『閑話』探せ!私の新しい従魔!! ガラゴスの森編
「ねぇぇ……何時まで森の中を歩くのぉぉ……」
「黙って歩け、その舌引っこ抜くぞ」
文句を垂れているラキになど目もくれず、俺達はさっきから全く景色の変わらない森の中を歩き回っていた。
格好良くアルシャ達と別れたと思ったら、まさか馬を忘れるとは……と言うか、生きているのか?多分、アリアの炎に巻き込まれている事に違いない。なら今更探しても無意味だろう。
「リュー君疲れたよぉ。もう一回ボクをお姫様抱っこしてくれないかなぁ」
「そんな期待した目で見てもしないからな。そう言うのは馬鹿力担当のミレーヌに言え」
「そこはシヴァルに決まっているでしょうが。適当な事を言っていますと、ぶち殺しますよ」
「あぁ!なぁミレーヌ!俺とテメェで森全部更地にしようぜ!!今すぐやろうぜ!!」
全員、無駄にイラついている様子だ。ようやく何処までも広がる灰の森を抜けたと思ったら、今度は緑の森が延々と続くとなれば、そりゃ気も立ってしまう。
「せめて、魔物でも出てきて来れでもすれば、気も紛らわせるんだけどなぁ」
と自分で言いつつも、さっきから全く魔物と出会わない所を見るに、それは無いなと自分で気づいていた。トレントの大量発生とアリアの大魔法のせいで、この辺りの魔物は一掃されたか、身を潜めているかのどちらかだろう。
今更此処で俺達の前に出てくるとなれば、それは余程頭の悪い魔物に違いない。それでも退屈を殺せるというのなら、大歓迎なんだけどな。
「グォォォォ!!」
と思った矢先、俺達の前に、森に入ってからお馴染みとなってしまった、頭にキノコが生えた熊が飛び出して来た。
「「「「あっ」」」」
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「ヴォロロロロロ!!」
「何時まで吐いているんですか。シャキッとしなさいラキ」
「誰のせいだと思ってるのよ……ウップ!」
ラキが熊の残骸を見て、再び胃の中の残留物を吐き出し始める。有体に言えば、ゲロを撒き散らしているという事だ。
「ねぇシヴァル。何でラキちゃんは吐いてるの?」
「分かんねぇ。腹が痛ぇのか?」
「お前ら狂人共の感覚じゃ分からないだろうな」
仲良く首を傾げるアリアとシヴァルは放って置くとして、俺は先程倒した熊の残骸を見やる。
頭にキノコが生えた熊……確か、フォレストベアだっけか?自分達でやって何だが、見るも無残な有様だ。俺が剣で滅多切りにして、アリアが魔法で体毛を燃やし尽くし、シヴァルが腹に風穴を開けた後、最後にミレーヌがトドメとして呪隷で爆散させたせいで、全身がグチャグチャになって肉片がそこかしこに散らばっている。
「しっかしこの熊、最後まで良く分からねぇ熊だったぜ」
「そもそも魔物なのかすらも怪しいよねぇ。ほら魔物の肉って基本凄く不味いのに、美味しかったし」
「だよな」
アリアの言葉に俺は同意する。一部を除いて魔物の肉は何故か驚くほど不味い。特にゴブリンの丸焼きを食べた時は、一年以上熟成させ続けた腐肉のような味がしたぐらいだ。フォレストベアの丸焼きは、結構美味かったのを覚えている。
そもそも、頭にキノコが生えているという時点で、魔物以前に生物としてどうなのだろうか。もしかして、キノコの方が本体では……?
「ぜぇ、ぜぇ……ようやく慣れたわ」
「ピィィ……」
そう思っていたら、ラキがフォレストベアの死骸に慣れたようで、口元を袖で隠しつつ、木陰の隅からコッチに来ていた。その傍らにはウルが背中を優しく擦っている。
「丁度良い、ラキ。この死骸を触れ」
「鬼なの貴方!?さっきまで嘔吐してた私を見ていなかったのかしら!!」
「いやいや、お前確か、魔物の記憶を共有できるんだろ。何だっけ……」
「従魔契約よ!!忘れるんじゃないわよ!!」
あぁ、たしかそんな名前だったな。何時も逃げ回っているから全然覚えていなかった。だが、ある意味こういう場面なら役に立つ魔法だ。いや、魔工だったか?どっちでもいいか。
「良いから触れって、ほらほら」
「ちょ!鷲掴みにして持ってくるんじゃないわよ!な、生の匂いが鼻にぃ!!」
「しょうがない奴だ。アリア、シヴァル。お前らも気になるだろ?」
「確かにちょっと気になるかも、ごめんねラキちゃん」
「ちょ、ちょっとアリアぁ!?」
「ピィィィ!!」
「おっとウル。面白そうだから、黙って見てようぜ」
俺がフォレストベアから毟り取った肉片を触らせようとすると、身体を仰け反らせて避けようとするラキ。このままでは埒が明かないので、アリアとシヴァルにラキとウルを拘束させる。これでもう逃げられない筈だ。
俺は肉片を片手に、ラキへジリジリと近づく。
「さぁさぁ、お前が従魔契約を唱えない限り、延々と顔面に肉片を擦り付けてやるぞ」
「いやぁ!ちょ、ちょっと近づけないでよ!本当に!本当の本当だからぁ嫌ぁぁ!顔に肉がぁぁぁ従魔契約・開始ォォォォ!!」
ラキが顔面に肉片を擦り付けられながら、絶叫交じりに魔工を叫んだ。するとさっきの嫌がり具合が嘘のように大人しくなり、目が虚ろになる。
「アレ?おーいラキちゃーん」
「こりゃ駄目だ、失神してやがるぜ」
失神でもしたのかと思って手を離すアリアだが、どうやらそうじゃないらしく自立して二本足で立っている。
「……」
そして、フラフラとした足取りで歩き出すと、何故かフォレストベアの頭部だった物を死骸から引きずり出して、その頭に生えていたキノコを引きちぎった。
「ラ、ラキ?何するつもりだ?」
何かヤバい気配を感じて、俺が声を掛けるも、ラキは全く聞いていない。コレから一体何するつもりだと見守っているとラキは。
パクンと、一口でそのキノコを丸呑みした。そして、その瞬間に頭の天辺から同じキノコが生えた。
「ピィィィィ!?」
「ほぅ、やはりあのキノコが宿主を操作していたようですね。恐らく寄生されていた魔物の記憶のせいで、同じ状態になっているのでしょうか?」
「そんな冷静に分析している場合か!?あ、アレ大丈夫なのか!頭からキノコ生えてるけど!!」
後ろで考察をしているミレーヌにツッコミを入れる。どうしよ……頭にキノコが生えた人間の対処法なんて俺は知らねぇぞ!!
そう俺がアタフタしていると、ラキは何故か徐に頭のキノコに手を伸ばした。おい?ちょっと待て。引き抜こうとしてないか?引き抜けるのかそれ!?
ググググゥ……ブチッ!!
ラキがキノコを引き抜いた瞬間、同じキノコが頭に生えた。
「どうなってるんだアレ!?抜いた瞬間に生えたぞ!!」
「スゲェぜ!アレなら無限にキノコ食い放題じゃねぇか!なっ大将!!」
「なっ大将、じゃねぇだろ!キノコが何かもう色々と大丈夫なのか!!人として」
「魔族なので人ではないのでは?」
「ピィィィ!ピィィィ!!」
「アレ、ラキちゃんコッチに近づいてない?」
シヴァルに肩を叩かれてラキを見ると、引き抜いたキノコを片手に、何故か俺達に近づいて来ていた。えっ?何するつもりだアレ?
「ピィィィィ!!」
「おっ、ウル?」
その途端にウルがシヴァルの腕から器用に抜け出して、ラキの元へと飛んで行った。するとラキも迎え入れるように手を差し伸べて。
ウルの口にキノコを捻じ込んだ。
そして、ウルの頭からもキノコが生えた。
その様子を見て、ミレーヌが冷静に一言。
「どうやら、寄生主の頭に生えたキノコを食べさせる事で、種を増やすようですね」
「という事は……?」
ウルがコッチに向き直り、頭に生えたキノコをもぎ取る。そしてラキと同じように俺達ににじり寄って来る。
つまり、あのキノコを食べたら寄生されて、他の奴に食べさせることで寄生させる……それって、ある意味ヤバいんじゃ……。
「「グォォォォォ!!」」
「逃げろぉぉぉぉぉ!!」
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「ねぇ、私どうなったのかしら?記憶が無いんだけど……それと何故か頭が痛いわ」
「ピィィ……」
「忘れろ、何もなかった……」
あの後、森の中を追いかけっこし、何とか捕まえたラキとウルのキノコが生えなくなるまで引き抜くと、どうにか正気に戻った。だが、本人達は全く覚えていないようなので、敢えて黙っておくとしよう。
「大分先に進みましたね。そろそろ森を抜けるのではないでしょうか?」
ミレーヌが近くに生えていた木を蹴る。森の外側に近づく程、木の高さが低くなると言うが、これぐらいであればミレーヌの言う通り、そろそろ抜けられるかも知れない。
そう思いながらも、森の中を進んで行くと、不意にアリアが元気良く前方向を指差した。
「リュー君見て!ようやく外に出れたよ!!」
キノコが生えているからフォレストベアなのか、フォレストベア故にキノコが生えているのか……魔物とは奥深いです