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人質の相手にはご注意を

アリアを追いかけた先に待っていたのは。


「祠か……こんな所にねぇ」


森の奥に埋もれる形で、ひっそりと隠れ潜むように建つ古びた祠だった。


「遅いではないか」

「そっちが先に行くからだろうが。連れて行ってくれるなら、俺の脚に合わせろ」


先に辿り着いていたエルロンが、俺を見て、溜息を漏らす。そんな若作りなババアに俺は早速。


ヴィオーネを突き付けてやる。


「で、アリアを捕まえている事に、何か言い訳がお有りで?クソババア」

「見ての通り、貴様の仲間は我らの内で拘束させてもらっている」


成る程、苦し紛れの言い訳はしない辺り、こうなる事は予定通りだと。エルロンが連れて来ていた護衛のエルフ二人に、頑丈そうな蔦で拘束されたアリアの姿を見て、俺は改めてそう思った。


「ごめんねぇ、リュー君。だって従わないとリュー君達を襲っちゃうって言うから」


アリアはそう言っているが、頬がちょっと赤く染まっている。多分、囚われのお姫様を王子様が救うような今の状況に、ちょっと心躍っているのだろう。アイツ、そう言うの好きだし。だとしたら、ワザとエルロンに捕まったのかも知れないな。


故意にしろワザとにしろ、俺の仲間が拘束されているのは間違いない。


「俺の刺突が喉を突き破るのと、アンタの護衛がアリアの頭を撃ち抜くの、どっちが早いのか比べたいなら付き合ってやるけど、それがお好みで?」

「貴様に取って、私の首1つと小娘の首1つでは釣り合わんという事か。であれば」


エルロンが指を鳴らす。すると、さっき俺が通って来た森の跡から、四人の影が現れた。


「追加で四人の首なら、釣り合うか?」


誰かなんてのは、言われなくとも分かる。シヴァル、ミレーヌ、それとラキとアルシャ、俺とアリア以外の面々全員だ。


だがしかし、その全員がアリアと同じように蔦で拘束され、その後ろには同じく弓を携えたエルフ達。恐らくは、俺達が俺達が屋敷を出たと同時に、バレないように隠れ潜んでいたのだろう。


「ちょっと貴方ぁぁ!助けなさいよぉぉぉぉぉ!こんな時にしか役に立たないんだからぁぁぁ!!」

「命だけはぁぁぁ!命だけはご勘弁をですぅぅぅぅぅぅ!!びぇぇぇぇぇぇん!!」


ラキとアルシャは相変わらず息がピッタシで喧しい奴らだ。コイツらだけ見捨ててやろうか。


と言うか………。


「あちゃぁ……ラキとアルシャは兎も角、ミレーヌとシヴァルは、何で捕まってるんだよ」

「すみません……まさか敵が此処まで上手だったとは……」

「畜生!俺が居たってのに、こいつぁトンデモナイ失態だぜ!!」


2人とも悔しそうに顔を歪ませているが、そのポケットから金品や食料がはみ出ているのを、俺は見逃さないぞ。


恐らく、大人しく捕まる代わりに要求でもしたんだろ。アイツら買収されやがって……。


「全く、どいつもこいつも揃って捕まりやがって、情けないよ俺は」


気づけば、俺以外の全員が捕まっているという事態に。こうなってしまえば、最初の優勢は何処やら。いつの間にか逆に俺達の方が不利になってしまった。


「それで、俺もアイツらと同じように拘束するっていうのか?だったら、全力で抵抗するけど」

「いや、貴様には試練に挑んでもらう」


ヴィオーネを一度引き、エルロンに問いかけると、意外にも俺が勇者である可能性を考えてくれているらしい。何ともお優しい事で、感激だ。


その試練の内容にもよるが。


「で、その試練っていうのは?」

「やる事は簡単だ。この祠の中に入って、奥にある宝玉を持って帰って来る。それだけで良い」

「おぉ、それは凄く簡単だな」


な訳あるか。俺みたいな多少危険を経験した奴なら直ぐに分かる、心臓の鼓動を早まらせる嫌な空気が、あの祠の奥底からプンプンと匂っている。


そんな空気を匂わせる為に、一体どれくらいの犠牲を産み出して来たのやら、考えるだけでも恐ろしい。


「この祠は、初代勇者様より預かった宝玉を保存する為に、先代が建てられた場所だ。そして、私達に取っては別の意味がある」

「当ててやる。処刑場だろ」

「ふむ、分かっておるではないか。村の掟を破った者には、等しくこの祠を潜らせている。最も、今まで出て来た者は居らぬがな」


守るための祠を処刑するための道具にする魂胆もそうだが、絶対に死ぬと分かっている場所に潜り込ませる事を試練だと宣う辺り、底意地が心底腐っているようだ。


「勇者だというのであれば、同じく勇者様に預けられた宝玉を手に入れるのは容易いであろう?もし、出来たのであれば、人質は解放してやるとしよう」


エルロンは口元を広い袖で隠しているが、俺に向けての嘲笑は隠せていない。この若作りババアめ……最初から俺を殺すつもりだったな。その為に俺が逃げ出さないよう人質を立てたと。


俺も舐め腐られたもんだ。この程度の危険で怖気づくと思ったのか。


「あぁ容易いな。お使いぐらいなら俺じゃなくても、ガキでも出来る」

「そうかそうか。随分と自信がある小僧だ」


安い挑発に乗せられた形であるが、俺は余裕綽々に答えてやると、エルロンは更に深くなった嘲笑で返す。トコトン人間を馬鹿にしているエルフだ。女好きを自称する俺であっても、思わずぶん殴りたくなる。


だがまぁ、それは祠から宝玉を持って来てからにするとしよう。そこからどうなるのかは、後でどうとでもなるだろ。


エルロンの脇を通り抜け、俺は真っ直ぐに祠にポッカリと空いた入り口の奥を目指す。


凄いな、一歩足を踏み入れただけでも、もう匂いが特段に濃くなる。それでも、このすっかり嗅ぎ慣れた匂いを楽しみながら、俺は軽やかに明かりの無い闇の中へ紛れ込んだ。


あっ、そうだ。その前に一つ言い残すことがある。


まぁ、大したことじゃないんだが、一応な。


「そいつらの事、好きにしていいぞ」

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

「さて、行ったな」


リュクシスが祠の奥へ消えてから数分後、完全に姿が見えないのを確認してから、エルロンはそう呟いた。


「全く、薄情な小僧だ」


祠に入る前に言い残したリュクシスの言葉をエルロンは思い返す。何が『そいつらの事、好きにしていいぞ』だろうか。


そんな事を言われずとも、エルロンはそうするつもりであるというのに。


「者ども、弓を構えよ」


エルロンが祠から目を離して振り返ると、他のエルフ達に命令する。そして、その命令通りにエルフ達が一斉にアリア達に狙いを定めて、弓を引き絞る。


「ちょ、ちょっと!何で私達を殺すつもりなのよ!!」

「なに、どうせあの小僧は戻って来ぬ。ならば、後にも先にもやっても変わらぬだろうて」


矢が自分に向けられると分かって、露骨に慌てふためくラキに、エルロンは淡々とした調子で言う。それを受けて、ラキは本当に殺すつもりだと、ようやく実感した。


「ま、待ちなさいよ!!本当にアイツ勇者なんだから!!良いの?勇者の仲間を殺しちゃって!!」

「オメェ、魔王軍四天王とか言ってなかったか?」

「黙りなさい!!」


死への恐怖から魔王軍としてのプライドを投げ捨てるラキ。だが、エルロンはその戯言に全く耳を貸す様子が無く、アルシャに話しかける。


「特にアルシャ、貴様に関しては、特に罪深い。このような無法者を招きおって、やはり忌み子である貴様は、殺しておくべきであったか」

「そ、そんなぁ……ちゃんと勇者様を連れて来たのにぃ……」

「あんな奴の何処が勇者だと言うのか!!」


その瞬間、まるで火薬庫に火種を投げ入れてかのように、一気にエルロンの語尾が強まった。


「良いか、勇者というのは誰よりも清廉かつ無欲であり、博愛に満ち溢れた者だ。かつて先代が出会ったという勇者も、そのような人間であったと語り継がれておる」


理想を語るエルロンの目には、見た事すらない在りし日の勇者の姿が映し出されるが、それはリュクシスの憎々し気に笑う姿で上書きされる。

「それをあんな人間如きと間違えるとは、これは勇者様に救われた我ら一族の冒涜、いや勇者様への冒涜に他ならない!!その報いは受けるべきであろうが!!」


言い伝えられた理想と頭の中で膨らむ勇者の姿が、エルロンの怒りを増幅していく。人より遥かに長い寿命と歴史を持つエルフが故に、受け継がれてきた逸話や誇りは凝り固まり、いつしか一族全体を縛り付ける掟となる。


だからこそ、許すわけには行かない。許せば最期、先人たちから受け継がれた逸話や誇りが崩れ去ってしまう。


「くだらないよ、本当に」


だが、それをアリアはまとめて一蹴した。


「なん、だと小娘」


怒りに塗れようとも、侮辱は逃すことは無い。エルロンを含め、全ての弓の矛先がアリア一遍に集中する。


しかし、アリアは変わらない。見えない無数の敵意を向けられようとも、悠々と喋り出していた。


「くだらないって言ったんだよ。そんな反吐が出るような理想像」


アリアが不機嫌になっている理由を、リュクシスが理解する事は無かった。それもその筈、何故自分が不機嫌だったのか、たった今気が付いたのだから。


「リュー君は意地汚くて強欲で、自己中心の体現者みたいな人だけど、それでも貴方達に罵られるような人間じゃないよ」


似ている。自分がこの世で最も嫌いな人間に似ているのだ。馬鹿みたいな世間一般の常識に縛られ、それに外れた者を蹴落とす畜生共に。愛する人を最低だと蔑むクソ共に。


「あんまりボクの大好きな人を悪く言わないでくれる?じゃないと」

「ヒッ!?」


瞬時、アリアを縛る蔦に、燃え盛る炎が乗り移る。一体何処から燃えたのか分からない炎に、思わず近くに居たエルフが後ろずさり、周りのエルフ達も似たような反応を示す。


その隙だけでも、燃え切るまでには十分な時間であった。すっかり自由になった手足で、蔦に残っていた炎を弄ぶと。


にこやかな笑顔で、その炎を握り潰した。


「ボク、何するのか分からないよ?」


握り潰した炎の残滓が、他の蔦にも燃え移る。


「フベッ!?」

「ガハッ!?」


すると、二人のエルフが間抜けにも空中に吹き飛んだ。


「あぁーあ、こうなったらもう止まりませんよ」

「だな、俺はもう知らねぇぞ」


解き放たれた二匹の獣(ミレーヌとシヴァル)が、調子を確かめるように、エルフを吹き飛ばした拳を降ろす。そして今度は拳では無く武器を構え、アリアも仕込み杖を構える。その矛先はいずれもエルロンに向けられている。


「「今度は手加減しないよ(しねぇぜ)(しませんよ)」」」

「き、貴様らぁぁぁぁぁぁぁ!!」


エルロンの怒声が天を貫く。そして次に待つのは、最初の時とは比べ物にならないほどの矢の雨に加え、風魔法による無数の真空波による、空中や地上問わずあらゆる方向からの襲撃。正にエルフの集落の総力を挙げた攻撃。


「なぁアリア、ミレーヌ。好きに暴れても良いんだよなぁ?」

「良いに決まっているでしょ。ですよね、アリア?」

「うん、そうだねミレーヌちゃん。だって言ってたでしょ?」


それを眼前にしても、なんら態度が変わる事のない三人は、リュクシスの言葉を思い出す。


そう、リュクシスはかく語りき。


「『そいつらの事、好きにしていいぞ』だったよね!!」

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

ケツは持たないが、好き勝手に暴れろと。

「に、逃げるわよ!アルシャ!!」

「え、え?で、で、も!もう囲まれて!!」

「こちとら一回アイツらにぶちのめされてるから分かるのよ!!」








「アイツら、頭がおかしいくらい強いって!!」


直後、頭がおかしいぐらいの爆発音がガラゴスの森全体を震わせた。


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