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子悪党の母は飲んだくれ

「いやぁん!リュクシス君ったらお世辞が上手いんだからぁ!!」

「ハハハッ、いやぁお世辞じゃないですって。アキィナさんは本当にお美しい!!一児の母とは思えない美しさですよ!!」

「もうリュクシス君ったら!オバサン本気になっちゃうぞ?」

「是非とも本機にしてくれても良いんですよ?」

「「アハハハハハハッ!!」」

「あのぉ、兄貴ぃ?ちょっと良いッスか?」

「ん?どうしたバジ」


 俺がオレンジ髪の美女アキィナと会話に花を咲かしていると、唐突にバジが袖を引いて横入りしてきた。


「何だよバジ。あともう少しで口説き落とせそうなんだよ」

「いや口説かないで下さいッスよ!!俺の母ちゃんを!?」



 そう、アキィナはバジの実の母親らしい。見た目は二十代後半の妖艶で色気ある美女だが、実はバジを本当に腹痛めて産んだ経歴を持っており、一体どんな若作りの仕方をしているのだろうか。


「良いかバジ、女って言うのは揺り籠から墓場まで女だ。例えそれが人妻だろうと女である限り関係ない。いや、寧ろ……色気が増してより良い」

「それを目の前で聞かされている人妻の息子の気持ちを考えてくれないッスかね……」

「そう言うけど、ほら」


 俺が横目でアキィナさんを見ると。


「なぁアンタ、俺と10発ぐらいイッとかねぇか?」


 シヴァルが最低な誘い文句でアキィナさんを誘っていた。


「なっ?息子の前だろうと構わまない性欲の怪物だって居るんだぞ」

「シヴァルの兄貴止めてぇぇぇぇぇ!?」


 慌ててバジが抱き着いて制止する。多分あのままだと10発処か朝まで無限コースに突入していただろう。


「んだ?オメェも混ざりてぇのか?」

「実の母親を相手にとか俺にどんな業を背負わせようとしてるんスか!?」


 バジは俺とシヴァルの袖を引き寄せようとするも、俺とシヴァルから逆に肩を極められて抑え込まれてしまう。


「イテテテテェ!!と、というか兄貴達!!何で此処に居付いているんスか!?さっき見せたッスよね財宝!!」

「財宝ってアレか?あの黄金銃の事か?」

「そうッスよ!!」


 俺が手を離すと、その空いた腕でバジは懐を弄り、黄金色に輝く銃を取り出した。それを受け取ると、上に掲げてマジマジと観察する。


「如何にもアンティーク品って感じの代物だな。価値としたら美術品か骨董品……だが、コイツはやっぱり黄金じゃなくて只の金メッキだ。武器としても鈍ら、美術品としても模造の鉄塊、良くて銀貨5枚か8枚だな」


 さっきようやくバジが観念して見せてくれた黄金銃。やはりもう一度確認してもその価値は変わらない、ミレーヌはこれの何処に財宝としての価値を感じたというのだろうか。


「まぁ、こんなガキの玩具を取り上げる程大人げなくねぇよ。ったく、何処でコイツを拾って来たのやら」

「い、いやぁ。偶々一階層で見つけたゴミなんスよぉ。何か珍しくてぇ」


 その物言いに若干の嘘臭さはあるが、こんなガキを虐めても面白くも無い。そのエセ黄金銃をバジの懐に閉まってやる。そして俺は先程の回答に答えてやる事にした。


「男ってのは、酒と女がある所には自然と集まって来る物だぞ。酒場しかり娼館しかり、そういう所には自然とパンツ見せてくれる女とかケツを揉んでいい女と居るもんだ。だから男どもはパンツと尻を求めて集まるんだよバジ君」

「途中からほぼエロの事しか入ってないッスよエロ兄貴!というか娼館は兎も角、酒場じゃダメでしょやっちゃぁ!!」

「あん?やっちゃダメなのか?」

「やっちゃダメッスよシヴァルの兄貴!!」

「ねぇ三人とも何やってるのぉ?こっちで一緒にお酒を飲みましょうよぉ」


 そうこうしてやろう三人集まっていると、後ろの美女からお酒の誘いが聞こえた。ならば断わる理由も無い。


「良いですねぇ。それじゃあ飲みましょうや」


 何、夜はまだ長い。どれだけ飲んだって時間が余り過ぎるぐらいだろう。

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

「ヴォロロロロロロロォォォォ!!」

「あんれぇ?リュクシス君もう飲めないのぉ?シヴァル君はまだ飲んでるのにぃ」

「いやコイツは化物みたいに酒が強くて」

「何言ってんだ大将!ほら飲め飲め!!」

「ガボボボボッ!?」


 シヴァルに無理矢理突っ込まれた酒瓶から、喉へ直接アルコール分が流し込まれていく。折角吐き出したというのに胃の中身が全て酒に上書きされていく。


「た、たしゅけて、バジきゅー」

「グゴォー……」

「バジお前寝てるんじゃねぇ!!兄貴分の俺がピンチなんだぞ!!助けろやぁ!!」


 頼みの綱であるバジは既に床の上で寝転がって伸びていた。酒は飲んでいない様子だが、アルコール臭に当てられて酔いやがったな!!


「それじゃあ次のお酒をぉ」

「ちょっと一旦待って!威と肝臓と膵臓を休ませて上げてぇ!!お願い!!」

「えぇー、折角バジちゃんからお小遣い貰って一杯買って来たのにぃ。じゃあ後で全部飲むわねぇ」


 そう言ってボロイ机の上一杯にアリィサさんは酒瓶を次々並べていく。いや、ちょっと待って、どれも度数がバカ高い酒しか無いぞ!飲むつもりか!これ全部飲むつもりか!?


「こんなに一杯お酒を買えたのは二人のお陰よぉ。ありがとねぇ、リュクシス君、シヴァル君」

「えっ、俺達何か」

「分かるよぉ、だってバジちゃんが一人でこんなにお酒を買える大金稼げる筈も無いじゃん。それに二人とも強そうだしさぁ」


 アリィサは俺達の向かい側に椅子を持って来て据わると、楽しげな顔をして頬杖を突いた。


「久し振りにバジちゃんが楽しそうにしてるの見たよぉ。あの子ったら、いつもジメジメした顔をしててねぇ」

「バジが?」


 俺は思わず口説くのも忘れて、巣の状態で答えてしまった。最初に出会った時から、ヒィヒィとビビり散らして情けなかったが、ジメジメした顔なんて見たことが無い。


 そんな俺を見て、アリィサは知らなかったのと言いたげに目を見開き、そして思い出すかのように喋り始めた。


「ほら、バジちゃんって弱いでしょ?だから冒険者として全然稼げないから、ちょっと悪い事をして小銭稼ぎばっかしてるから、自己肯定感凄い低いと思うんだよねぇ」


 アリィサの視線が下がる。その先には、床に腹を出して気持ち良さそうにバジが伸びている。


 それは俺が知る事の無かった温かい眼差し、子を見守る親の目と言うのだろうか。


「せめて旦那が居てくれるか、アタシがもっと稼げるようになってたら良いんだけどねぇ。残念だけど、娼婦って言うのは、年増じゃないと全然稼げないから」

「あの、旦那さんは……」

「ん?しぃらなぁーい、バジちゃんが生まれる前にどっかにドロンよ。私馬鹿だからさぁ、帰って来るって言ったのを馬鹿正直に信じてこれよぉ」

「……」

「ホント、私って駄目な母親よねぇ。息子が悪い事しなくても、安心させられるような母親にならなきゃいけないのに。逃げられて、飲んだくれて、挙句の果てには娼婦なんてやってんだからさ」


 明るく務める陽気な口振りには、酒の酔いでも誤魔化せない程の影が混じっている。一皮むけば、何処の家庭だってそんな物だろう。


 俺の実家の家庭事情にも整理が付けられないって言うのに、人様の家庭をとやかく言うつもりは無いが、俺は机の上に並べられた酒瓶の一本を取り、栓を開けて一口飲むと、自然と言葉が出てしまった。


「母親に良いも悪いも無いねぇよ。どんな女だって子を持てば口うるさいクソババアになるし、汚い下の世話だってやらなきゃいけねぇ。もし、それでも良し悪しがあるって言うなら、自分の子供がロクデナシだろうと、真っ直ぐ育ったかだろうよ」

「おっ、語るねぇ。じゃあリュクシス君の目から見て、バジちゃんはどうかな?」

「及第点って所か?」

「へぇ、一応褒めてくれるんだぁ」


 たった一日、されど一日しかバジの事を見ていなくても、貴族と言う社会のごみを見て来た俺なら、大体の人となりは分かる。コイツは子悪党ではあるが、それ故に大きく曲がりもせず、本当の闇に踏み切れない、ある意味では真っ直ぐな人間と言えるだろう。


「なぁシヴァル、お前からは」

「グゴォォォォォォ!!」

「ありゃ、寝てるねぇ」


 シヴァルに話を振ろうとするも、机に額から突っ伏して爆睡してやがる。コイツ、自分が興味ない話になったら三秒で寝るからなぁ。


「すいません、叩き起こしますんで」

「良いのよぉ、それよりもっと私と飲みましょうよぉ」

「えぇ……俺、もう酒は」

「家に立派なテラス席を作ってくれたお礼よぉ!ほら見て!夜空が綺麗じゃない!!」

「テラス席っていうには開放感あり過ぎるですけどね」


 シヴァルが丸ごと吹き飛ばした壁からは、吹き抜けになった綺麗路地裏の全容が露わになっている。しかし、確かにその上に広がる星はその何倍も綺麗に煌めいていた。


「いつかね、バジちゃんが言ってたの」

「何をですか?」

「あの満天の星と同じぐらいの財宝を持ち帰ってやるって。今日の夜空みたいにキラキラした目をしてね」

「そりゃ随分とロマンチストな事で」

「良いのよぉ、男なんて皆ロマンチストな方がモテるのよ?」


 アリィサは途中まで中身が残っていた酒瓶を机に置き、そして優しい笑みを俺とシヴァルに零す。


「ありがとう、リュクシス君、シヴァル君。バジちゃんの兄貴分になってくれて」


 俺はバジの事を弟分として認めた、何てことは一度も言っていない。アイツが勝手に兄貴と呼んでいるだけだ。


 だが、折角良い話も聞けたし。何よりも美女と二人で酒を飲んでいるんだ。そんな野暮な返しは男として言えるはずもない。


 それに、今はもう少しぐらいの夜空を見ながら酒を飲んでも良いと思えるような気分だ。酒が不味くなるような話題は忘れるとしようか。


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