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ロクデナシ流のストレス発散方法

登校時間が遅れて申し訳ありません!その代わり何時もより倍近く書きました!!

エルフが住まう集落は、それは大層に美しく自然溢れる地であった。


空を覆う木の葉は風に靡いてさざめき。

宙を行き交う枝は陽を浴びて伸び伸びと広がり。

地を這う深い茂みは森を彩る。


エルフ達が自然と共生する様に長年住んでいたこの場所は、世が世であれば、恐らく世界随一の絶景と評されるであろう正しく秘境である。


だが残念な事に、人類がそれを目にする機会は二度と無いだろう。たった一人の人間が、それらを全て炎と塵と焼け野原に変えるのだから。


「に、逃げろぉ!!巻き込まれるぞぉ!!」

「誰かあの人間を止めろぉぉぉ!!」

「嫌ぁ!!私達の森がぁ燃えるぅ!!」


空を覆う木の葉は熱風に煽られ焼け焦げ。

宙を行き交う枝は鱗粉を上げて灰となって散り。

地を這う深い茂みは森を赤く侵食する。


集落を自然に彩る新緑達が瞬く間に逆巻く炎に煽られ、触れる物全てを焼き尽くす赤に染められていき、共生するように此処で生きて来たエルフ達は、自ら逃げ出していく。



ただ一人、燃え盛る炎の波の中心で狂った様に踊る人影を除いては。


「アッハハハハハハッハハハ!!見て見てぇぇ!!さいっっっこうに綺麗だよぉぉぉ!!」


呼吸するだけでも灰を焼き尽くす熱風を身体で感じ取る度に、アリアの体温と興奮は天井知らずに上昇していく。それに同調して両掌から流れ出す紅蓮の炎は、決壊した堤防が如く溢れて止まない。


視界は大好きな色で真っ赤に染まっている。吹き荒ぶ熱風も散らばる火の粉さえも心地良い、逃げ惑うクソ共の悲鳴は最高のオーケストラだ。最早、今や此処は炎が全てを支配する地獄にーーー天国に一番近い場所となっている。


あぁ、こんなに満足感を覚えるは何時ぶりか、それは都市を丸ごと一つ燃やした時だろうか。あの時は都市一つだけで全て燃やし尽くしてしまったが、此処は何処までも無限に広がるガラゴスの大森林。燃え尽きる事は無く広がり、森を超えて、やがて世界を余すことなく燃やし尽くすのだろうか。


そう考えたら、アリアは。


「~~~~~~~っ!!」


より一層、興奮してしまう。


「勝手にトリップしていないで、少しは冷静になりなさい。ド阿呆が」


狂喜乱舞する脳内に無粋な呼び声が水を差す。その瞬間、反射的にアリアの炎は矛先を変えて、一斉に声がする方向へ目掛けて殺到する。しかし、地面から突出した不気味な壁に遮られて、裂くようにして通り過ぎて行った。


「アリア、貴方は何時から敵と味方の区別が付かないように?これではシヴァルと同じですよ」

「い、今燃やそうとしてたわよね!?絶対にしてたわよね!!やっぱりこの女頭おかしいわぁ!!」

「ピィィィ!!ビィィィィ!?」


そして不気味な壁の裏側から出て来たのは、見知った顔の2人と一匹。ミレーヌとラキ、それとウルが出てくると、途端にアリアの掌から炎が止む。


「あっ、ごめんねぇ。間違って燃やしちゃう所だったよ」

「間違いで火を向けるんじゃないわよ!!燃やされるかと思ったわよ!!」

「本当に燃えていますよ貴方。髪の先端に火が付いています」

「何よ、そんな訳……って本当に火が付いてるじゃないぃぃぃぃ!!」

「ピビィィ!?」


ウルとラキが仲良く暴れ回るのを尻目に、アリアはミレーヌに話しかけた。


「それでボクに何の用かなぁ?今最高に楽しいんだけど」

「コレを貴方に届けに来ました。じゃないと貴方、私達諸共燃やしてしまうでしょう?」


そう言って、ミレーヌは左手に握っていた鉄筒状の仕込み杖と赤い魔石を渡す。それは間違いなくアリアが愛用していたその物だ。


「ありがとミレーヌちゃん!やっぱりコレがあると落ち着くなぁ」

「いえいえ、貴方に家財ごと燃やされては困りますので」


手渡された仕込み杖と魔石に頬擦りするアリア。そこでふと。すっかり炎で包まれた周りを見渡して、一つ気がかりな事を覚えた。


「あっ、そう言えばリュー君は?それとシヴァルとアルシャちゃんも」

「あの三人であれば、あそこに居ますよ」


ミレーヌが指差したのは、先ほどまで自分達が居た大屋敷。一番巨大である木に沿って建てられているお陰で火が回りにくく、次々と燃え移って行く木々と家屋と違い、唯一形を保ったままでいた。


『ドゴシャァァァ!!』

「ボァァァァァ!?」


それが何時まで持つのかは分からないが。


大屋敷の天井を飛び抜けて、エルフ達が空中へまばらに投げ出される。そのせいで、大屋敷の屋根は穴だらけになっており、既に火が回らなくとも崩れかけている状態になっていた。


「へぇ、ミレーヌちゃんは行かなくて良いの?骨董品とか値打ち品とか一杯あると思うよ」

「そう言うのは私よりリュクシスの方が得意ですので。こんな状況で無ければ、丸ごと頂きに行く所ですがね」


大屋敷にある骨董品類を全て盗めない事を余程根に持っているのか、地面をつま先で細かく叩きながら答えるミレーヌ。しかし、諦めが付いたのかピタリと止むと、背に差している槍を抜き出した。


「さてと、このまま私は家を回って火事場泥棒をして来ますが、これ以上は建物を燃やさないようお願いしますね。貴方の炎では金品ごと塵に返り兼ねませんから」

「じゃあクソエルフ共は?」

「それは燃やして問題ありません」


ミレーヌが周りを囲む業炎に向かって槍を振り下ろすと、穂先から飛び出した黒靄が一直線に通り過ぎ、その跡には焼け焦げた地面と残骸が広がる。


「フゥ!フゥゥゥゥ!!よ、ようやく炎が消えたわ……危うく私のキューティクルな髪が全焼してしまう所だったわ……!!」

「ラキ、貴方も付いてきなさい。特別に貴方には私の手伝いをさせてあげます」

「えっ!ちょ、ちょっと!?私に火事場泥棒の手伝いをさせる気なの!?ウルちゃん助けてぇぇぇ!!」

「ピィィィ!!」


暴れ回った末に何とか髪に付いた火を消したラキの襟首を掴むと、有無を言わせず引き摺って、ミレーヌは掻き消し出来た道を火の手が回らぬ内に通って行った。


「最後に一つ、リュクシスから言伝があります」


だが一度振り返ると、ミレーヌはリュクシスの言葉を思い出して、アリアに伝える。


今度は暗喩などでは無く、ハッキリとした言葉で。


「『どうせ暴れるなら、気が済むまでやってろ』と」


それを聞いたアリアは思う。


やっぱり、ボクの大好きな人は、ボクの事を良く分かっている。

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

「ミレーヌの奴、本当にちゃんと伝えてくれたんだろうなぁ。じゃないとアイツ止まらないぞ」


俺はつい先ほど送り出したミレーヌの事を思い浮かべ、そう呟かざるを得なかった。


全く……イキナリ屋敷の中で爆発させたと思ったら、その後すぐに屋敷の壁をぶっ壊して外に飛び出しやがって。


別に追い掛けても良かったが、ミレーヌが俺より先にラキを連れて、さっさとアリアを追いかけてしまった。しかも骨董品を見つけたら高そうな奴を持てるだけ盗めと押し付けてだ。だから、俺も伝言と仕込み杖を渡すよう頼むしかアリアを制御する方法が無いのだ。


「大将よぉ、そんなに悩んでどうした?そんなに心配ならアリアを迎えに行きゃあ良いじゃねぇか」

「別の意味で心配ってだけだ。アイツが炎に巻かれて死ぬ姿なんか想像できるか?」

「そりゃ想像できねぇな」


隣に居るシヴァルにそう投げかけると、やっぱり俺と同じ意見が飛び出した。そりゃそうだ。人や物を笑顔満点で燃やす狂人が逆に燃えるなんて聞いたことが無い。アリアなら寧ろ自分から炎に飛び込んで一体化でもしそうなくらいだ。


とまぁ、こんな事をダラダラと話しながらも、屋敷の中に取り残された俺達はと言えば。


屋敷の中に残っていたエルフの集団を相手に暴れ回っている最中だ。


「よくも我らの森をぉぉぉ!!」


部屋から奇襲する形で飛び出したエルフが引き絞った弓で矢を放つ。それは祠へ向かう時に見せたキノコ熊の狙撃と同じく、予測が付かない変幻自在かつ正確な軌道だ。


もしエルフお得意の森林で隠れてコソコソ狙撃でもされていれば、流石の俺でも避けるのは難しい。しかしこれくらいの奇襲なら、どんな軌道を描こうと簡単に避けられる。


「お前らの事情なんぞ知った事かよ」

「グォォ!?」


心臓を狙って軌道を描く矢をフランザッパで弾き返し、その振り抜いた拍子にフランザッパの真空波で斬り飛ばした。


「やっぱり手よりも剣だよなぁ。お帰りよぉフランザッパァ」


つい先程飛ばした真空波の斬り心地を確かめつつ、愛刀のフランザッパの峰を撫でる。いやぁ、エルフ達が物の価値が分からない馬鹿で良かった。出られないからと言って、牢屋のすぐ外に置いていてくれるなんて、随分と親切な奴らだ。


「そんな武器に頼ってるから大将は軟弱なんだよ」

「おっ、何だ馬鹿にしやがって。俺と喧嘩したいのか?」

「ハッ!俺を見やがれ」


煽ってきたかと思えば、シヴァルは上半身を強く捻じり、握った拳に力を貯め込む。その間にも、長い廊下の奥から次々にエルフ達が押し寄せて来る。


「駄目だ!弓矢は効かぬぞ!!魔法だ!魔法を使えぇ!!」

「皆の者!一斉に魔法を唱えよ!良いか!!我ら一同心を合わせよ!!」

「「「ハッ!!」」」


随分と偉そうなエルフ二人が主導して、他のエルフ達を纏め上げると、全員が全く同じタイミングで一斉に詠唱を始めた。


エルフの風魔法―――確か風刃ウインドスラストだっけか?見た限りでは、俺のフランザッパによる真空波には及ばないが、それでも並みの魔法使いが放つ風魔法を遥かに凌ぐ威力と精度があるだろう。そんなのを一斉掃射なんかでもされたら、人間ぐらい一瞬で粉微塵になる。


俺は一歩下がる。エルフの風魔法を恐れてじゃない、単に巻き込まれるのが嫌なだけだ。


「「放てぇぇ!!」」

「「「風刃ウインドスラストぉ!!」」」


偉そうなエルフの号令が鼻垂れた瞬間、フランザッパのような風の刃が、寸分の隙すら与えず、一塊の嵐が如く押し寄せる。左右の壁や床を粗削りに切り崩し突進していくのを見るに、俺が想定していたよりも遥かに凄まじい威力だ。


……そもそも、どれだけ俺の想定を超えようとも。


「それじゃぁ、行くぜぇ!!」


この規格外の馬鹿力に真っ向から勝てる威力なんて、俺は今まで見たことが無い。


「いちぃ、にぃの、オゥラァァァァァァァァァァァァァァァァァァァ!!」


シヴァルの前では風の刃などそよ風同然。そして本気で殴れば、当たらずとも空を裂いて大地を割る。


「何ぃ!ば、馬鹿なぁぁ!!」

「吹き飛ばされるだとぉぉぉぉ!?」


振り抜いた拳の風圧は純粋な質量のみで、エルフの魔法を押し返しただけでなく、その先に居るエルフ達をも巻き込み、壁を強引に突き抜けて外へと吹き飛ばした。


吹き飛ばされるエルフが点ぐらいの大きさになるのを見届けると、シヴァルは嫌に腹立つ自慢顔で空いた壁を親指で示す。


「なっ?武器なんか無くても強ぇだろうが」

「お前は荒すぎるんだよ。少しは俺を見習え」


つくづくコイツの馬鹿力には呆れる。一体どんな身体構造してるんだが、コイツの皮膚でも剥ぎ取って盾にでもすれば、よっぽど頑丈な盾が出来るに違いない。今度寝てる間にやってみるか?


「ま、待ってくださぁい二人ともぉぉ!!」


俺達が通った後の廊下から、呼び止める間延びした声がする。振り向かなくても誰か分かるので、敢えて無視しておく。


「ダメじゃないですかぁ!こ、こんなに暴れたらぁぁ!!それに皆さんに手を出したらダメですよぉ!!」


しかし、俺達を追い抜いて、そいつは目の前に両手を広げ、この期に及んで甘ったるい言葉と一緒に立ち塞がった。一体何処までコイツの脳内はお花畑なのやら。


なぁ、アルシャ。


「オメェよぉ……黙って俺らに死ねって言ってんのか?そりゃ幾ら何でもひどすぎるぜ」

「そ、それはぁ……でも……長老様がそう言っていましたからぁ……」

「……駄目だこりゃ。頭痛ぇから大将パス」

「いや早いだろ。もう少し粘れよ」


とは言いつつも、俺もシヴァルと同じでアルシャの事は早々に諦めていた。特にコイツの過去を聞いてからは、どうしようもないのは分かっていたので、話は聞かないようにしている。


多分アルシャも、自分の言っている事はおかしいと気づいているだろうが、それでも俺達を止めようとする辺り、如何に手遅れなのかを物語っていた。


「貴様らぁぁ!!」


また俺達の後ろから呼び止められる。今度はアルシャの甘ったるい声じゃなく、足元に絡みつきそうな怨嗟の声だ。こんな呼び止められ方をされては、振り向かない訳に行かない。


面倒臭いと思いながらも振り返れば、そこに居るのは予想通り、爆風と爆炎でズタボロに衣服や肌を焦がしたエルロンだ。


「まぁだ生きてたのか。てっきりアリアの爆発で吹っ飛ばされたかと思ったぜ」

「よくもぉぉ、よくもぉぉ!何処まで我らの誇りを冒涜すれば気が済むぅぅぅ!!」


そう煽ってやると、エルロンにギョロついて充血した眼で睨まれる。


あんな近くでアリアの爆発を受けて無事で済まないだろうに。それでも火傷塗れの身体で焼き焦げた服を引き摺りながら俺達を追って来るとは、その執念には恐ろしさすら覚える。


「そこの忌み子もだぁ!!」


そして、その矛先はアルシャにも向く。


「折角拾ってやった命だと言うのにぃ!こんな事態を招くとはぁ!!やはり貴様もぉ!貴様の両親もぉ!どいつもこいつも我らの歴史に仇為しおってぇぇぇ!!」

「っ……ご、ごめ「聞いていて、耳が腐るな」りゅ、リュクシスさん!?何を言ってるんですかぁ!?」

「聞いていて耳が腐るって言ったんだよ」


アルシャを遮って、俺は思った事を正直に言ってやる。いっそこの際だから、遠慮なく吐き出させてもらおう。


「誇りだ歴史だ同じような事ばっか言いやがって、そんなの守って何が残る?覚えてもいねぇ過去に縋るぐらいなら、俺は今の俺に縋るけどな」

「我らの誇りを愚弄するなぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」


怒りで喉を張り裂けるほどに叫び、腕を上げて俺に向ける。その掌には風の吹き溜まりが形成されて、刃を重ね作ろうとしていた。


だが、それが放たれる事は無い。


「なっ!?」


打ち出す寸前になって、エルロンの足元に大きな亀裂が走ったからだ。


「わりぃ、イラついてたからよぉ。つい足が滑っちまったぜ」


亀裂の源は、シヴァルの右足に続いていた。どうやらちょっと、力加減を間違えてしまったらしい。そして、吸い込まれるようにエルロンが落ちていった。しかし、直前に手を淵に差し込んで、どうにかしがみ付く。


「ぬぅぅぅぅぅぅ!!」

「随分としぶてぇエルフだな。トドメ刺しとくか?」

「止めとけ、それより倉庫探すぞ。値打ち品を持ってこないと、後でミレーヌにぶち殺されるぞ」

「それもそうだな」


シヴァルも納得してくれたようで、淵にしがみ付くエルロンに追撃を掛けようとする足裏を退く。だが代わりに俺が足元に立ち、屈んで見下ろす。


「グゥゥゥゥゥゥゥ!!き、貴様ぁぁぁぁぁ!!」

「初めから俺を勇者だって認めてれば、こんな事にならなかったかもな。まっ、アンタは絶対に認めないだろうけどな」

「あぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」


叫んで抜け出そうにも、満身創痍の状態では自力で持ち上げる事は出来ないだろうけど。


さて、言いたい事も言い終わった死、最早コイツに用はない。俺はエルロンを一瞥すると、そのまま逆側の廊下へ歩き出した。


「ちょ、長老様を助けないと……!!」

「おっと、そうはさせねぇぜ」


途中、長老を助けようとするアルシャをシヴァルが器用に持ち上げ、そのまま担ぎ上げながら俺に追随する。


「は、離してくださぁいぃぃ!長老様がぁぁ!!」

「助けたら面倒じゃねぇか。それにあのババア、ガワはギリ範囲内だけど中身が気に食わねぇ。抱けるなら考えてやってもいいけどよ」

「前から思ってたけど、お前の守備範囲って結構広いな。性別が雌なら何でも良いんじゃねぇか?」

「経験がねぇ大将には分かんねぇんだろうなぁ。女の良さってのは歳だけじゃねぇんだぜ」

「おっ?喧嘩ならいつでも買うぞ」


そんなくだらない話をしながらも、悠々と誰も居なくなった廊下を歩いて行く。その最中にもアルシャが「長老様をぉ!!」とか「離してくださいぃ!!」とかうるさかったが、そんな戯言は俺もシヴァルも聞き流す。


曲がり角に差し掛かった時。最後に見えなくなるエルロンに向かって、ダメ押しの一言を残してやった。


「それじゃ、そこでしがみ付いてろよ。死ぬまでな」


そして廊下を曲がったそのすぐ後に、声にもならない絶叫が耳に飛び込んだが、何を言っているのか分から鳴ったので、俺は無視した。


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