エルフに誘われたら、それはもう行くしかないでしょ?
「いやぁ、爆発するとは思いませんでしたぁ。すみませんぅ」
えへへと笑う謎のドジっ子エルフーーーアルシャがそう言うが、逆に爆発を予測していたら凄いと思う。
「ま、まぁ、ウチのメスガキが助かったから気にしてねぇよ」
頭を軽く下げて礼を言う。実際に、アルシャが作り直した薬のお陰で、メスガキの腹痛とか謎の症状が治まっていた。
「ね、ねぇ?大丈夫なの!?背中が凄いモゾモゾしているんだけど!?アイタタタタ!!シヴァル痛いって!!」
「暴れんじゃねぇ、引っこ抜けねぇだろうが。よぉし掴んだぜ!ミレーヌ手伝え!!」
「しょうがないですね。と言うか、どんな副作用何でしょうか、コレは」
ラキの背中から触手のような悍ましい何かが生え欠けている以外は。ともあれ、汚い生命の誕生を見ずに済んだのだから、感謝しないと。
「その尖った耳……アルシャちゃんってエルフなんだよね!凄いよ!!ボク、エルフを見たの初めてだよ!!」
「そ、そのぉ、み、耳はダメですぅ!ひゃぅぅぅ!!」
尖り耳に気づいたアリアが鼻息荒く興奮気味にアルシャへ問い詰める。初対面だというのに遠慮なく耳を触りまくっている辺り、かなり我を忘れている様子だ。
「おいおい、アルシャがアヘり欠けているから、その辺にしておけ」
「えぇ~、触り心地良かったのに」
話の邪魔なので、アルシャから引き剥がしてやると、アリアは未だ名残惜しそうに指をワナワナさせながらも、渋々と言ったように大人しくなった。
「あ、あへぇぇですぅぅ……」
ちょっと、ダブルピースを作って女の子がしちゃいけない顔になりかかっているが。どんな撫で回し方をしたら、あんな風になるんだよ。
「しかし、アンタ。エルフがこんな森の中に居るなんてな」
俺は改めてアルシャを見直してみる。
自然と同化しそうなほどきめ細やかに綺麗に靡く金色の髪、そして見る人によっては間抜けにも癒し系にもなる、優しげで甘めの垂れ目の可愛い童顔。身体の方は下手したら子供に見られ兼ねない程の伸長に対して、質素な布製の緑色のワンピースとスカートの服からでも突き上げる、アリアとタメを張るほどの巨大な果実。
雰囲気としては、アリアが周囲を明るくする可愛い元気系だとするのならば、このアルシャは周囲に無造作に癒しを振り撒く癒し系だろうか。現に、胸を重厚な擬音が出そうなほど揺らそうとも、全くエロスを感じさせない。
敢えて言わせてもらうと、もし俺がアリアと出会う前だったら、間違いなくアタックを仕掛けていたに違いない。
「リュー君、分かっているよね?」
今は、アリアが居るので絶対に出来ないけど。後で何をされるか分かったもんじゃない。…最悪、五臓六腑を内側から焼かれるリスクを考えたら、手を出すべきじゃないよな。
「そ、それでだ!!どうしてアンタみたいなエルフがこんな未開地帯の森に居るんだ?」
アリアの目が黒一緒に染まり欠けていたいので、慌てて話題をアルシャに振る。このまま濁らせていたら、後が怖いので、何としても気を反らさなければ。
そしたら、アルシャは何か不味い事を思い出したかのように目を泳がせて、ポンプを押したかのようにダラダラと冷や汗を流し始めた。
「え、えぇーとぉぉ、何と言いますかぁぁ……薬草を探したら、偶然にも叫び声が聞こえたので、ひょっこりとぉ……べ、別に此処辺りに住んでいる訳じゃありませんよ!近くに集落とか有りませんから!本当ですから!!」
「成る程、ここら辺にエルフの集落があって、偶々薬草採取に出かけている時に叫び声を聞いて駆け付けたと」
「何故分かるんですかぁ!?」
アホなのか、このドジっ子エルフは。
このドジっ子+アホなエルフは置いておくとして、こんな所にエルフの集落が存在するなんて思いもしなかった。いや、エルフの習性を考えたら、おかしな話ではない。何でも人目のつかない僻地や奥地に生息しているらしいのだから、順当と言えるだろう。
「エルフの集落かぁ、ボク行ってみたいなぁ」
「辞めとけ辞めとけ、俺達みたいな野蛮人が来たら、矢と魔法のフルコースだろうよ」
アリアがこっちをチラチラと目配せしてくるので、キッパリと断ってやる。エルフは他種族に対してやたら攻撃的かつ排他的だって話を聞いたことがある。そんな危険地帯に足を踏み入れたいなど、正気の沙汰じゃない。
目の前のエルフは……多分、エルフの中でも特別なんだろう。だってアホだし。
「そう言えば、皆さんはどうしてこの森に入って来たんですかぁ?人間さんは滅多に入って来ないんですけどぉ」
今度は逆にアルシャの方から、俺達に質問してきた。そうか、あっちからすれば、こんな未開の地に足を踏み入れるような馬鹿は物珍しいだろう。
「回り道するのは面倒臭いから、近道で森を突っ切る為だ」
「えぇ!?し、失礼ですけどお馬鹿さんなんですかぁ!?」
ヤバい、アホに馬鹿にされた。思わず血管が2、3本切れてしまったじゃないか。しかし、続けてアルシャが補足すると、合点が付いた。
「此処って、木とか一杯で同じ場所が多いんから、住み慣れたエルフ以外の人だと直ぐに迷っちゃうんですよぉ。私も偶に迷っちゃうくらいですからぁ」
「それは心配無用、ウチには優秀な羅針盤が居るので。と言うか、エルフとして方向感覚大丈夫か?」
「ふぁんだ?おふぇをおんふぁか?」
そう言って、俺はラキから引き抜いた触手を貪っているシヴァルを指差す。コイツさえ居れば、砂漠のど真ん中だろうと迷う心配はない。どんな理屈なのかは知らないが。
「そ、そうですねぇ。もしかして、貴方達って凄い人なんですかぁ?」
「凄いんだよ!なんたってリュー君は勇者なんだからね!!」
「お、おいアリア。途中で割り込むんじゃねぇよ!!」
凄い日と言われて、俺を自慢したかったらしいアリアが、自分の事でもないのに大きな胸を更に張って鼻を鳴らす。
すると、何故か途端にアルシャが尋常じゃないくらいに慌てふためき、5人ぐらい残像が出るまでに揺れ始めた。
「ほ、ほ、んとうに勇者様な、なんですかぁぁぁ!?」
「まぁ、一応。ほれ、コレが証拠な」
俺は目線を激しく揺れるアルシャの双胸から決して目を離さずに、レザーアーマーの隙間から勇者印のブローチを取り出して、見せつけてやった。
「そ、それはぁ!本当に勇者様なんですね!そうなんですねぇぇ!?」
「だから勇者だって言ってんだろうが」
まだ信じていないのか、仕切りにアルシャが俺に確認してくる。それに比例する形でアルシャの揺れが激しくなる。ふぅむ……よし、もっと揺れたまえ。
と、揺れが最高潮になった瞬間、何を思ったのか突然、アルシャが俺に飛び掛かって来た。
「勇者さまぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」
「おぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!!」
そのまま抱き着いたアルシャの胸がなんと、俺の腰にピッタシ張り付いた。
こ、コレはあかん!!日頃胸を押し付けてくるアリアとは違う柔らかい触感がモロに股間へ直接ぅ!!
「ぜ、是非とも!私達の集落に来てくださぁい!せ、精一杯歓迎しますからぁ!!」
「か、歓迎ですと!!それはどんな歓迎なんですか!!もしやアッチ系の歓迎方法をしてくれるんですか!!」
股間に直接来る激しく揺れ動く柔らかい感覚!!こ、コレが大人になるっていう事なんでしょうか!!晴れて大人になったと言って良いんでしょうか先生ぃ!!
「お願いしますからぁ!来てくださいぃぃ!!」
「行きます!!いや、行かせてくださいお願いします!!」
歓迎してくれるとなれば、もう行くしかあるまい!!寧ろこっちから金を払っても良いくらいの気概で俺は即答する。
さて、エルフの集落はどんな所なんだろうか。そしてどんな歓迎をしてくれるのだろうか!出来れば可愛い、美しい系入り乱れた酒池肉林を希望するが、果たしてどうなのか!!
「リュー君」
「あっ、はい」
その前に。
「五臓六腑を焼かれる覚悟はあるよね?」
俺の身体はどうなってしまうのか!!
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はい、反省しました。そうですよね、勇者たる者、肉欲に溺れるのではなく、人の為に行動するべきですよね。
「だから許してくださいアリア様。本当に反省しましたから」
「ダメだよ!暫くはこのままだからね!!」
そう言って、アリアは俺の首に付いた首輪の鎖をジャラリと見せつける。見ようによっては、シヴァルに巻き付いた鎖よりも頑丈そうだった。
「あ、アレは大丈夫なんですかぁ?」
「良いんですよ。あの男には丁度良いくらいですから。そのまま去勢でもしくれたら良いのに」
心配をしてくれるアルシャとは対照的に、ミレーヌは冷ややかに突き放す。おい、そんな家畜を見るような眼をするんじゃねぇ、はっ倒すぞ。
「アルシャだったか、此処を真っすぐ行けぁ良いんだよな?」
「はい!そこの林の間を抜ければ、もう直ぐですぅ」
馬の綱を引きながら先導するシヴァルが、アルシャに道の確認しながら先に進む。普段は大飯喰らいの蛮族の癖に、こんな時だけは頼りになるから、腹が立つ。
「ねぇ、アリア。貴方さっきからヤケに嬉しそうだけど、そんなにエルフが楽しみなのかしら?」
馬に跨って楽をしているラキがふと聞くと、アリアが爛々と輝いた明るい瞳で、喋り始めた。
「それはもう楽しみだよ!なんたって魔法使いに取って理想的な種族だからね!!」
そう言えば、何時だったかアリアが、エルフの凄さについて一晩中語られた時があったか。それくらい思い入れがあるのだろう。
俺も昔、エルフが美女揃いだと知って調べた事はあるが、その時に調べた限りだと、人間とは違い、寿命が数百年単位だという話だ。その為に有り余る時間を魔法、特に風魔法の研鑽に費やし、独自の魔法知識を持っているとか。
そんなエルフを研究したいという魔法使いが何人いる事やら。そもそもの絶対数が少ない事に加え、排他的な性格と秘境に住む性質上、生涯で見る事すら出来ない方が多いという、正に伝説のような存在らしい。
こう見えても、根っからの魔法使いであるアリアには、正に夢にまで見た瞬間になるだろう。
「あ、あそこが集落ですぅ」
道案内のままに進み、一歩間違えば永遠に迷いそうなほど入り組んだ林の間を抜けていくと、そこにあったのは。
「ようこそ!私達エルフの集落へですぅ!!」
アルシャの言う通り、そこは正しく秘境に生きるエルフの集落が存在していた。
「コレがエルフの集落か……」
その光景を見て、俺は思わず感嘆の声を漏らしてしまう。
そこには太い幹に張り付くようにして建てられた木造の家々が、まるで森を繋ぎ合わせるかのように吊り橋や足場で俺達の上空を彩り、鬱蒼とした新緑から僅かに零れ落ちる光を浴びて、誰も立ち入る事を許さない一種の神秘性を演出していた、
それはこの未開の地の自然を汚すことなく、共生してきた証だというのだろうか。大空を見た時にも劣らない幻想的な光景に、言葉を少しだけ失ってしまった。
「い、家が木に張り付いてるわよ!?どうなってるのかしら!!」
「凄いよぉ!!此処に何人エルフ居るのかな!居るのかな!!」
だが、ラキとアリアが興奮気味に肩を激しく揺すられたお陰で、惚けていた意識がやっと目を覚ます。おいこれ以上は揺するんじゃない。酔っちゃうだろうが。
「他のエルフも此処に住んでいるようですが見当たりませんね。どちらに居るのでしょうか?」
「多分、皆さん集会に行ってるんですかね?」
ミレーヌの疑問に、アルシャは一軒の家を指し示す形で答えた。立ち並ぶ木々の中でも一際巨大であり、それに合わせて外観や大きさも他と段違いな屋敷で、見ただけで最も偉い奴が住んでいる事が丸わかりだった。
「エルフみてぇな引きこもりでもデケェ家に住みてぇもんなんか?」
「逆だ。寧ろ村社会だからこそ分かりやすい権威が要るんだろ。先ずはその長老さんに挨拶するか」
俺はシヴァルにそうザックリと応えてやる。兎も角、折角此処まで来たんだ、エルフハーレムは出来ないにしろ、ただ飯ぐらい貰わないと割に合わない。
「でしたら、私が案内いたしますねぇ。こっちですぅ」
アルシャが俺達より一歩前に出て行き、その長老の家の所に向かって足を踏み入れる。見知った土地を散歩するかのような慣れた足取りだ。
そして、それに返って来たのは、地面を穿つ数本の矢であった。