1.こんなヤンデレチョロインですが、よろしくお願いします③
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「じゃあなー、大河!」
「うーす、おつかれー」
ミーティングだけで終わったバスケ部を終えて、校門で他の部員たちと別れて、帰路につく。
コンビニでアイスを買おうかと思いながら歩いていると、金髪のセーラー服にくっつかれている同じ中学の制服が見えた。
あれ、絶対に雅樹だな。
中学入学時から、なんとなく気があって、バスケ部と美術部という共通点が無さそうな相手ながら、なんだかんだで仲良くなっている。
2年になってからは同じクラスになったこともあり、帰り道に雅樹の家に寄ったりもしている。
ただ、雅樹と遊び過ぎた結果、シーナさんとも知り合いになってしまった。
……まぁ、そこは……今は、いいや。考えないでおこう。
とりあえず、部活が早く終わったし、ちょうど帰り道に見つけたし、雅樹の家に寄ってみるかなと思ったが…。
なんだか公道でイチャイチャしている。これ、話しかけちゃダメだよな。でも、歩道の幅がないから、通り抜けも出来ないし。
困ったなぁと、少し立ち止まっていると、雅樹が顔をシーナさんの手の甲に埋めるのが見えた。
わーお。
手の甲にキスしたな、あれ。
俺の予想通りに、シーナさんが真っ赤になって雅樹から離れた。
雅樹も首筋まで真っ赤になってる。
そして、そのまま狭い歩道の両脇に分かれて、2人向かい合って固まってしまった。
なんだあれ。
リア充爆発しろって言葉の見本か?
「雅樹……シーナさん何やってるの?」
とりあえず、声をかけて、なんとか2人を連れて歩き出すことに成功した。
したけど。
「で?お菓子渡されたの?」
「……断ったからね」
「ふーん」
さっきからこの会話だ。
これは、面倒くさいことになるなぁと、ため息をついた。
そのまま雅樹の家にお邪魔することになった。
カバンを置いて、シーナさんが淹れてくれた紅茶を飲んでいると、雅樹が宅配便の受け取りで席を外した。
ぱたん……。
リビングの扉がしまった瞬間。
部屋の空気が冷えたのが、わかった。
「……ねぇ、大河くんは、平和主義者で、合ってるわよね?」
にっこりと笑うビスクドールのような顔のシーナさんを見るのは、何度目だろうか。
怖い。
目が笑っていない。
飲みかけの紅茶に、毒物でも混入されていたのではと思ってしまうほどの変わりよう。
いつものことだけど、やっぱり怖い。
「……そうっすね」
「ねぇ、雅樹にお菓子をあげようとするほど、雅樹のことが好きな女の子がいるみたいなんだけど」
「いや、俺にはわからないっす」
「そう、同級生じゃないのね。それじゃあ、美術部の後輩かしら」
「………さぁ」
「大河くん、悠河に後で連絡するけど、雅樹を狙うような女は、潰すから協力してね?」
「……いや、俺は」
「……ね?大河くん」
「………うっす」
シーナさんは、雅樹の周りに女の子が近づくと豹変する。素でやっているから、本当に怖い。
雅樹と一緒にいる限り無害化するので、本気で怖いと思った時は、とにかく雅樹のところへ逃げるようにしている。
ただ、それだけシーナさんは、雅樹のことが好きなのだ。
姉の悠河に言われて、それが分かった。
俺としても、親友の雅樹が大事にされるのなら、それでいい。
雅樹もシーナさんのことを大事に大事に思っている。
だけど。
「……美術部だとすれば、俺にはどうにもできませんよ?」
「何もしなくていいわよ。
ただ、ちょっと美術準備室に雅樹が近づかないように見張っていてくれれば。
わたしが土田先生と一緒にいるところを見て、雅樹が嫉妬で苦しんでしまうのは、嫌なの。
だから……ね?」
「俺は、バスケ部の部活が……」
「大丈夫、少しだけだから。
向こうの顧問の先生にも、話しておくから。
いいでしょ?大河くん……?」
「……う、うっす」
だけど、俺を巻き込まないで欲しい。
本当に。
光の消えた青い眼で、にっこりと笑うシーナさん。
マジで怖い。
知りたくなかった事実として、金髪碧眼の美少女のシーナさんは、その見た目で中学時代にたくさんの変態の劣情を無自覚に揺り起こしまくった。
悲しいことに、その変態の中にバスケ部顧問の弟も入っていた。
事件にはなっていないが、ごにょごにょなことをしようとした顧問の弟を懲らしめたシーナさんに、うちのバスケ部顧問は頭が上がらない。
だから、シーナさん絡みで、部活中に20分程度抜け出すくらいなら、顧問はあっさり許してくれる。
いや、人身御供に俺を差し出さないで欲しい。
本当に。
もう少し生徒を守って欲しい。
おかげで、まったく女子高生や美少女への夢が持てない。
翌日の放課後。
シーナさんに言われた通り、美術準備室に向かう。
美術部顧問の土田先生が授業準備なのか、広い作業台の上にたくさんの本を広げていた。
入り口のドア近くに立った俺を見ると、
「ああ、シーナくんが来るんだってね。いらっしゃい」
と、既に色々わかっているようだった。
「失礼します。あの、土田先生、シーナさんとは仲が良かったんですか?」
「うん。今までに何度かモデルになってもらってたんだ」
「へぇ、そうなんですね」
美術部顧問の土田先生は、身長も高くてイケメンだとクラスの女子が騒いでいた。選択教科なのに、女子の比率が飛び抜けて高い。
雅樹も美術を選択しているが、「土田ハーレム」の女子たちは同級生の雅樹になどは、目もくれない。
おかけで、俺もシーナさんに報告することがなく、楽でいいと思っていた。
美術部も同じく、「土田ハーレム」の人ばかりだったはずなのに、何故かまた雅樹のモテが発生している。