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ロクデナシ勇者とその仲間、見参

「ギャァァァァァァァァァァァァ!!」


只今の俺は馬車に引き摺られていた。凄い勢いで走っているものだから、身体が宙に浮くほどで、千切れそうな手綱を離したら最後、俺は空中に吹き飛ばされるだろう。


「リューくぅん大丈夫?」

「馬車を暴走させた本人がどの口で言ってるんじゃぁぁアリアぁぁぁ!!」

「だってぇ、尻に火が付くって言葉があるから」

「マジで馬の尻に火付ける馬鹿が何処に居るんだよぉぉぉ!!誰か止めてぇぇぇぇぇぇぇ!!」

「おう、分かったぜ大将」

「へっ?」


その瞬間、帆車の床からシヴァルの脚が飛び出し、そのまま地面に杭のように突き刺さって、強制的に暴走する馬車を停止させた。


咄嗟の事で対応できなかった俺は、つるりと掌から手綱が零れ落ち、青い大空へと羽ばたいてしまう。


あぁ、空ってこんなに広いんだなぁ……このまま地平線の向こうまで飛んでいけるような気がする。俺は果てしない世界へと大きく両手を広げ、そして。


「ぎゃふん!!」


見事に首から地面に着地した。


「何やってんだ大将?首をどえらい方向に捻じ曲げてよ」


逆さまになった視界に、シヴァルが不思議そうな顔で覗き込んできた。どえらい方向って、いったい俺の首は角度何百度ぐらい捻じれてるんだろうか。痛覚がマヒしていて全く分からない。


「多分大丈夫。というかなんで、お前無事なの?」

「いやぁ、流石の俺も高ぇ所から落っこちたら掠り傷ぐらいはするぜ。少し買いかぶりすぎだぜ」


普通の人間は掠り傷では済まないと思う。やはりコイツの耐久力は絶対におかしい。


そんなことを考えていると、背後の遠くの方からアリアの呼ぶ声が聞こえた。


「リューくぅーん。だいじょー……キャ!リュー君のエッチ!!」

「首へし曲がってる重病人にセクハラが出来ると思ってんのか。どこら辺がエッチなんだ」

「だって股を大きく開いてお尻を丸出しにしてるなんて猥褻だよ!?その可愛いお尻を見せつけて道行く女の子に揉んでもらったり穴を弄ってもらうつもりでしょ!このドスケベ大魔王!?」

「お前がドスケベということは分かったわ。それよりミレーヌはどうした?お前が無事なら生きてんだろ」

「ミレーヌなら、壊れた馬車の前で泣いてるよ?」

「私の馬車()ぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!そうだ!せめて馬だけでも……待って、逃げないで戻って来て()ぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」


「うん、全員無事で良かった」


あれだけ乱暴な急停止にも関わらず、馬も含めて全員無事とは、やはりコイツらの生命力は異常だと改めて分からされた気がする。


それは置いておくとして、果たして俺たちは何処辺りに着地したのだろうか。馬車から思いっきり弾き飛ばされたから、かなりの距離があるはずだが。


「あ、貴方達!いきなり飛び出してきて何者なのよ!?」


そう考えていると頭上というより尻の上から、少女の裏返った声が聞こえた。


「誰って、勇者様に決まってんだろうが。この神々しい姿を見て分からねぇのか?」

「お尻向けて逆さまに転がってる変態が勇者な訳ないでしょ!嘘を付くならもう少しマシな嘘を付きなさいよね!!」

「んだとクソガキ!!」


この勇者である俺をド変態野郎と呼ぶメスガキの顔を拝んでやろうと立ち上がると、そこでようやく自分が何処にいるのか、そしてどんな状況なのかを理解した。


どうやら俺たちは敵陣ど真ん中に飛ばされ、数百体もの魔物達の群れに包囲されているようだ。


「アレ?これってもしかして、逆に俺たちが潰される?」

「あら、今更自分たちが絶体絶命の危機だってことに気づいたのかしら?」


曲がった首を元に戻しつつ上空を拝むと、そこに居たのは巨大なドラゴンの背中から俺たちを見下ろす、大陸でも珍しらしい黒髪に一対の角と昔読んだ初代勇者の伝記に書かれている魔族と同じ特徴を持った少女であった。


恐らく、アレが騎士が慌てて報告してきた『魔王軍四天王を名乗る魔族』なのだろう。四天王と言うくらいだから、もっと厳つい大男でも出て来るのかと思っていたら、まさかこんなメスガキだったとは、拍子抜けしてしまう。


「まさか馬車で突っ込んでくる馬鹿が居るとは思わなかったけど、まぁ良いわ。あそこの雑魚たちの前に、手始めとしてあなた達からやっつけてあげるわ」

「お前……」

「あら、絶望しているのかしら?人間にはやっぱり絶望してほえ面描いている顔が一番似合うわ!精々あと少しの命を「パンツ見えてんぞ」きゃぁぁぁぁぁぁぁド変態ぃぃぃぃぃ!!」


女の子の絶対聖域がモロ出しだから教えてやったのに、変態扱いとは大変に遺憾である。そもそもガキの白パンなんぞ興味あるか。もっと色気ある下着付けてこい。


その時、俺の背中に全身を絡めとろうとする悍ましい何かを感じた。これは、俺が街でナンパしてるのがバレた時のアリアのオーラと同じだ。


「へぇーリュー君。あの女の子のパンツ見てたんだ。そうなんだぁ」

「しょ、しょうがないだろ!角度的に見えちゃってるんだから!そんなことより俺たちピンチだからね!!目の前にいる魔物が最優先!!ねっ、シヴァル君!!」

「おうよ!こんな血肉沸き上がる逆境はガーゴイルの群れに殴り込みした時以来だぜ!!面白れぇじゃねぇか!!ミレーヌもそう思うだろ!」


シヴァルが両手に武装した手甲を突き鳴らし、これから遊びに出かける少年のような心躍らせるような無邪気さではしゃぎながら、戦闘に飢えた狂人の笑顔を惜しげもなく披露する。


「面白くはありません。オークにオーガ、グールにスケルトンとオマケにコボルト、ゴブリン。まるでモンスターの見本市ですね。面倒にも程があります」


勝てないではなく面倒と宣うミレーヌは、背中に担いだ身の丈ほどある短槍を軽く一振りすると、穂先を包囲している魔物達に向けて水平に構えた。


「アリア、お前も杖出せ」

「もう準備は出来てるよ、リュー君」


二人が戦闘準備を始めているのを見て、俺はアリアに声をかけたが、その必要はなかったようだ。既にローブの内側に隠し持っていた筒状の仕込み杖を展開して用意しており、その先端に嵌め込まれた赤い魔法石がアリアの魔力に反応して、紅色の煌めきを見せていた。


「んだよ、乗り遅れたのは俺だけか」


俺も右の腰に付けた細剣を引き抜いて、半身を少しだけ下げつつ肩に載せると身体中の力を空気を絞る所を想像して外に吐き出す。この姿を見た奴はやる気が無いと言われるが、これが俺なりの戦闘態勢だ。


「もしかして戦うつもりなの!?この数を相手にたった四人で!?」


少女は俺たちが戦うなんて全く思っていなかったようだ。ドラゴンから滑り落ちそうなほどに仰天して、目と口を限界まで大きく開いたマヌケな顔を晒していた。


当たり前だ。たった四人で何百もの魔物を相手にするなんてイカれていると思われても可笑しくはない。だが生憎と他はともかく俺はイカれてなどいない。


それを、空の上で吠え面しているアイツに教えてやろう。


「知らないようだから教えてやる。俺たちに取っちゃ、こんなピンチはどうってことない。そりゃもう今から晩飯を何にするかを考えるくらいには慣れ切ってる」


存在自体が厄介毎の此奴らと居たら、命が幾つ有っても足りない。何度縁を切ろうと思ったか数えきれないほどだ。なのに、未だに俺がこの命知らず達と組んでいるのには理由がある。


「直ぐに引き摺り下ろしてやるから、そこで高みの見物でもしてなメスガキ。そんでもって分からせてやるよ、人間様の底力って奴をな」


その理由は、これから起きることを見れば分かるだろうな。


「良いわよ!そこまで言うなら貴方達の底力って奴を見せてもらおうじゃない!!人間如きがこの状況を乗り越えられるかしら!」


メスガキが指を弾くと、それを合図に俺たちを包囲していた魔物達が、首輪を外した猛犬のように襲い掛かって来た。

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