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逃げるロクデナシ達と置いてけぼりの勇者

祠の崩壊は内だけではなく、外からも始まる。


それに一早く気づいたのは、エルフの首を背後から絞めていたシヴァルであった。


「何だ?揺れんぞ!!」


シヴァルが叫んだその時、まるで足元で爆発が連鎖したかのような激しい地響きが、祠の周囲一帯で弾け出した。


「な、何なんのよぉ!この地震はぁ!?」


ラキが頭の三角棒を両手で守りながら地面にへばりつき、アルシャは体を丸めて、この世の終わりと言わんばかりに叫ぶが、それは二人が過剰反応なだけではない。


その地響きは一度ではなく、今この瞬間も止むことなく弾け続けており、その衝撃に耐え切れず森は生命を持ったかのように揺れ動き、地面には崩壊寸前を予兆する亀裂が幾つも迸る。


そして、森のあらゆる現象を隅々まで熟知している筈のエルフ達でさえも、この異常な地響きに、反応すらできなかった。


「キャァ!!」

「何だこれは!?」


地上で弓を構える者は、立つ事すらもままならずに矢を落とす。木の陰に隠れ潜む者は、耐える暇もなく次々と足を滑らせて落ちていく。


「あわわ!凄い揺れだね!!」

「これは、立っていられませんね……!!」


それはアリア達も例外では無い。アリアやミレーヌもまた同様に、激しい地響きで立っている事すらも出来なかった。


「おっとっと、結構激しい地震じゃねぇか」


勿論、大シケの荒波の上だろうと片足立ち出来るシヴァルを除いては。


ミレーヌが全身に伝わる振動で震える声のまま、シヴァルの脛を拳で叩いて呼び立てる。


「シヴァル、立てるのなら、私達を運びなさい」

「ん?全員ぶっ飛ばさねぇのか?」

「それをするには、場所と数が、悪いです。やるなら有利な場所で、一気に」

「どうでも良いけどよ、オメェ声震えてねぇか?」


もう一度、無言でミレーヌが強めに脛を叩くと、シヴァルはやれやれと言った様に、絞めていたエルフを解放し、右腕にアリア、左腕にミレーヌを抱えた。


「……貴方、もう少し女性の運び方を覚えなさい」

「ミレーヌちゃんの言う通りだよ!シヴァルはデリカシーが無いんだから!!」

「うるせぇなぁ。降ろすぞ」

「「お願いしまーす」」


シヴァルが二人を抱え、未だに激しく揺れ続ける地面を物ともせず、そのまま平伏しているエルフ達を軽く飛び越えて、森の茂みを目指して走って行く。


「ま、待て!貴様ら!!皆の者、逃すなぁぁ!!」


それを逃すまいと杖を地面に突き刺して、どうにか膝を付いているエルロンが声を張り上げて指示するが、他のエルフ達も動ける筈も無い。


「逃すかぁ!!」

「か、風よ!刃となれぇ!!『風刃(ウィンドスラスト)』!!」

一部のエルフが魔法を唱えて真空波を飛ばそうにも、揺れる視界と定まらない照準では、マトモに当たる筈も無い。周りの木々や茂みを斬り裂くばかりで、シヴァルには届く事は無かった。


そうしている間にも、シヴァルはアリアとミレーヌを連れて、更に森の奥へと獣のような速さで駆け抜けていく。


「おぼぼぼぉ!?焼ける焼ける!!お腹が焼けちゃう!!」

「痛い!痛いですぅぅ!!」


その両足に、地面を擦ったり木の根にぶつかりながらも必死にしがみ付く、ラキとアルシャと一緒に。


「おいラキとアルシャ!邪魔だから離れろよ!!」

「嫌よ!あんな殺意満々なエルフ達の中で置いてけぼりなんて!絶対に離さないからぁぁぁぁ!!」

「ひぇぇぇぇ!死にたくないですぅぅ!!」

「あぁぁ!ったくウルせぇなぁ!!」


走りながらもシヴァルは両足の二人を振り払おうとするが、命の危機に身体能力合強化されているのか、まんじりとも離れようとしない。


「だったらしょうがねぇ!ちょっと待ってろ!!」

「ちょぉと!?」

「ピギャ!?」


左脚、右脚と大きく振り上げ、空中に二人を飛ばす。そして最後に振り上げた右脚をそのまま地面に力強く突き降ろす。


「ふんぬぁぁぁぁぁ!!」


既に亀裂が脈の様に刻まれている地面に、蹴りのみで鋼をも曲げるシヴァルの馬鹿力が加わる。それはいずれ来る崩壊までの時間を一瞬の内に刈り取る衝撃であった。


そして地面は、遂に崩壊を始めた。


「おぉぉぉぉ!?」

「じ、地面がぁぁ!!」


割れ落ちていく地面の残骸や木々と共に、エルフ達が雨に流される虫達が如く巻き込まれていく。


「ば、馬鹿なぁ!!」


それには当然、エルロンも巻き込まれていた。突き刺していた杖も意味をなさず、足元から崩壊する地面に投げ出されてしまう。


どうにか足掻いてアリア達を逃さんと落ち行く中で藻掻くエルロン。しかし、地上の景色で最後に見たのは。


「それじゃぁ、生きてたらまた会おうねぇ」


ヒラヒラと手を振って見送るアリアの満面の笑顔だった。


「きぃぃぃさぁぁぁぁまぁぁぁぁぁらぁぁぁぁぁ!!」

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

幸か不幸か、地面の崩壊はそこまで深いものでは無かった。


「ぬぅぅ……!!あやつら、絶対に許さんぞ!!」


落下の衝撃で軋む身体を推して、エルロンは立ち上がると、余りの怒りに激しく足元を踏みつける。すると、土ではない硬い感触が衝撃を返す。


地面にあるまじき足元の感触に、エルロンが舌を見ると、そこには土の中に石造りの床が残骸となって埋まっていた。


「な、なんだコレは!?」

「石……?何故此処に!?」


同じく落下の衝撃から立ち直ったエルフの一人が気づき、その石造りの床を触ると、それに釣られて、無事であった他のエルフ達も驚きに声を上げる。


しかし、エルロンだけは驚きもせずに、ただ石の残骸をジッと観察し続け、触って表面の感覚を確かめた。


やはり、この石は祠の一部に違いない。石床の煤けた白が混じった色合いや、触った時の少しザラついた触感は、エルロンがそう確信するのに充分な材料となる。


「だとしたら、何故此処に……」

「ギャァァァァァァァ!?」


偶然とはいえ、突如として発掘された祠の一部に、戸惑いと共に思考を巡らせていると、不意に若いエルフが、何か見つけて驚く素っ頓狂な叫びに、エルロンの視線が勝手に反応した。


「何事か!?」

「く、首が生えていました!!」

「ハァ?」


若いエルフからの報告に、エルロンは首を傾げながらも近づけば、なんと。


本当に首が土の中から生えていた。それもニョッキと擬音が付きそうなほどご立派に。


「コレは、過去に祠へ追いやった同士か?」

「良く見てみろ、この者は耳が長くない。それに顔がとても不細工だ」


見当外れな声を弾き返し、エルロンは首に付いている頭を徐に鷲掴みにすると、その白目を剥くアホ面を自分の方に向ける。


「何だ、勇者を騙っていた不届き者ではないか」


その顔は先程、祠の中へ宝玉を取りに行かせた勇者を騙る人間(リュクシス)であった。


「何故、このような場所に……」

「分からぬ……だがしかし、この男も地響きの崩落に巻き込まれたのであろう。皆の者。こやつをまた土の中へ埋めておけ。見ているだけでも不快だ」


そいつに構っていられないと、エルロンはエルフ達へ投げやりに命令する。今はこんな馬鹿に構っている余裕などは無いのだ。


それよりもエルロンの胸の中には、魔法で炎を操り、邪悪な笑顔で同胞はおろか、この神聖なる森や草木を燃やした、あの小娘への憎悪が渦巻いていた。


恐らく、この憎悪はあの小娘を惨たらしく、如何にこの森を焼く事が禁忌であるかをうら若き肢体に刻み付けて、惨たらしく殺さない限りは収まりそうにもない。


早く、早く見つけて捕まえなければ、そしてあの憎たらしい笑顔を消さねば。その為に一歩先に踏み出した杖は。


「あのぉ、ちょっと埋めようとすんの止めてくんね?」


盛大に踏み外して、顔面から盛大に着地した。


「き、気のせいか?今、あの人間の声が聞こえた気がしたんだが……」

「気のせいじゃねぇよ若作りエルフババア。早く俺を引っこ抜け」


可笑しい、またあの人間の声が聞こえた。エルロンはすぐさま立ち上がり、埋めようと群がるエルフ達を押しのけると、そこには変わらずリュクシスの顔面があった。


しかし、今度は半分開いた白目じゃなく、黒い瞳が見上げてる筈なのに、見下しているようにエルロンを捉えていた。


「こ、これはどういう事だ!誰か答えよ!!」

「分かりません!我らが埋めている最中にイキナリ目を覚まして……」

「おい無視してんじゃねぇぞ。唾吐きかけるぞ」


まさか崩落に巻き込まれて、首まで生き埋めにされて尚、生きているとは信じられないが、このふてぶてしさは本人しか真似できないだろう。


「そんで何があったのか誰か教えてくれないか?急に祠で生き埋めにされたと思ったら、こんな崩落跡でまた生き埋めにされるとか、幾ら天才的な頭脳を持つ俺でも状況が飲み込めないんだけどな」


祠の最奥でゴーレムを倒したと思ったら、祠自体が崩壊してこの有様である。エルフが屯っているわ、地上に出たと思ったら首だけの生き埋めになっているわで、何が何だかで、教えて欲しいくらいだった。


だが、リュクシスは致命的に聞く状況と相手が悪かった。


「おぉ、聞いただけそんな怒らなくとも良いんだろうがよ」

「黙れ」


リュクシスの中心にして、弓と風魔法の包囲網が瞬く間に完成する。そして、その外側で指揮を陣取るエルロンが一瞥する。


日常でトコトン空気が読めない事で定評のリュクシスでも、親の仇だと言わんばかりの殺意と敵意には、否応にでも敏感に感じ取る他ない。


「恨むのであれば、貴様の仲間を恨め。それだけの事を、あやつらはしでかした」


エルロンの言葉の節々から、形容し難い怒りと恨みが理性的に振舞おうとしても隠しきれていない。血管など浮き彫りになり過ぎて、切れかけそうだ。


……アイツら、一体どんな暴れ方したらここまで恨まれるんだ。後で会ったら覚えてろよ。


とまぁ、復讐は後でするとして、今はどうやってこの状況から脱出するか、それが問題である。


身体が地球に埋まっていて逃げられないし、地中から出れたとしても、その瞬間に矢と真空波の集中砲火。どう考えても手詰まりの状態であった。


「参った、何かねぇかなぁ……」


取り合えず逆転の一手とか、そんなのがねぇかなぁと思いつつ、リュクシスは土の中でポケットを弄ると、硬くて丸い感触が見つかる。


あっ、そうだ。一つだけ方法があるじゃないか。


「動くな!何をするつもりだ!!」

「まぁまぁ、見てなって」


エルロンの制止も聞かず、リュクシスはその感触を鷲掴みにし、強引に手を地上に伸ばす。


その手に握るのは、割れた筈の宝玉だった。


「コレ持ってたら、勇者って認めてくれるんだよな?」


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