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ダンジョンへ6名様ご案内

「よぉマイラ、また申請しに来たぜ」

「15分しか経っていませんのに、良く顔を出せますね」


 受付のマイラが睨み付けられるだけで縮こまるような目つきで俺の顔を刺す。それでいて手元の書類を次々と捌いて行く速度は全く落ちていない。


「何度も言いますが、除名処分の3ヶ月を過ぎるまで冒険所ギルドとしては、決して認めるわけには行きません」


 俺達が学習能力の無い猿だとでも思っているのか、さっきと変わらずに同じような事を言うマイラ。しかし少しでも俺達に関わった人間なら分かっている事だろうに。


 無策で頼み込むぐらいなら、悪知恵でずる賢く絡め捕るのが俺達だって。


「特別同行者制度」


 ピクリと、書類に文字を書き連ねていたマイラの腕が止まる。その反応を見るだけで、俺は確かな感触を掴む。


 特別同行者制度って言うのは、要するに登録していない賞金稼ぎ共や傭兵を、現役冒険者が臨時パーティーとして雇う事が出来るという制度だ。


 本来は冒険者パーティーに欠員が出たり、新人冒険者がパーティーをどうしても組めない時の特別処置の為らしいが、冒険者溢れるカクセンでは余程の事が無い限り、早々にパーティーが組めない事は先ず無い。実質形骸化している制度でもある。


 しかし、未だに残っているであれば、どんなに無意味だろうか有効だという事。俺は隣でビクビクと肩を極限まで狭めて震えながら、青白い顔をするオレンジ髪のガキの頭を掴んだ。


「俺達、コイツに雇われたんだよ。な?えぇっと……」

「バ、バジッス。兄貴!!」

「そうそうバジだよ、バジ。コイツ一応冒険者なんだろ?」

「……少々お待ちを」


 そう言うと、マイラは机の横に積み上げていた分厚い本を開いて、高速でページをめくり続けると、挟んでいた栞を見つけたかのように指が止まった。


「氏名バジ 年齢は16歳、冒険者歴は3年、ランクはF、犯罪歴は一応……無しですか」


 経歴を確認したらしいマイラはオレンジ髪のガキ、えぇっとバジか、そいつに嘘を許さないと言うように厳しい声色で問い詰める。


「本当に、この人達を特別同行者として申請致しますか?」

「え、えぇっと、それはぁ……」


 流石は名を聞くだけで冒険者を震え上がらせる鉄仮面のマイラ。ただ問い詰めているだけでも、まるでドラゴンを相手しているよう威圧だ。


 そう簡単に吐く事は無いとは思いたいが、此処は一つ念を押しておくか。俺はそっとバジの耳打ちしてやる。


「なぁバジ君。分かってるよな?」


 バジの頭を捻じ曲げて、後ろを振り向かせる。


 そう、後ろで待っているのは暴虐無人の蛮族に、サイコパスな放火魔、尻毛の一つまで毟り取る守銭奴、それと魔族とドラゴン。いずれも頭のネジが何本も飛んでいる奴らばっかりだ。


「俺達を裏切ったらどうなるのか」


 そんな奴らを敵に回す覚悟がある程、バジというガキが強いとは思わないけどな。


「は、はい、申請しますぅ……」


 そして、俺の予想通りに、バジは震える涙声で申請をしてくれた。

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

「よぉし、これでダンジョンに潜れるぜ!!」


 俺はあの堅物マイラからもぎ取った特別同行者の証明書を、太陽の元に翳して見上げる。


 粗末な紙切れに、リュクシス・カムイという名前と冒険者ギルドの印が刻まれているだけの簡素な物だが、コレさえ有れば大手を振ってダンジョンを入ることが出来る。無論、俺だけではなく。


「久し振りに冒険者になれんだな!これさえ見せつけりゃツケもしまくりだからよ!!」

「正式な証明書ではないので、そこまでは無理でしょうね。ですが、この冒険者ギルドの印を複製すれば、あるいは……」

「へぇー、こんなに簡単に冒険者に戻れるんだねぇ」

「わ、私が冒険者になって良いのかしら?一応、魔族なのだけど……」


 シヴァル達も特別同行者の証明書を手に入れている。正直、手を付けられない狂犬を野に放ったようにも思えなくはないが、コイツらも一応は戦力になるので、俺と同じく申請させておいた。


「しっかし大将、良くあんな狡賢い真似思い付くなぁ」

「賞金稼ぎ共の間でも、密かに噂になってるんだよ。ちょっとした小銭稼ぎが出来るってな」


 冒険者と比べて、賞金稼ぎ共は一発の金額が大きい。しかし、ちょっとした怪我で前線に出れない場合や良い条件の仕事が入って来ない場合があるので、不安定でもある。


 そこで俺達のように現役冒険者を利用してダンジョンに潜る事で、稼ぎは少なくとも、空いた時間でちょっとした小遣い稼ぎが出来るという事らしい。賞金稼ぎ共をやっている奴が、その方法で稼いだと自慢げに話しているのを聞いた事があった。


「あ、あのぉ、良いッスか?」

「ん?何だ」


 と思い出していたら、俺達の後ろを付いて来ていたバジが、恐る恐ると言った様に口を開く。


「特別同行者?ってのになったんなら、俺もう良いッスよね。もう許してもらっても」

「ん?何か言ったか」

「ヴェ!マリモォ!!」


 怯えすぎて何を言ってるのか分からないが多分、いえ何も!って事だろう。


 特別同行者制度も万能じゃない。ダンジョンに潜る時や冒険者ギルドから発行される依頼を受ける時には、雇った本人である冒険者の同行が必要となる。つまり形式上、俺達を雇っているコイツにも付いて来てもらう必要があるのだ。


「そう言えば、君の名前って何かな?ボク、知らないんだけど」

「バ、バジって言うッス!!一応冒険者やってるッス!!歳は16!か、彼女は一応募集中ッス!!」


 アリアに言い寄られて、途端に動揺交じりに喋り出すバジ。急接近した巨大な胸に釣られて鼻の下が伸びているようだが、それに引っ掛かって燃やされた野郎どもが何人居る事やら。


「冒険者をしているのに、どうしてスリを?」

「自慢じゃないッスけど、冒険者だけじゃ食っていけないんで、スリでこうチョロリと」


 ラキが人差し指を鉤詰めのようにして回す、それはスリの合図を意味している。その慣れた手つきからするに、冒険者よりもそっちの方が主な収入源らしい。


「成る程、そうですか」


 ミレーヌが納得したように呟く。それは特段珍しい話じゃない。


 冒険者が本格的に稼げるのはランクDから、最低ランクのGからFなんて、ガキの小遣いぐらいしか稼げない。だから最初は副業をしながら活動するが、手に職も無い奴がスリや犯罪組織の下っ端になるなんて有り触れた話だ。


「い、言っとくッスけど!冒険者だからってガチ戦闘は無理ッスからね!!そこは兄貴や姐さん達に任せるッス!!」

「おうよ!俺達に任せときゃ良いぜ!巻き込まれて肉片にならねぇようにだけ気を付けろよ!!」

「う、ウス!!」


 兄貴と呼んで頼って来る弟分気質が気に入ったらしい、シヴァルがバジの狭い肩を引き寄せる。顔面凶器みたいな野郎に絡まれて、バジの顔は可哀そうなくらいに真っ青になっていた。


 バジもシヴァルに気に入られたのなら、戦闘中のウッカリ事故で死んでしまいましたぁ、なんて事にはならないだろう。確約も保証も出来ないが、だってシヴァルだし。


「ねぇ、アレって何かしら?」


 その時、ラキが今歩いている大通りのその先、路地の終着点にある一際目立つ建造物に向けて指を差した。


 俺達にとってはカクセンを代表するような物でも、魔族であるラキにとっては、見た事も無い異様なモニュメントに見えるだろう。その事を知らないバジが、何故知らないのかと不思議そうに常識を語る。


「知らないんスか姐さん。アレが、ダンジョンへの入り口ッスよ」


 カクセンのド真ん中に馬鹿デカく鎮座し、都市を囲む城壁よりも高く聳え立つ巨大な門の事をだ。

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 カクセンにはダンジョンが有ると言えども、都市の中央に洞穴みたいなダンジョンの入り口がある訳じゃない。そんなのがあったら、そこから溢れ出る魔物でそれどころじゃないだろう。


 ダンジョンの入り口は、二点独立魔法転移式……長ったらしいので、冒険者内で『転移門』と呼ばれる、この扉と外枠だけの馬鹿デカい門となっている。


「す、凄い大きいのね……恐るべし、人間の技術ね」

「何でも、古代魔法で作られた代物らしいですよ。門を通った人間を別の地点に飛ばすなど、今の魔法技術では不可能でしょうからね」


 転移門の足元まで来て、その大きさに圧巻されるラキに、ミレーヌはそう付け加える。俺も詳しく知っている訳じゃないが、事実その通りである。


 この転移門を通ると、同じような門がある別の場所に瞬間移動できる。そして辿り着く場所と言うのが、ご存じの通りカクセンの経済を支えるダンジョンだ。


 何時からあるのかや、転移する原理も分かっていないが、何でも初代勇者の時代に建てられていた門らしく、それを何十年後かにカクセンって言う当時の領主が見つけ、冒険者と言う制度を産み出した事で、今のダンジョン都市が生まれたらしい。


「いつまで、圧巻されてるんだ。サッサとダンジョンに入るぞ」

「キャ!?」


 そんな経緯が有ろうが俺達には取っては、金を手っ取り早く稼げるならどうでも良い。圧巻されているラキの襟首を引っ張って、転移門前の受付に向かう。


 転移門の下、と言うよりかは足元には、まるで巨人の靴置き場みたいに箱型の形をした守衛所と、守る門と比べて圧倒的に小さい数人の守衛が槍を持って通行を塞ぐように立っている。その内の何人かに冒険者時代の顔見知りが居たので、俺は気軽に声を掛けた。


「よぉ、守衛共。立ってるだけで金貰えるなんて良い身分だな」

「「ゲェ!?リュクシスゥ!!」」


 そして、俺を見ると厄災とスタンピードが一遍に来たような顔をしやがった。うむ、相変わらずの反応で安心した。


「お、お前らは冒険者ギルドを出禁になった筈だろ!何で此処に居やがるんだ!?」

「いやぁ、それが特別同行者として入れる事になったんだよな。ほら」


 そう言って、俺は見せびらかすようにさっき受け取った特別同行者申請書を、狼狽える守衛共に見せつけてやる。すると、コレは現実なのかと顔を真っ青に染めて、途端に慌て始めた。


「ど、どいつだ!!こんな人格破綻者のロクデナシ野郎共を同行者にした奴!!イカレてやがるぞ!!」

「おぅ、コイツだぜ」

「ヒエッ!」


 血眼になって殺気出す守衛共の前に、シヴァルが後ろに隠れていたバジを引っ張り出す。コラコラ、止めて差し上げろよ。バジ君がスライムの威嚇みたいに高速で震えてるぞ。


「「「お前かクラァァァ!!」」」

「ヒィィィィ!兄貴達何やらかしたんスかぁぁ!!」

「そりゃぁ、色々とだよ。シヴァルは覚えてるか?」

「アイツは食い逃げの時、鼻のデケェ奴は店ぶち壊した時、あの禿げた奴は……何だったか?」

「私が商人達から金を巻き上げていた時ですね。その節はどうもしつこく追いかけてくれまして、誠にありがた迷惑でしたよ」


 とまぁ、冒険者時代に少しやんちゃをし過ぎたせいで、こんな感じで俺達は守衛から結構な恨みを買っている。多分、広いカクセンの中でも国際指名手配犯の次に要注意人物として顔を覚えられているだろう。


「ちゃんと申請書があるんだから入って良いよね?それじゃあ、失礼しまーす」


 そんな少しやらかせば直ぐにでも逮捕してやると言う一触即発の空気の中でも、能天気にアリアは守衛の横を通り過ぎる。


「おらおらぁ!俺達は正式な同行者様だぞ!国の金食い虫共は道を開けろぉ!!」

「そうだ大将の言う通りだぜ!サッサと道開けねぇと踏み潰すぜオラァ!!」

「私に手を出すという事は冒険者ギルドへの敵対行動になりますよ?ほら、こんな近くに私の手が在りますが?どうです?お縄に掛けますか?」

「ちょっと!?何でそんなに煽り倒してるのよ!?わ、私は関係ないわよ!このロクデナシ共と一緒にしないでよ!!」

「そんな事言ったら俺も関係ないッスよ!俺は巻き込まれただけッスから!だからそんな犯罪者を見るような眼を辞めて欲しいッスゥゥ!!」


 それに続いて、俺達も親の仇のように睨み付ける守衛共を無視して、悠々と脇をすり抜けて行く。そして、揃って転移門の足元に俺達は横並びとなった。


「ほら、サッサと扉を開けよ。職務怠慢で上にチクるぞ」

「お前達……絶対に何時かしょっぴいてやる……!!」


 守衛の一人が俺達を恨みがましく睨み付けて来るが、お役所人間も規則には逆らえない。唇から血が出るぐらいに噛み締めながら、門の外枠にポツンと備え付けれているレバーを引き下ろす。


 すると、目の前に堂々と巨大に佇む転移門が、歯車が回転する機械仕掛けの音を鳴らして、扉を奥に引いて開き始めた。


 その中から見えるのは、まるで宮殿のように何処までも無機質な石造りの壁と床が、僅かな松明でも照らせない、果てしない暗闇との中へと続く建物らしき場所の一部。


 一見すると、昔の遺跡か何かだと錯覚するが、置くから僅かに吹き抜ける冷たい風と一緒に、魔物独特の嫌な臭いと殺気に、そこがダンジョンだと慣れた人間なら直ぐ気づく。久し振りに潜るが、間違いなく此処はカクセン名物の人口ダンジョンだ。


 ダンジョンは危険で魔物がウヨウヨ居る。それは冒険者にとって当たり前の常識で、最も意識すべき知識。


 同時に、ダンジョンには未だ見ぬ財宝がザクザク眠っているのも常識だ。それ故に、金とロマンが大好きな冒険者共は引き寄せられてしまう。


 危険と一緒に金の匂いを運んで来る風に心地よさを感じながら、俺は一歩足を踏み入れた。


「それじゃあ、一攫千金させてもらいますか!!


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