エルフ流のご歓迎を6名様に
その矢が飛んできたのは何処からか、そして何時放たれたのか、俺にはサッパリわからなかった。
だがこれだけはハッキリと分かる。この矢は明らかな敵意を持って放たれた矢であると。
「へぇ、コレがエルフ流の歓迎って訳か」
「ち、違いますぅ!って、矢が飛んできましたぁ!?」
俺がそう言うと、一拍遅れ、腰が抜けたようにへたり込むアルシャ。一瞬、このポンコツエルフの罠かとは思ったが、その様子から見る限りでは、当人に取っても予想外だったらしい。
『―――去れ、人間よ』
何処からともなく、男にも女にも聞こえる重なった声が耳に届く。しかし、周りを見返しても人の姿どころか影すらも見当たらない。
「な、何よ此処!?もしかして呪われてるの!?呪いの森なの!?」
「それだと楽なんですけどね」
ビビッて震え始めるラキに、ミレーヌは背中から槍を抜き出しながら溜息を吐き出す。
呪いの類なら、どんな怪奇現象だろうと一発で除霊するミレーヌが、そう言うのであれば、間違いなくコレは人の仕業だ。
「シヴァル。お前なら分かるんじゃないのか?」
「腹ぁ立つが、コイツは俺でも無理だ。音の方向もデタラメ、姿も全く見えねぇ、オマケに匂いまでも完全に同化してやがる」
だと言うのに、シヴァルですらもお手上げだと苛立ちに歯ぎしりを鳴らす。その気になれば、茂みに隠れた蟻でさえも見つける、コイツでさえもダメだとなったら、それこそ超一流の暗殺者ぐらいだろう。
とまぁ、そんな超一流の暗殺者が、一体この場に何人潜んでいるのやら、考えるだけでも背筋が凍り付きそうだ。
「さぁて、先ずは誤解を解く所から始めようか。俺達はそこのポンコツエルフから招待されたんだ。茶と美女じゃなくて矢と敵意で歓迎なんて、失礼にも程があるんじゃないか?」
俺がそう言っても、木の影や茂みからは何も返事は無い。もしかして、此処に誰も居なくて一人語りしていただけか?と、ちょっと不安になるが、ちゃんと矢と忠告で回答してきた辺り、しっかり此処には居るようだ。
『三度目は無い。そのエルフ諸共、此処を去れ』
どうやら、このポンコツエルフは、同胞からよっぽど嫌われているらしい。それなのに良く俺達を連れて来る度胸があったな。
「おや、貴方随分と同胞から嫌われているようですね」
「酷いですぅ!?折角連れて来たのにぃぃ!!」
遂にはアルシャが泣き出してしまい、もう完全に使い物にならなくなった。まぁ、嫌われている時点で人質にすらなれない役立たずにはなっていたけど。
さてさて、このまま有難い忠告通りに回れ右をしても良いが、それだと折角こんな僻地にまで来た意味が無くなってしまう。何より、俺のエルフハーレムの夢が叶わなくなる。
「ねぇ、ボクに良い考えがあるんだけど、良いかな?」
俺がどうにかならないかと模索している最中、アリアが突飛にも何かを提案し始めた。
「何だ?どうせロクでもない事だろうが、一応聞いてやる」
「うん、それはね」
試しに聞いてみてやると、アリアは近くにある木の一つに近寄って。
「隠れる場所が無くせばいいんだよ」
木を燃やし始めた。
『何をやっておるか貴様ぁぁぁぁぁぁぁぁ!!』
おぉ、燃やし始めた途端に聞こえてくる声が慌てた様子で怒鳴り始めた。そりゃ急に家を燃やされたら誰だって怒るに決まっているよな。
と言うか、こんな森だらけの場所で火事でも起こせば、この集落どころか、ガラゴスの森が一部が焼け野原になるだろう。
でも、中々良い考えだ。
「良いぞアリア!もっと燃やしてやれ!!この集落が消し炭になるぐらい派手に燃やしてやれぇ!!」
『き、貴様!正気か!!今すぐ止めろぉ!!』
「止めないね!どうせエルフに会えないんだったら纏めて燃やしてやらぁ!!」
『こんの不届き者がぁぁぁぁ!!』
怒り狂った叫びと共に何処から現れたのか、上空を鏃一色に覆い尽くすほどの矢の雨が、俺達に目掛けて殺到する。
「キャァァァァ!!矢が凄い飛んできたぁぁ!?」
「お仕舞いですぅぅぅぅぅ!!」
「当たり前ですが、反撃はしますよね」
両隣でラキとアルシャが絶叫する中、ミレーヌは冷静に槍の底を地面に突いた。
「呪術技法贄柱壁」
黒い靄から生み出される、俺達を守るように曲がった人間柄の高い壁が迫りくる矢を全て弾き返す。
『なぬっ!?』
「そんじゃぁ、俺からもう一発喰らっとけ!威蹴地面ぇ!!」
突如出現した壁に面を喰らったかのように驚きの声を上げた所に間髪入れず、内側からシヴァルの地面を丸ごと抉り返す蹴りが振り上げられる。
そうなると、目の前にある壁はシヴァルの馬鹿力で瞬く間の内に破片の塵へと打ち崩され、土くれと同じく四方へと満遍なく弾け飛んだ。
「キャァ!?」
「グッ!!」
姿を隠していたと言えど、無差別に放たれた破片には避けられなかったようだ。至る所の茂みの中や木の影から、悲鳴と一緒に次々とエルフが落ちて来た。
「充分だ、二人とも。ちょっとやり過ぎなくらいだがな」
「ヴッ!」
そして、透かさず俺は、その内の一人―――なるべく美人で胸が大きいエルフの首を絞めて、首筋にフランザッパを突き付ける。
「そこのポンコツエルフとは違って、こっちのエルフは大切なんじゃないのか?ん?」
『き、貴様ぁ……!!』
おうおう、悔しそうな声が聞こえて来るわ。そりゃそうだ、その為にわざとアリアの案に乗ってやったんだ。
こんな所で森を燃やしたら、火に囲まれるのなんて分かり切っている。だけど、見えない相手を動揺させるぐらいには、方法として役に立つ。
それで焦って攻撃でもしてきたら、逆にこっちが反撃して、人質を取ってやれば充分な交渉材料になる。なんせ、村社会は余所者には厳しいが身内には駄々甘いのが定石だ。
とまぁ、あんまり締め付けて暴発させないように、条件を緩めるのも必須だ。
「別にエルフの集落に喧嘩を売りに来たんじゃないんでな。ただ顔を合わせて話をさせてもらえれば、解放してやるよ」
『グゥ……なんと卑怯な!』
「何よ!コソコソ隠れて弓を売ってくる方が卑怯じゃない!!悔しかったら姿を現して、『仲間を解放してください!お願いしますぅ!!』って頭下げてみなさいよぉ!!」
こっちが有利だと分かった瞬間に強気に胸を張るラキ。ある意味では、俺達の中で一番悪党役が似合うかもしれない。最も、悪党の中でも子悪党の部類だが。
「さぁ、どうしますか?人質はまだゴロゴロと転がっていますよ。まだ私達に抵抗の意志があるというのであれば、一分ごとに一人尻の穴から串刺しにします。果たして降参するまでに何人が口から槍を出すんでしょうね:
ミレーヌに至っては、間違いなく悪党の中でも大親分だ。
「ひゃひゃひゃ!姉貴を怒らせるとヤベェぞ!この前なんかシヴァルの野郎、身ぐるみ全部剥がされてたからな!!」
「その通りだぜ大将!借金のカタに服どころかパンツまで盗られたぜ!!」
「そこの二人、黙ってなさい」
だが悪党じみた事をするのなら、いっそワザとらしいくらいに演じた方が良い。と言う訳で如何にも三下な笑い声を演出しながら、フランザッパを舐め回す。あっ……舌切れた。
『……分かった。条件を呑むとしよう』
希少種族なだけに仲間意識は強いらしい。もう少し粘るかと思ったが、声の主は意外にも素直に応じる。
「それはどうも。じゃあ、そっちの偉い人の家までお邪魔させてもらおうか。ほら、付いて来い」
「……分かった」
だからと言って、こちらも素直に人質を解放するほど馬鹿じゃない。首を絞めているエルフを引き摺りながら、長老の家らしき大屋敷に向かって奥に歩き出す。おぉ、歩く度に腕に柔らかい感触が……って、ダメだ!アリアにしばかれる!!
アレ、そう言えばアリアはどうしたんだっけ。木に火を付けてからずっと放っていたけど……。
「燃えろ燃えろ~焼け野原になるまでもっと燃えちゃえ~」
振り返れば、そこには真っ赤に燃え上がる巨大に成長した火柱の前で、楽しそうに踊るアリアの姿があった。
……あちゃぁ、放って置きすぎたか。これもう俺達じゃあ消化できないな。
「それじゃあエルフの皆さん。後始末はよろしく!!」
『ま、待て!この炎をどうするつもりだ!!って、もう行きおった!?み、皆の者!他の木に燃え移る前に消火ぉぉぉ!!』