちゃん」



 出たな、泥棒猫・武田。



 私は臨戦態勢に入ったけれど、あんまりにもおばあちゃんが嬉しそうに、


「和菓子屋でも赤飯は売り物だからねぇ。久しぶりにこんなにたくさんの餅米をふかせて、楽しかったねぇ」


 と、笑うので、私はなんだか毒気が抜かれてしまった。


「……姉ちゃん、今日は変なことしないで、お饅頭作ろうぜ」


 エプロンをつけていると、大河が小声で言ってきた。


「変なことって、何よ」


「武田さんに牽制とか、なんか余計なこと考えてるだろ」


「……それの何が悪いのよ」


「おばあちゃんの家にお邪魔してるんだから、失礼なことするなよ」


「……ううう」


 確かにあんなに嬉しそうに餡子の入ったタッパーを並べているのを見たら。


「……わ、わかった」


 そう言うしか無かった。


 お饅頭作りは、用意されていた皮の部分を切り分けるところから始まった。


「これをこんな風に8等分にします」


 おばあちゃんが、さくさくっと白い生地を切り分けていく。


「え、早い」


「8等分?!」


 清野さんと玉城さんが驚いている。


 驚きの手際の良さだ。


「ふっふっ、そんなにびっくりしないでくださいよぉ。

 おばあちゃん、張り切ってやっちゃうからねぇ」


 イタズラが成功した子どものように笑う。


「大丈夫ですよぉ、ここに計量器があります。使ってください」


「はぁい」


「あんまり大きさが違うと、蒸した時にばらつきが出ちゃうからね。だいたい同じ大きさにしてねぇ」


「はぁい」


 わいわいと話しながら、お饅頭の生地を切り分ける。


 その後も、軽やかに生地の中に餡子を入れて包みあげるおばあちゃんの手際に驚いたり、にぎやかに作業は進んでいく。


 でもね。


 私は気づいた。


 武田さんという女の子は、おとなしそうな顔をして、抜け目がない。


 一応、多江おばあちゃんのサポート役として立っているけど、一緒にお饅頭を作りながら、さりげなく雅樹くんに手伝いを求めたり、包み終えたお饅頭の形が変じゃないかと、雅樹くんに聞いたりしている。


 何より、雅樹くんより身長が低い!


 シーナの身長を抜けないままでいることを気にしている雅樹くんに、これはポイントが高い!はず。


 大河には止められたけれど、やっぱりこの泥棒猫を私は見過ごせない。


 私はひとりこっそりと、強い決意を胸に秘めた。





(*´Д`*)蒸したてのお饅頭食べたい!そんな寒さですね。暖かくしてお過ごしください。


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[一言] お饅頭食べたくなってきた( ˘ω˘ )
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