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エピローグ:アホで薬師のエルフ

「お前何やってんだぁぁぁぁぁぁ!!」

「アハハッ、ごめんね?」


 これだけ俺に詰め寄られても、この女はヘラヘラと笑っていやがる。一体どんな神経と思考回路をしているのか、頭を切り開いてみたいくらいだ。


「でも、ちゃんとあのデッカイトレントを倒したんだから、大目に見てよ」

「なら周りを見てみろ」

「ピュー、ピュー」


 アリアが下手な口笛を吹いて目を逸らそうとするので、両手で頬を挟み込んで、現実を見させてやる。


 そこには灰、灰、灰、灰の山脈群、それと元が何かも分からない燃えカスが大量。それが集落一帯の範囲に収まらず、地平線の向こう側にまで広がっている。その先を超えても、同じような景色が広がっている事だろう。それほどまでに、あの炎はガラゴスの森全体を焼き尽くしている。


「ほら見ろ。周りが焼け野原越えて世界の終末みたいになってるだろ。これをどうやって避けろと?」


 空から炎の豪雨が降って来た時には、本当に死ぬかと思ったが、こんな大災害を前に良く生きていたな、俺。無我夢中で逃げ回っていたから、どうやって避けたのか覚えていないけど。


「ボクのせいじゃないもん!だってリュー君が責任取ってくれるって言ったからぁ!!」

「時と場合と威力を考えろ!!このサイコパス放火魔がぁぁ!!」

「うぁぁぁぁぁあぁ!やめれぇぇぇぇ!」

「イチャツキはそこまでにしときなさい。下らない」

「イデッ!?」


 アリアの頬をグリグリこねくり回していると、後頭部に鉄の棒で殴られた衝撃が脳を揺らす。振り向いて、それがミレーヌの槍のせいだと分かると、俺はその持ち主に怒りの矛先を変えた。


「イチャツイてねぇ!危うくコイツのせいで死ぬところだったんだぞ!!見ろ此処!俺の一張羅がちょっと焦げてるだろ!!」

「服が燃えたぐらい何よ!私なんか全身焦げる所だったのよ!!死ぬかと思ったわよ!!」

「ピィィ!!」


 何故がラキとウルの方が俺より怒っている。よく見れば、髪とか肌が所々焦げていた。これも人を差し置いて逃げ出した罰だろう。ざまぁみやがれ。


「あんなチッセェ炎ぐらいで死ぬ訳ねぇだろ。心配性だなオメェも」


 そしてシヴァル、お前は何で服がボロボロなのに全身無傷なんだ?その肌の内側に鋼鉄でも仕込んでいるのか?


 と言うか、それよりも気になる事がある。ミレーヌ達がこうして此処に来ているのなら。


「アルシャはどうした?まさか置いてきたとじゃないよな?」

「それなら持って来てるぜ。ほらよ」


 そう言って、シヴァルが肩に俵担ぎにしていた人を灰塗れの地面に降ろす。長い金の髪、けしからん程の胸、そして居るだけで周りをポワポワとさせる雰囲気……死体じゃなければ、そいつは。


「あぅ……リュク、シスさん……?」


 アルシャだ。しかも生きている。


「一応ですが、手術は成功致しました。最も、死にたくなければ安静をお勧めしますがね」

「ミレーヌさんぅ。ありがとうぅ、ございますぅ……」


 ミレーヌの経過観察を聞いて、自分の身体に何があったのかを理解したらしい。アルシャは上半身だけを上げて、頭を下げた。



「皆さん、本当に、ありがとう、ございますぅ……!!」

「ちょちょ!?頭下げなくて良いのよ!こんなロクデナシ共に!!」

「酷い言い草だねラキちゃん!ボク達、一応エルフの集落を救ったんだからね!!」


 その代わり、森を焼いているけどな。


 と、そんな事を考えながら、俺はアルシャの後ろに回る。剥き出しになった背中には、胴を斜めに裂く痛々しい傷跡が残るが、まるで周囲の肉を寄せて塞いだような歪な形で塞がっていた。医者では無いが、確かにこれなら又、開く事がないだろう。


 だったら、俺達が此処に居る理由もない。


「それじゃあ、アルシャも生きている事だし、こんな森に用はねぇよな」

「えっ?」

「……はい」


 俺の言葉にラキは驚きの声を上げるか、アルシャの方は覚悟していたように頷く。


「せ、折角治ったんだから、もう少し一緒に」

「どうも、そうは行かないようですよ」

「アッ」


 ミレーヌの視線の先を見て、ラキがようやっと理解したらしい。すっかり焼け落ちた自分達の集落の残骸を踏みながら、俺達に近づいて来るエルフ達の存在に。


「何よ!もしかして私達とやるつもり!!」

「いや、違う」


 先頭を歩く若い女のエルフが首を横に振る。誰かと思えば、そいつは木の上でエルロンの手を掴んでいたエルフだ。


「集落を救ってくれた礼を言いに来た」


 どういう風の吹き回しだというのだろう。その女エルフが肩膝を付いて、深々と頭を下げた。それは、一緒に付いて来ていたエルフ達も次々に倣い、いつの間にか俺達の前に何十人ものエルフ達が頭を垂れていた。


 その姿を見るだけで、俺達に何を伝えたいのかは分かる。それを確認したいのか、シヴァルが口を開いた。


「テメェん所の大将は納得してんのか?」

「納得はしていない。無論、我々もだ。だから一度だけ許す。次は無い」


 女エルフが顔を上げたかと思えば、俺達を憎々し気に睨み付けてくる。


「何故頭を下げる!何故殺さぬか!!」


 その後ろから狂ったように叫び散らす怒鳴り声が響く。走ったせいなのか叫び過ぎたのか、ヤケに息切れを起こしながら、エルロンが凄まじい形相をして、俺達に迫って来ている。


「止めましょう。長老様」


 しかし、それを集団の中に居た一人の若い男のエルフが、前に立ち塞がる事で差し止めた。


「どかぬか!貴様もあの人間共に!忌み子に加担するというのか!!」

「いいえ、そうでは有りません」


 そのエルフが誰なのかは分からないが、隣に居たシヴァルが「やるじゃねぇか、アイツ」と知っているような口ぶりで呟く。どうやら知っている奴らしい。


「この者達が我らに害を成したことは承知しております。忌み子……アルシャに味方をする訳でもございません……」


 若い男のエルフは一瞬だけ、言い淀んだかと思えば、顔を上げて、ハッキリとした意志と言葉を吐き出した。


「ですが!今、我らはこの者達によって救われました!ですから、それに報いなければ、我らの先祖に恥を掻かす事になります!そのような真似は出来ません!」

「そ、そのような事は……断じて!!」

「我ら一同、長老様の教えや伝統を軽んじている訳では有りません。ですが、それだけでは何時か我らを滅ぼす」


 再び、若い女エルフが喋り出す。長老を前にして、何も恐れずに真っすぐと。


「だから、少しだけ、僅かであっても良いので。我らは変わる事を選んだのです」


 それが、この場に居る全員の意志であると宣言するかのように。


「き、貴様らぁ……!!」


 自分に忠実だった者達の目が一斉に向けられる。その圧に押されて、エルロンは言葉を失ったらしい、それ以上は何かを言う事は無かった。


 予想でしかないが、これからは今までの様には行かないだろう。集落は全焼し、守っていた秘宝も真っ二つに、そしてエルフ達の意識も変わりつつある。果たして、それがどういう風に変わって行くのか。それとも変わらないままでいるのか。


 だが、エルフ達の行く末なんぞ、俺の知った事ではないし、俺達はその選択にとやかく言う権利もない。


 だから、俺達は俺達のやらかした事を清算してやった。後はお前らがやらかした罪は、自分達で清算しろという事だ。


「内輪揉めは他所でやれよな……」


 立ち上る灰色の煙が染める空を見つめながら、沈みかけている夕日に向けて息を吐く。


 思えば、ちょっとした観光しに来たつもりだったのに、随分と長居してしまったような気がする。物語にしてしまえば、25話もの長編になるぐらいだろうか。


 長い寄り道もそろそろ終わりにしないとな。


「そろそろ行くか」

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

「なぁ、お前。一緒に付いてくるか?」


 去り際、リュクシスさんは私にそう言って手を差し伸べてくれました。


 コレで手を刺し伸ばしてくれたのは、二回目です。


 一回目はリュクシスさんのようになる為に、胸を張れる自分になる為に手を振り払いました。


 そして、二回目は。


「ごめんなさいですぅ」


 私は手を握りませんでした。


「そうか」


 リュクシスさんは理由を聞いてはくれませんでした。ですけど、その方が良かったのかも知れません。口に出してしまうと、少し安っぽく聞こえてしまうかもだからです。


 でも、シッカリと私は決めているからこそ、私は口にします。


「私は、貴方達のようにはなれません」


 私はリュクシスさんにも、アリアさんにも、ミレーヌさんにも、シヴァルさんにも、ラキさんにもなれません。と言うより、なろうとするのが間違いだと気が付きました。


 それは憧れるべき物じゃないし、欲しがる物じゃない。リュクシスさん達からすれば、只の汚点でしかない。それだからこそ、きっと今まで曲げずに生きて来たのでしょう。


「私はこれから、私らしく生きていこうと思います」


 だから、もう憧れはしません。私は私らしく、我儘を貫こうとする汚い生き方を見つけてみようと思います。


「と言っても、どうすれば良いのかなんて、私には全く思いつかないんですけどね」


 やっぱり、言葉にするとついつい照れてしまいます。恥ずかしくて笑ってしまいます。ですけど、リュクシスさんは私よりもっと笑ってくれました。


「お前が我儘をなぁ!まぁ良いか!!」


 リュクシスさんは私の頭を滅茶苦茶に撫で回しますが、乱暴な手つきに何処となく優しさがあるように思えます。


 まるで。


「『お前は思うように生きてみろ。後悔なんて後からすれば良い』」


 お父さんが撫でてくれるようでした。


「リューくぅーん。そろそろ行くよぉー」


 向こうからアリアさんがリュクシスさんの呼ぶ声がします。どうやら、皆さんはもう行ってしまうようです。


「そろそろ行かないとな。悪い」


 最後にリュクシスさんは私の頭を軽く一叩きすると、私に背を向けて、皆さんの元へと言ってしまいます。


「リュー君、アルシャちゃんと何を話してたの?」

「そんな怪しむんじゃねぇって!大した話はしてねぇよ」

「怪しいわね……もしかしてアルシャを口説いていたのかしら!そうだったら許さないわよ!!」

「悪い事は言わねぇ大将。ありゃアリア以上にヤベェ事になる女だぞ。俺が保証してやる」

「嫌な保証ですね、それ」


 皆さんの話し声は聞こえてきます。それを聞くのが最後だと思うと、胸の内がちょっと痛くなってしまいます。


 きっと、皆様の旅は私には予想が付かないぐらい波乱に満ちていて、同時に楽しいものになるでしょう。ですけど、私はそれを振り切りました。


 だから後悔なんて無いです。コレが最後になったとしても、きっと私は笑って手を振ることが出来ます。


 でも、私がさよならを言う前に。


「じゃあなアルシャ、生きてたらまた会おうぜ」


 リュクシスさんは、また会おうと言ってくれました。


 だから、私もこう返します。


 きっと、私が私らしく生きる事が出来た時に、胸を張って会えるように。


「はい!また会いましょう!!」


 それをちゃんと聞いていてくれたのかは分かりません。


 答えを返さずに、リュクシスさん達は夕焼けが沈む方に向かって、残骸塗れの森を振り返らず真っ直ぐ、止まらずに歩いて行きました。



 アレ?やっぱり途中ちょっと止まったような……。

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

「そう言えば、馬を置いて来たわよね……これからどうするのよ?」

「「「「あっ」」」」


ようやっと、二章終わりです……正直書いている途中、終わりが見えませんでした。


次の投稿は少し間が開いて、5~6日後を予定しております。また投稿頻度も変更も考えております。

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