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手っ取り早い金稼ぎのやり方

「こ、此処がカクセンね……!!」


 カクセンに入場して開口一番、呆気に取られたようにラキがそう呟いた。


 壁一枚隔てた先にあったのは、王都テルモアにも劣らない騒がしい人々の喧騒や物珍しい露店の数々、そしてレンガ張りに縦にも横にも整備された建造物と街道通り。久しぶりに此処へやって来た俺も、思わず圧倒されてしまう賑わいぶりだ。


「いやぁ、此処に入れなかったらどうしようかと思ったよ」

「本当だよな、コレも大将のお陰だぜ!ありがとな!!」

「そうだろ?もっと俺を称えて崇めろよ」


 アリアとシヴァルに持て囃され、俺は鼻を鳴らして胸を大きく張り上げる。


 道中、遂に食料が尽きて飢え死に寸前だった時はどうなるかと思ったが、こうしてカクセンに入れたのは、この勇者印のエンブレムブローチのお陰だ。


 このブローチを衛兵共に見せつけたら、顔色を変えて直ぐに通してくれた。そうでないと、こんな俺以外頭がおかしい集団を通す奴は居ないだろう。つまり、俺が居たからこそ、この犯罪者共は入れたのだ。もっと感謝して欲しいくらいである。


「さて、こんな入り口で呆けている場合では有りませんよ。サッサと用事を済ませましょう」


 ミレーヌが手を鳴らして、すっかり観光気分の俺達に注意を促す。


 そうだ、俺達は何も観光をする為にカクセンに来た訳じゃない。大事な用事があるから此処に来ているのだ。


 その用事とは。


「さぁ、一刻も早くお金を稼ぎましょう」


 即ち金稼ぎである。

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 さて、俺達の所持金は現在幾らかと言えば、何と驚異の0ペルである。


 その理由は道中の町や村での散財もあるが、一番の理由はやはり賞金稼ぎ共バウンティ・ワーカーズとしての活動をする暇が無かったからだろう。


 忘れかけているかも知れないが、俺達は現在、国外逃亡の真っ最中である。急ぐ旅の上で強力な魔物を相手にして、準備に時間を取られたり怪我をする訳には行かない。


 そして、タダでさえ活動している時でも自転車操業だったというのに、それが無くなってしまっては、なけなしの(ミレーヌが貯め込んでいた)貯金など直ぐに溶けてしまう。


 という訳で、俺達は急遽行き先を変えて、カクセンにやって来たのだ。


「お金を稼ぐのであれば、やはりカクセンのダンジョンが一番です。アソコには無数の財宝が眠っていますからね。実際にそれを元手になり上がった人間が何人も居るらしいですよ」

「へぇー、そうなのね」


 物珍しい商品が並ぶ露店が勢ぞろいする市場通りを歩く中で、ミレーヌはそう講釈を垂れる。それを聞いたラキは納得したように首を縦に振った。


「じゃあ、今から早速ダンジョンに潜るのかしら?」

「その前に、冒険者ギルドに登録だな」

「冒険者ギルド?」


 俺は露店の見た事もない商品を見定めながら、ラキに説明してやる。


「まぁ、ダンジョンの管理している運営局みたいなもんだ。面倒だが、そこに冒険者として登録しないと入れないし、獲って来た宝物も買い取って貰えないからな」

「随分と面倒なのね」

「それよりお前、帽子をもっと深く被っとけ」

「あっぷ!?」

「ピィ!」


 気が緩んでいるラキの頭を帽子ごと押し付けると、小さい鳴き声と一緒に堅い鱗と尖った感触が手に伝わった。コレは中に入っているウルと魔族特有の角の感触だ。


「お前が魔族で、しかも小さいドラゴンを飼ってるとかバレたら一大事だからな。気を付けろよ」

「わ、分かってるわよ!」


 三角帽子の鍔を握って深く被るラキ。我ながら、何故こんな爆弾を抱える羽目になっているのやら、コイツの油断一発でカクセンを追い出される事態になるのはごめん被る。


 とラキに釘を打った所で、俺は周囲を見渡してみて、気がついた。いつの間にかアリアとシヴァルが居なくなっていた。


「おいミレーヌ、アリアとシヴァルが居ないんだけど、知らねぇか?」

「いえ、そう言えば居ませんね。一体何処に」

「たいしょぉー!!」

「リューくーん!!」


 俺とミレーヌで見渡しながら探していると、2人の方から人混みを分けてやって来た。って、ちょっと待て。何か馬鹿デカい物を抱えてないか?


「スゲェぜ此処の市場!見た事ねぇ食い物がワンサカだ!美味そうだから片っ端から取って来たぜ!!ほれ、大将も食うか?」

「見て見てリュー君!この服とかアクセサリーとか凄くボクに似合うと思わない!?やーん、またリュー君をメロメロにしちゃうよぉ!!」

「お前ら何やってんだぁぁぁぁぁぁ!!早くそれ全部返して来いやぁ!!」

「「断る!!」」


 俺達に金が無いのを分かってやってるのかこの金食い虫共はぁ!!大体金欠の八割はお前らのせいだって言うのにぃ!!


「……ねぇミレーヌ。この調子だと、稼ぐ前に私達が破産すると思うのだけど、どうしようかしら?」


 その様子を見ていたラキが、眩暈を起こして頭を抱えるミレーヌに聞くと、呆れた様子で答えた。


「……先ずは軽く一稼ぎしましょうか」

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 どんな街でも、裏の部分と言うのが存在し、それは街の規模に比例して大きくなっていく。


 例えば路地裏などはそうだろう。人目に付かず、日も当たらない場所には、ならず者やゴロツキが根城にしている場合が多い。それは無論、カクセンであっても同じことであった。


 そんな路地裏に、美少女三人が無警戒に歩いていれば、正に絶好のカモと言えるだろう。


「ヒヒヒッ!よぉ、姉ちゃん達。こんな所に何か用かい?」


 ゴロツキの一人が、そんな美少女達に目を付けて、下卑た笑いと一緒に話しかける。その後ろには、同じような身なりをしたゴロツキ仲間が待機していた。


「ボク達ぃー、今お金が無くてぇー、だからぁー、手っ取り早くお金を稼ぎたいなぁーってー」


 ピンク髪の美少女が、ワザとらしいくらい甘えたような猫なで声で誘惑する。フリフリと身体を揺らす度に胸が揺れて、ゴロツキ達の目線が右往左往している。


「ヘヘヘッ、なら俺達が割の良い仕事を紹介してやるよ」

「それは嬉しいですね。どんなお仕事ですか?」


 緑髪の美少女が、知的な眼差しで見つめる。その冷たい視線にゴロツキ仲間の一人が「ハゥッ!!」と気持ちの悪い喘ぎ声を出した。


「なぁに、ちょっと俺達の相手をしてくれりゃあ良いだけだ」


 後ろに居たゴロツキ仲間達が、美少女達を逃がさないように囲む。


 ピンク髪の美少女も緑髪の美少女も、そこら辺の娼婦なんかとは段違いの上物だ。そんな美少女が、こんな無警戒に歩いているのだから逃す筈も無い。


「ウッフーン、アッハーン!ヤーン!!」


 さっきから謎のお色気アピールをしている頭のおかしい黒髪のガキを除いてだが。


「なぁに、俺達が満足すりゃぁ、直ぐに終わるさ」


 ゴロツキが美少女達に手を伸ばす。


 此処は人目も日陰も届かない路地裏、何をしようと無法者である自分達の縄張りでは問題にならない。精々飽きるまで楽しませてもらった後は、娼館にでも売り飛ばして小遣い稼ぎをさせてもらおうか。


「やだぁ、私達って実はモテモテなのかしらぁ」

「おう大将、俺達モテモテだよな」


 だというのに、ゴロツキ達の背後で、野太い男二人のおかま声が聞こえる。その瞬間にゴロツキ達が一人を残して、何故か股間を抑えて倒れ込んだ。


「お、おいオメェら!?どうした!!」

「あらぁ、そっちから誘って来たんじゃないのぉ」


 突如、残ったゴロツキ達の股間をゴツイ掌が鷲掴みにする。そして凄まじいまでの悪寒と危機感が背筋を駆け巡った。


「でも、私達ってそんな安っぽい男じゃないのよねぇ。だぁかぁらぁ」


 今更ながらに、ゴロツキは自分の浅はかさに気づく。こんな真昼の路地裏に美少女達が無警戒に歩いているなど、虫が良すぎる話だ。


 つまり、ゴロツキ達は嵌められたのだ。美人局という古い手法で、目の前の美少女三人と後ろの男二人に。


 後ろの男は股間を握る手に一層力を込めて、耳元で囁く。


「金と金●、どっちを払って下さる?」

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

「いやぁ大量大量!やっぱりカクセンぐらいの大都市なら稼ぎが良くて助かるな」


 こんな感じでゴロツキ達から巻き上げ盗った金を纏めた袋を、景気良く手元で転がす。たった一時間でコレだけの稼ぎになるなんて、やっぱりカクセンは実入りが良くて助かるな。


「貴方達、いつもこんな事をしているの?」

「勘違いしないでね。お金に困った時だけだよ」


 ラキが呆れているようだが、アリアの言う通りにこんな阿漕な稼ぎ方は、本当に金が無い時だけだ。余りやり過ぎると、ゴロツキ共の間で話が広まって引っ掛からなくなるし。


「コレだけ有れば、暫くは何とかなりそうですね」

「なぁなぁ!早速飯食いに行こうぜ!!今夜は食いまくるぜぇ!!」


 ミレーヌもシヴァルも、そこそこの稼ぎに意気揚々としている。どうやら今夜は楽しく飲むことが出来そうだ。


「なら飯行くか!ジャンジャン飲むぞぉ!!」


 俺も釣られてしまい、浮かれてしまったからか、前から来た人と肩がぶつかってしまう。一瞬謝ろうとしたが、そいつはそそくさと通り過ぎようと、俺の脇を避けて行く。


 だが、俺はそれを見逃すほど甘くない。そいつの手を掴んで引き留める。


「おいアンタ」


 その手には、俺達の金が入った袋が握られていた。


「俺相手なら、盗めると思ったか?」


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