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9・週明けの月曜日は面倒くさい③

「あ、武田さん」


 隣にいた雅樹が、軽く手をあげる。


 前に美術部で見たような気がする。


 あの子が例の後輩の子か。


 小走りで近づいてくる。


 雅樹よりも身長が低いせいか、可愛らしいような感じはするけれど……シーナさんのような派手さはないし、地味な方って言っていいのだろうか。


 昨日、遊んだ女性側のメンツが、麗香さん、シーナさん、姉の悠河と、判断基準を破壊する人たちしかいない。


 しいて言うなら、おとなしそうな子だろうか。


「あの、どう、でしょうか?

 多江おばあちゃんのところで、できそうでしょうか?」


 申し訳なさそうにしながらも、ちゃんと雅樹に顔を向けて聞いている。


 ふーん、これはシーナさん焦るはずだ。


 雅樹への好意を隠そうともしない。


「うん、何人かに声をかけて、都合のいい日は出たんだけど。

 ちょっと多江おばあちゃんの都合も合うかわからない日になって。

 詳しいことは、部活の時に話すよ」


「はい、すみません、移動の途中で声をかけてしまって」


「僕らはそこの理科室だけど、武田さんたちの方は教室に戻らなきゃいけないんだろ?

 急いだ方がいいよ」


「……はいっ!ありがとうございます!

 それじゃ、また、部活で!」


 なんかわからないけれど、武田さんの雅樹への好感度が上がった気がした。


 少し顔を赤らめて、ぺこぺこと頭を下げると、足を止めて待っていた同級生たちを追いかけていった。


「……今の、武田さんで合ってる?」


「うん」


 雅樹に確認をすると、廊下の後ろの方から、小さな声で女の子たちが騒いでいる声が聞こえた。


 振り返ってみると、顔を赤くした武田さんを囲んで、周りの女の子たちが盛り上がっているようだった。


 あれか。


 憧れの先輩と話せてよかったねとか、そういうやつか。


 視線を戻そうとして、思わず肩がビクッと震える。


「……大河?どうした?」


 教室のドアを押さえて俺を待っていた雅樹が、不思議そうな顔をして見ている。


「……いや、別に」


「そう?」


 言えるわけがない。


 雅樹に告白しようとしてやめたまま、片想いを続けている心愛(ここあ)とかいうクラスメイトが、恐ろしい顔で武田さんたちを見つめていたなんて。


「……ちょっと、嫌な予感がする」


 俺は雅樹には聞こえないように小さな声で、愚痴を吐いた。


 人体模型と目が合ったが、何の励みにもならなかった。






 嫌な予感が当たったのは、その日の放課後。


 スリーポイントシュートの練習をしていると、ボールが続けて開け放した体育館の扉から、飛び出てしまった。


「あー、そっちも一緒に取ってくるから!」


「大河、わりぃ!ありがとう!」


 雨が降っていないからと、ネットをかけるのを忘れていた。


 シューズは雑巾で拭けばいいか。


 そのまま外に出る。


 1つ目のボールを抱えて、もう1つのボールを探していると。


「……ねぇ、武田さん、だっけ?雅樹くんと同じ美術部にあんな子いた?」


「……夏休み明けに転校してきたみたいよ」


「え?1ヶ月も経ってないのに、雅樹くんにあんなに露骨にアピールしてるの?」


「……私、1年生の時から、好きなのに」


「私だって、ずっと前から……」


 恐ろしく湿った女子会に遭遇した。


 あ、ボールが、女子たちの後ろにある生垣に乗ってる……!


 部活の休憩中に偶然集まったのか、ジャージ姿の同じクラスの女子たちがぼそぼそと話している。


 その中には、心愛(ここあ)とかいうクラスメイトをはじめとして、俺がシーナさんのことをチラつかせて告白を止めた女子たちが何人も見えていた。


「さっき、美術部の近くに行ってきたんだけど、雅樹くんと休みの日の約束してて」


「え!ふたりきりで?」


「ううん、何人もいるみたい。たぶん、大河とか入ってるんじゃない?」


「ああ、いつも一緒だもんね」


「……それなら、大河を捕まえて聞けばいい?」


「女子バスなら、話せる?」


「みんなで囲めば、なんとかなると思うんだけど」


 そう言って、互いに顔を見合わせては、大きく頷いた。


 いや!


 ちょっと待て!


 囲めばって何だ?


 集団リンチの発想が怖い!


 このまま見つかれば、囲まれる……!


 俺は生垣に乗ったままのボールは諦めて、足音を立てないように忍び足で体育館まで戻った。


「あれー?大河、ボールは?」


「………なんか、見つからなかった。後で一緒に行こうぜ」


「そっかー。変なところに飛ぶ時あるからなー」


「……なー。本当に」



 何で雅樹が外でカレー食べてきただけで、こんな面倒くさいことになってるんだろう。


 とりあえず、女子に囲まれないようにしないと。


 それなら、状況をバラすだけだ。


 俺は保身に走った。





 翌朝、授業前に雅樹を捕まえて、少し大きい声で話した。


「そうかー。大学生の玉城さんと清野さんも一緒に来るのか〜」


「うん。多江おばあちゃんの家がわからないから、玉城さんたちは道場前で待ち合わせにした」


「シーナさんとねーちゃんは、俺たちと一緒だよな」


「うん。全部で6人かな、僕の方で誘ったのは」


「うん、みんなで、楽しくやろーな!」


「う、うん。大河?どうした?

 耳に水でも入ったのか?声が大きいんだけど」


「あー?そーか?気のせいじゃないか〜?」


 あはは〜と笑いながら、教室にいる女子たちを確認する。


 うん、情報は以上だ!


 俺はこれ以上のことは知らん!


 慣れない道化じみた大声に、我ながら情けなくなった。


 思わずため息が出る。


「……あー、面倒くさい」





(*´Д`*)クラスメイトの心愛ちゃんは、

短編の方の『金髪碧眼で美少女の幼馴染がヤンデレになろうとしているけど、どう頑張ってもチョロインすぎる』

(https://ncode.syosetu.com/n3610hu/)

に登場した当て馬だよ!

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[一言] 雅樹モテモテやな( ˘ω˘ )
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