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7・勝手に来た人に来る予定の人をぶつけてみる③

「おかえり、シーナ」


 僕を見て笑いかけるシーナの髪は、肩にさわるくらいの長さになっていた。


 前髪と口元あたりのサイドの髪は、ぱっつりと切り揃えられている。


「見て見て、雅樹。

 姫カットにしてもらったの!」


 嬉しそうに顔をほころばせながら、小さく首をかしげるシーナ。


 さらりと、口元に毛先がかかる。


「髪の毛食べてるよ、シーナ」


 近づいてきたシーナの頬に手を伸ばして、髪の毛をそっとはらう。


 嗅ぎ慣れない、普段のシーナと違う美容院のシャンプーの香りがした。


「えへへ。

 あのね、絵のモデルの話をしたら、女神みたいにしてみようって、なって。

 でも、ヴィーナスみたいにウェーブさせると大人な感じになっちゃうから、ここは姫カットでしょうってなったの。

 ねぇ、似合ってる?」


「うん、サラサラのシーナの髪に合ってていいと思うよ」


「本当?よかったぁ。雅樹の好みに合わなかったらどうしようかと思ってたの」


 昨日、着てた胸元が開いたワンピースではなく、今日のシーナはふわっとした麻の白い服に、ベージュ色のショートパンツを履いていた。


 僕の前に正座をしたシーナの太ももが目に入る。


「雅樹にきれいに描いてもらえるように、がんばるね」


「頑張るのは僕の方じゃないの?」


「うん、雅樹もがんばってね」



 ふふふと笑うシーナ。



 そのシーナの頭に真っ黒いウサギのぬいぐるみが当たる。


 ぽこんっと、弧を描いて、大河の手元に落ちた。


「……なんか落ちてきた」


 のっそりと起き上がる大河。


 ぬいぐるみが飛んできた方向を見ると、仁王立ちした兄の姿があった。


「近い!離れろ!

 そして、俺を無視するな!」


「えー……、いたのぉ?」


「いた!そして、絶対に視界に入ってただろう!」


「知らない」


「最近の女子高生は、これだから……!」


「もー、うるさい。雅樹と話してたのに、邪魔しないで」


「俺は久しぶりの実家に帰って、愛しい弟の雅樹と同じ空間にいるのを楽しんでいたのに、お、ま、え、は〜!」


「兄貴、うるさい」


「また雅樹はそんな冷めた目で……!

 反抗期か?!

 中2だもんな! 14歳だもんな!」


「ずっと前から変わらない対応だと思うけど」


「なんでだよ!小さい時は仲良く遊んでたじゃないか!」


「いや、シーナと遊んでいたのを邪魔されて、連れ去られた記憶しかない」


「覚えてないだけだろぉ〜?」


「わたしから雅樹を奪ってた」


「ほら、シーナも覚えてる」


「ぬぬぬ〜!3人で一緒に遊んでただろ?」


「いや、兄貴が割り込んできてただけだった」


「そんなことないだろぉ〜?雅樹ぃ〜!」


 埒があかない毎回のやり取り。

 弟への愛を叫ぶが、僕は覚えているし、忘れてない。


「麗香さんの気を惹くためにやってたじゃん」


「ち、ちがわい!」


 そして、毎回のことながら、兄が盛大に狼狽えはじめた。


「小さいシーナが僕を抱っこしてるのを見て、麗香さんが喜んだから、兄貴が急に僕のところへ寄っていくようになったって、母さん言ってた」


「……母さん!」


「麗香さんがこっちに帰ってきてた時だけ、僕のところに近づいて来てたの、覚えてるよ」


「それは……偶然だ!」


 黙って見ていた大河が、こっそりとシーナに尋ねる。


「雅樹のお兄さんって、麗香さんが初恋の人なんですか?」


「告白すらできてないチキン野郎よ」


 シーナも兄に対しては、辛辣さを全面に出す。


 僕も同じく。


「麗香さんとうまくいくわけないのに、嫉妬だけはすごくて。弟の僕がシーナと仲良くしてるのが気に入らないんだよ」


「そうなのか?」


「ちがーう!」


 大河の疑問を盛大に否定する兄。


「ちょっと、兄貴。こっちの話に割り込んでこないでよ」


「だって、明らかに俺の話じゃん!

 目の前に当事者がいるのに!

 それに、今! 雅樹は聞き捨てならないことを言った!

 俺は、雅樹が可愛くて仕方ないのぉ!」



「へぇー……」



 目が死んでるのを自覚しながら、兄を見上げる。


「麗香さんが家にいるって分かった途端に、シーナと僕がいるところに急に混ざってきたり、麗香さんの隣に座るために僕に飲み物をとってくるように言いつけたり、麗香さんが帰ってくる日を聞き出すために僕に電話をかけさせたのも、弟が可愛いから?」


「ぐっ……!

 そ、それは悪かったと思ってる。

 だから、ちゃんと雅樹に兄として愛を伝えようと……」


 兄が一歩後ろに下がった。

 その瞬間。



「シーナのプリン、ちゃんと残してた?」



 麗香さんがインターホンも無しに、リビングに入ってきた。


 やっぱりね。


 そろそろ来ると思ってた。


 麗香さんの方を振り向くと、さらさらの銀髪はそのままに、赤いカラコンを入れて、黒のガータースカート姿で立っていた。


 シーナと違って、生足ではなく黒のニーハイをはいている。


 三十路に生足は辛いか。


「ちょっと、今、何か失礼なこと言った?」


「いいえ、何も」


 見下ろされながらも、目を逸らさずに答える。

 今日は心構えが出来ていた分、余裕がある。


「一個だけ残してます」


「そ。じゃ、食べるから出して」


「はいはい」


 冷蔵庫に向かうために立ち上がると、目の前で兄がフリーズしていた。



 あえて言わなかったけど、何か?




( ;´Д`)風邪ひいちゃった……

書けていないので、次の更新は12月23日(金)になります。


25日に重なりますね〜。

有馬記念ですね!(にっこり)

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― 新着の感想 ―
[一言] あらら、風邪は心配ですね……。 くれぐれもご自愛ください!
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