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冒険者ギルドへようこそ!!

 俺が手を掴んだのは、まだ15か16歳くらいだろうか、年端も行かないオレンジ髪のガキだった。


「ちょ、何スかアンタら!?こ、コレは俺の金ッスよ!!」

「いんや、俺達の金だな。下手な言い訳しないで返せよ、クソガキ」


 スリがバレたガキは慌てて俺の腕を振り払おうとするが、シヴァルに劣るとは言え、こんなガキに負けるほど柔じゃない。もう少し強く握って力の差を理解させてやる。


 するとガキは途端に、ニヤリと口角を上げて俺を睨みつけた。


「い、良いんスか?俺に手を出せば、後ろに居るボスが黙ってないッスよ!」

「あ?誰だよ、それは」


 こんなバレバレのスリをするガキを雇う奴が居るとは思えないが、必至にハッタリをカマそうとする様子は見ていて面白いので、開放してやって話を聞いてやる。


 それを俺がビビったのかと勘違いしたらしいガキは、精一杯に虚勢を張って喋り出した。


「何と!裏社会でその名を知らない奴は居ないドズファミリーのドズ!!」

「そういや大将、そんな名前の奴居なかったか?ほら壁に頭から減り込ませたデブの奴」

「じゃなくて、あの大富豪御用達!死の奴隷商人メッカ・ウルーノ!!」

「あの胡散臭いオジサンだよね。気持ち悪いから全身の毛という毛を燃やしちゃった」

「……カクセン中を恐怖震撼させた殺人兄弟ダンとボン」

「尻に三本目の足を生やしてあげましたよ」

「……」


 ついにネタが思いつかなくなって黙るガキ。さっきのカツアゲで裏社会のドン達を知らず知らずの内に刈り取っていたようだ。


「ほ、本当ッスか?」

「そう、マジよ。悪い事は言わないから、諦めて土下座しなさい」


 肩を叩くラキの様子から本当だとガキは察知したらしい、まるで化け物共を見るような眼で俺達を見る。お前迄そんな目で見るんじゃねぇぞラキ。


「す、スミマセンでしたぁぁぁぁ!!」


 ガキが素早い速さで地面に頭を擦り付ける。それはもう土下座し慣れた俺でも見事だと言わざるを得ない程の綺麗な所作だった。


「ホントッ!マジで見逃してくださいぃ!出来心だったんス!!これ返すんで見逃してくださいッスぅぅ!!」


 まるで王に献上するかのように俺の前に掲げて、ガキがスった小銭袋を差し出す。それを受け取ろうとすると、横からミレーヌが掻っ攫い、中身を確認し始めた。


「1、2、3……どうやら、ちょろまかしてはいないようですね」

「あ、当たり前じゃないスかぁ。ヘヘヘッ、あっアネサン、靴でも舐めましょうか?」


 謎に下っ端感のある笑いをしながら最大限にへりくだるガキ。どうやらゴマをする才能はあるようらしい。


「アニキ勘弁して下さいよぉ。靴舐めますから!靴どころか全身の隅々まで舐め回させていただきますからぁ!!」

「お前、良くそこまでプライド投げ捨てられるな。ある意味感心するわ」

「アリアに謝り倒す時の貴方とそんなに変わらないわよ」


 余計な事を言うラキは放って置くとして、流石に此処までへりくだられると悪い気はしない。そろそろ許してやるかどうかと考えていた時、ガキは思い出したように腰にぶら下げていた小袋を差し出しだ。


「そうだ!!此処は一つ、コレでどうッスか?」

「何だコレ?」


 今度はミレーヌに奪われずに受け取ると、ズッシリとした重さが掌に伸し掛かる。コレはまさか……。


「おいおい、貰っちゃって良いのか?」

「いやぁ、さっき偶々スッた奴が太客で、それがまた結構な物で」

「ほぉほぉ、お前も中々やるなぁ。そんでどれぐらい入ってるんだ?」

「さっき見た時はザッとーー位で」

「それは中々だな」

「それほどでもぉ」

「「へへへへへっ」」

「貴方達、何だか気持ち悪いわよ」


 ラキのようなお子様には、袖の下の貢ぎ物を理解できないようらしい。なら覚えておくと良い、世の中の大体はコレで何とかなるって事をな。


「さてさぁて、中身はどうなってるのかなぁと」


 早速とばかりに袋の紐を解放して、中身を見る。アイツの言う通りなら、そこそこの数の。


「おぉ、コレは……!!」


 石ころが袋一杯入っていた。


「クソガキィィィィ!テンメェ騙しやがったなぁぁぁ!!」


 ふざけた真似をしやがったガキをぶん殴ってやろうにも、さっきまで土下座していた筈のそいつは既に何処にも居ない。すると、シヴァルが通りの向こうを指差す。


「あのガキなら、スゲェ勢いで逃げてったぞ。中々の早さだったぜ」

「ガァァァァァ!!チクショォォォォォ!!」

「そもそも金貨が入っているかどうか、見れば分かるでしょうに」


 あのクソガキめぇ……よくも俺を騙してくれたな!次見かけたら、爪先から徐々に全身を輪切りにしてやる……!!


「でも、リュー君も良く人を騙すから、おあいこじゃないかな?」

「違うなアリア、俺が騙すのは良いけど、俺が騙されるのは許さねぇ」

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 そんな腹立つ事件も、偶々見つけた店の美味い飯と酒で誤魔化し、俺達は次に冒険者ギルドへと向かっていた。


「懐かしいな、冒険者ギルドに行くのなんて何時ぶりだ?」

「貴方、冒険者ギルドに言った事があるの?」


 うろ覚えで冒険者ギルドへの道筋を辿っていると、不意にラキが聞いて来る。そう言えば、前に俺達が来た時の事を言っていなかったな。


「王都で賞金稼ぎ共やる前は、一応冒険者やってたんだよ。まぁ、ちょっとだけだがな」

「え!?貴方達、冒険者をやっていたの?」

「おぅ、あんときゃ派手に暴れまくったもんだぜ」


 シヴァルが懐かしむかのような口振りをする。その時には、既にラキ以外の全員が揃っていた筈だ。


 確か聖剣を持ち逃げして、2ヶ月経った頃ぐらいだろうか、その頃の俺達は王都で賞金稼ぎ共としてではなく、カクセンで冒険者として活動していた。最も、ダンジョンに潜るより、外に出て魔物を相手にすることの方が多かったが。


 あの頃は魔物の素材や財宝を換金する度に、大金をはたいて豪遊していたのが懐かしく思える。そんな冒険者として活躍していた俺達も、今や文無しの逃亡者とは、思わず涙が出てしまう。


「じゃあ何で、冒険者を辞めたのよ」

「まぁ、色々あってだよ。色々と」


 そんな事を話している内に、冒険者ギルドに辿り着いていた。


 冒険者ギルドは、まるで貴族の邸宅のような大きさをした、オレンジ屋根と剣と槍が交差した印が特徴的な建物だ。周りの建物と比べて段違いに格式が違う立派な施設なので、遠目からでもすぐ分かる。


「よし、それじゃあ早速入るとするか」


 俺が率先して、冒険者ギルドの扉を開いて中に入る。どうやら、前に来た時とそこまで変わっていないらしい。


 奥の受付カウンター前の長蛇の列に忙殺されるギルド職員に、同じ建物に入っている酒場で昼間から飲んだくれる強面の野郎共、そして田舎からやって来たように初々しい若者達。


 そんな奴らが集まるからこそ、冒険者ギルドの中は賑やかな喧騒で溢れ返っていて、お祭り騒ぎのようだ。何時来ても色んな奴でごった返しているその光景の懐かしさに、俺は元気良く挨拶をしてやる。


「よぉ、元気だったかクソ野郎共」


 そして、全員が一目散に俺達から逃げ出した。


「リュクシス共が来たぞぉォォォォ!!オメェら逃げろォォォォォ!!」

「ひゃぁぁぁ!!あのサイコパス女もいるわぁぁぁ!!燃やされるぅぅゥゥ!!」

「勘弁してくださいミレーヌ様ぁ!借りたお金は必ず返しますからぁぁぁぁ!!」

「ウチの食い物は全部やるから暴れるなよシヴァァァァァルゥゥゥゥ!!」


 それぞれが狂乱錯乱しながら絶叫をしつつ、俺達が入って来た扉とは別の裏口から、我先には逃げ出す。そして、あれほど賑わっていた瞬く間に人っ子一人居ない廃墟となってしまう。


 その様に俺は、懐かしさを覚えた。


「よし、相変わらず変わってないな」

「何をやらかしたのよ貴方達!?」


 俺も良く分からん、何故か知らない内に俺達の悪名が広がって、知らない内に人が寄り付かなくなっただけだ。


 とまぁ、そんな良くある光景は無視して中に入り込むと、俺は無人となった冒険者ギルドで、唯一受付カウンターに残っていた女のギルド職員に話しかける。


「よぉ、相変わらず根性が座ってるな、マイラ」

「貴方達こそ、除名処分を食らって良く顔を出せたものです。リュクシス・カムイさん。いや、ヨハンネ・ブルースさん」

「お耳が早いこって」


 皴一つないギルドの制服と同じように、全く表情筋が動かない鉄仮面。一括りにされた高級シルクのようにきめ細かく珍しい黒髪。そして正に仕事一筋と言ったように男を寄り付かせない冷たい雰囲気を放つ真面目美女、それこそマイラという女だ。


「マイラちゃん久し振り!元気にしてた?」

「貴方達が来るまでは元気にしていましたよ」

「おうマイラ!久し振りに会ったんだから抱かせろよ!!」

「赤ん坊から出直してきなさい野蛮人」

「お久しぶりですね、所でお金に困っていませんか?何と今なら無利子で」

「貴方に借りるくらいなら、そこらの親父に身体を売る方がマシです」


 次々にアリア達の挨拶を淡々と捌く様を見るのは、流石ベテランの職員と言わざるを得ない。そう感心していると、ラキが信じられない物を見たかのように目を丸くしながら、俺に耳打ちをした。


「ね、ねぇ。あの女の人何者なの?貴方達相手に平常を保てるなんて常人じゃないわよ!」

「お前、ちょくちょく俺達を人外扱いするよな。アイツはマイラって言う冒険者ギルドのベテラン職員だよ。通称『鉄仮面の処女』、目を付けられた冒険者は瞬く間に出禁になるって評判だ」

「不名誉な通り名を言わないで頂けますか」


 俺の囁き声も、マイラの地獄耳の前では形無しか。と、そこで俺達の影に隠れていたラキに気づいたらしく、マイラが話しかけに来た。


「初めまして、マイラと申します。見た所、初めて来た方に見えますがお名前は?」

「ヒエッ!そ、そうね、は、は、初めてよ!私の名前は」

「メス・ガーキって言うんだ。一応ツレって事になるな」

「ちょ!?勝手に!!」


 文句を言おうとするラキの口を塞いで、余計な事を言う前に黙らせる。王都前で堂々と名前を宣言していたコイツの本名なんか出したら、確実に通報からの追放にされてしまう。


「はぁ、それでどんなご用件で?」


 幸いにも、そこまで深く踏み込むつもりも無いらしいマイラは、それ以上は何も言わず、冷たい口調で俺達に用件を聞いた。そこで、俺はここに来た理由を話す。


「あぁ、もう一度冒険者として登録しようかなと」

「無理です、おととい来やがってください」


 そして直ぐに断られた。

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

「マイラめぇ……あっさりと断りやがって。アイツがショタ好きのド変態だって噂流してやろうかぁ」

「そんな陰湿な嫌がらせは止めなさいよ……」


 断られた事を根に持つ俺を、ラキが呆れた目で見る。そして正論を振りかざしてきやがった。


「大体、あのマイラって人の話を聞いている限りだと、貴方達が悪いように聞こえたのだけど」


 マイラ側の言い分はこうである。


『貴方達は過去、再三たる注意を無視した結果として除名処分となっています。もう一度、冒険者として登録するのであれば違反金を支払うか、後3年の剥奪期間を待って下さい』


 至極正論ではあっても、そう簡単に受け入れられる筈が無い。しかし、あの女を敵に回すという事は、冒険者ギルドを相手にするという事だ。


「何か良い案はねぇもんかなぁアリア」

「ウーン、ボクには思いつかないよぉ、ミレーヌちゃんお願い!!」

「他のギルド職員であれば、借金を盾に何とか出来るのですがね……どうしましょうか」

「やっぱ此処の酒はウメェぜ!!飲み放題ってのが最高だな!!」


 という事で、俺達はその対策を考える為に、こうして誰も居なくなった冒険者ギルドの酒場で、飲んだくれている訳だ。店主とウエイターが居ないから、自分で酒を注がないといけないが、その分金を払わなくて良いので、そこは目を瞑るとしよう。


「冒険者として登録できないんじゃ、ダンジョンにも入れないし、魔物の素材も買い取って貰えないしな。別の方法で稼ぐか?」

「それは難しいでしょうね。裏社会にも表社会にも私達の名前は広がっています。冒険者以外でそう易々と稼ぐことは難しいと思います」

「うーん、どうする?マイラちゃんをコッソリと燃やしちゃう?」

「それは最終手段ですね。なるべく穏便に脅しましょう」

「そうだな、ミレーヌの言う通りだ」

「脅すという選択肢を疑問に持たないのかしら、貴方達は」

「何か腹減ったな、大将。軽く飯作ってくれや」

「お前は黙っとけシヴァル」


 避けは進めど会議は踊る、と言ったばかりに、延々と中身の無い会話がグダグダと続く。そして一通り吐き出して煮詰まって来た所で、突然に冒険者ギルドの扉が開いた。


「アレ?今日は誰も居ないッスね。何かあったんスか」


 ボロボロに擦り切れるまで着慣れたらしい外套と、護身用にもならない小さなナイフを腰に巻き付けた麻のズボン。そして見るからに三下らしい顔をしている小物顔とザンバラ頭のオレンジ髪。


 紛れも無く、そいつは俺達から金をスろうとしたガキに違いなかった。此処に来たという事は、アイツも冒険者という事か。


「あっ、良いこと思い付いた」


 そして俺は、そいつの姿を見て、ある発想に思い付いた。


投稿が一日ズレてしまい、申し訳ございません。

今回の件を受け況して、これからは5~6日に一度の投稿に致します。


また四月からは、投稿頻度の更なる変更があるかも知れませんので、先に謝罪させていただきます。


すみませんでしたぁぁ!!

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