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エピローグ:生意気でメスガキな魔族と、可愛くて小さいドラゴン

ウルザードが空に旅立って、翌日の事だ。俺達は既にヘイデン村からは出立していた。


「馬は!!」

「今乗ってる一匹だけだよ!」

「水は!!」

「人数分にして計2週間の備蓄は有るかと」

「食料は!!」

「フゴゴォ!(バッチシだぜ!!)」

「よし!問題なし!!」


若干一名、早速食料である馬肉に手を付けている馬鹿は居るが、旅の準備としては万全だろう。道中の草原で、馬が抱える山盛り荷物を確認し、心の中で充分だと頷く。


「でも、良くこんなに貯め込んでいたよね?あんなに小さい村なのに」


アリアが馬の上から振り返り、すっかり豆粒大にまで遠くなったヘイデン村の光景に目を凝らす。


「災害に備えた共用備蓄から捻出したのでしょう。あの村には倉庫が何棟か建っているのかは、確認していましたからね」


そこで馬の尻を歩くミレーヌが、見るからに邪悪さが伝わる様相を浮かべながら、クククッ……と如何にもな笑いを上げた。


今持っている荷物は、ミレーヌが俺達の代わりにアバスとの交渉した賜物だ。恐らく、事前に備蓄について下調べし、そこから逆算して極限まで搾り取ったに違いない。


その証拠に、ミレーヌと二人きりで交渉した後のアバスの顔は、全身から血の一滴まで吸い取られたように真っ青な顔になっていた。上手く言い包められて、約束した後に自分の失態に気づいたのだろう。


こういう事に関してだけは、ミレーヌの手腕は国の貴族連中にも引けを取らない手腕を発揮する。だからこそ、俺達は助かる訳だが……。


「お前も鬼畜だな、こんだけ搾り取ったら、あの村スッカラカンじゃないのか?」

「さぁ、そこまでは私には預かり知りませんから。今年の冬ぐらいには野垂れ死ぬのでは?」


俺が聞いてみると、不穏な予測を立てながら、我関せずと明後日の方向にミレーヌは向き直る。本当に何処まで絞り上げたというのやら。次会った時には、アバスの塵毛が全て抜け落ちていないか心配になるぐらいだ。


「そりゃねぇんじゃねぇのか?なんせ、人間なんざ草と土さえありゃ一年は生きられっぞ」

「それで生きていられるのは、お前ぐらいだからな」


馬肉の塊を骨ごと平らげ切ったシヴァルが珍しく反対意見を出すが、それが当てになる事はない、コイツを基準に考えると、人類皆化物になってしまう。


そんなシヴァルは無視しておくとして、ミレーヌの言う通り、ヘイデン村の今後は俺達の知った事ではない。俺達が原因だったとしても、一度は村の命を救ってやったのだ。後はどうしようが勝手だろという話だ。


ウルザードが居なくなり、生贄という体裁も整えられない今、どういった道を進むのやら。そこまで責任を持つ必要は、勇者と言えども流石に無い。後はヘイデン村に住む人間が決める事だろう。


それに、そんなどうでも良いヘイデン村の行く末より、気になる存在が草原の影でチラホラと見えていた。


「リュー君、アレって……」


今まで誰も触れていなかったが、そこは空気が読めないことに定評があるアリア、全く躊躇いなく指を差して、それに触れてしまう。


そして、草葉の陰から聞こえてくるのは、昨日の内で既に聞きなれてしまった少女の声、それと可愛らしく喉を鳴らす生物の鳴き声。


「良い、ウルちゃん?アイツラに見つからないように、そーっと後ろを付いて行くのよ。分かった?」

「ピィ!」

「偉いわぁウルちゃん!それでこそドラゴンよ!もう可愛いから撫でちゃうわ!よぉしよしよしよしよしよし!!」

「ピ、ピィ!?」


本人達に取っては、聞こえないぐらいの囁き声程度なんだろうが、ガッツリこちらにまで聞こえている。


それでも俺は敢えて聞こえないふりをしながら、ワザとらしく首を傾げた。


「それは多分アレだ。きっとこの草原に潜む妖精さんだ。きっとシヴァルがそこら辺で野●ソでもしたから、シヴァルの命を狙ってきているんだ」

「へぇー、そうなんだ。シヴァルならそれぐらいはしそうだよね」

「ん?大将、俺の話でもしたか?」

「いんや、別に」


俺が適当にそうはぐらかすと、アリアは簡単に納得してくれた。その代わりにシヴァルが●ソ塗れになってしまうが、普段とそう大して変わらないから問題ないだろう。


此処でアイツに話しかけようものなら、ロクでもない事になるのは目に見えているのだ。この場は大人しく無視して、俺達を見失うまで放って置くのが吉だ。


と、その時である。


「ギャフン!?」


流石に無視できない程の典型的なすっ転んだ声が、後ろから聞こえた。


思わず、後ろを振り向いてしまうと、そこには転んで地面に激しいキスをするラキが居た。


起き上がったラキと、俺の目線がぶつかり合う。


「……見たわね」

「……ミエテナイヨ」

「嘘つきなさい!絶対に見えてるでしょうがぁぁ!!」


恥ずかしさの余りか、ラキが俺の腹を目掛けて無謀な突撃をしてくる。しかし、こんなメスガキの体当たり一つで揺らぐ程、柔な身体はしていない。逆に頭を鷲掴みにして、押さえつけてやった。


「こんのぉ!離しなさいよぉぉ!!このぉぉぉぉ!!」

「はいはい、そんでどうして俺達に付いて来てるんだ?もしかして、まだ倒そうとしてんのか」

「当たり前じゃない!本当に、ほんっっとうに癪だけど助けてもらったとは言え!貴方は勇者で、私は魔王軍幹部!!そのお命頂戴するわ!!」

「シヴァル、まだ腹減ってるか?丁度活きの良い肉が手に入ったぞ」

「ホントか大将!?早く食わせてくれよ!!」

「嫌ぁァァァァァ!!」


この期に及んで、まだアホな事を言っているラキをどう占めてやろうかと考えていると、俺の指がカプリと噛まれた。


「痛ってぇ!?ってホゲェ!」


不意の痛みにに抑えていた腕が跳ね上がり、そのまま勢いのあるラキの肩が、偶然とはいえ俺の鳩尾を正確に突いた。


「やったわ!あの勇者に一撃加えられたわよ!!良いわよウルちゃん!!」

「ピィィ!!」


俺の指をガシガシ噛みついている生き物に、ラキは親指を立てる。何が噛みついているのやらと、注目すれば、それは緋色の目をしたドラゴンだった。


だがドラゴンと言っても、ウルザードのように、巨大な訳ではない。寧ろ俺の掌にでも収まりそうなほど小さく、身体を守る鱗はまだ生肌のようにやわらかそうである。その姿を見るだけでも、まだ産まれて間もない幼いドラゴンだと一目で分かるぐらいだ。


そんな小さいドラゴンが、未だに生え揃っていない牙で俺の五指をガブガブと噛みついていた。


「あっ、昨日ぶりのドラゴンちゃんだね?やっぱり可愛いねぇ」

「アリアも分かるかしら!もう生まれた瞬間から可愛すぎるのよ!!もう可愛すぎてもう食べちゃいたいくらいなのよ!!もうドラゴン越えて天使なのよ!!」

「へぇー、因みに名前は何て言うの?」

「『ウル』という名前にしたわ!いつかウルザードみたいに立派なドラゴンになる事を願って付けたのよ!!」

「そうなんだ、ウルちゃん……良い名前だとボクは思うよ!!」

「でしょ!我ながら良い名前だと思ったのよ!」

「「ワハハハハ!!」」

「可愛い女子会おっ始めてんじゃねぇぇぇ!指がぁぁ指がもげるぅぅぅ!!」


アリアとラキが女の子らしい会話している間にも、俺の指はウルちゃんとか言うドラゴンにガブガブされている。大丈夫だよね?もう痛みを超えて何も感じなくなっているけど大丈夫だよね!?


「そろそろ離してあげたらどうですか、この男の指を食べたら汚い菌が移りますよ」

「そ、そうだわ!ウルちゃん嚙み切ったらダメよ!直ぐに離してペッてしなさい!!ペッて!!」


ミレーヌの言葉を聞いて、急にラキが慌ててウルから俺の指を引き剥がす。まるで俺が病原菌そのものみたいな言い方なのは後で追及するとして、どうにか俺の指は繋がったままであった。


「危うく捥げる所だったぞ!何してくれてんだこのチビドラゴンがよぉ!!」

「ピィィ!!」

「無駄よ!貴方如きではウルちゃんを捕まえる事すら出来ないわ!!」

舐めるなよ!と言いたい所だが、ラキの言う通り、俺がウルの首根っこを掴もうにも、鳥ぐらいの小さな翼をはためかして、空中をすばしっこく動いて捉えられない。


そうして数分もの間、どうにか捕まえてやろうと悪戦苦闘したが、指先ですらも掠りはしないので、大人しく諦め、本題に入る事にした。


「ぜぇ……ぜぇ……で、俺達に何の用だ?倒すなんて本気で言ったわけじゃねぇだろ」

「そ、それはぁ……」


途端に白目になっているぐらいにまで瞳を上側に反り上げるラキ。どうせコイツが言いたい事は何か分かっているが、それを待ってやると、大人しく自分から言い出した。


「わ、私って、クロックスから命を狙われた訳じゃない?アイツ結構、魔王軍でも上の立場だから、絶対に追われると思うのよね?だ、か、らぁ。魔王様に直接会って、誤解を解くまで守ってもらいたく存じ上げてもらいたく」

「よし、穴を掘るぞ。ラキの全身が埋まるぐらいの深さは掘れよ」

「待って!私を埋めるつもりなの!?生き埋めにするつもりなのかしら!?」


いやいや、冗談じゃないぞ!ドラゴンの卵よりもヤバい爆弾を引っ提げるなんて、絶対断るに決まってるんだろうが!コイツの頭はお花畑超えて大麻畑なのか!!


「連れて行きなさいよォォ!私一人じゃ絶対に死ぬわよぉぉ!!」

「そこら辺で野垂れ死んどけ」

「嫌ぁぁぁ!この人でなしぃぃ!!


雲の中でクロックスに蹴りを入れた時の威勢が何処へ行ったのやら、今や俺の足元に抱き着いて、魔族の癖に人でなしだとか言って泣いている。


「は、な、せぇぇぇ!!こんのぉぉ!!アリア!お前も見てないで手伝え!!」


何とか引き剥がそうとするが、蹴ろうが振り回そうが、しぶとくもしがみ付いて中々剥がれない。そこで俺はアリアを呼ぶが。


「うーん、別に連れていっても良いんじゃないかな?」


何と、俺に盲目的である筈のアリアが裏切って、意外にもラキの味方に付いた。


「おいおいおい。情でも移ったのか?ウチはドラゴンとメスガキは飼えませんよ?元居た場所に返してきなさい」

「えぇー、だってラキちゃんもウルちゃんも可愛いでしょ?癒し担当として置いておこうよぉ」

「癒し担当なら、俺と言う存在が居るでしょうが。思う存分お触り放題しても良いんだぞ?」

「リュー君は癒しじゃなくて、リュー君担当なんだから別問題だよ!!」


そう言って、アリアは何時の間にか手の甲に止まっていたウルを、人差し指でくすぐりながら可愛がる。


むぅ、こうも食い下がるとは珍しい。余程チビドラゴンのウルが気に入ったのか、だったらウチの正論担当であるミレーヌに頼むしかないだろう。


「もう、全く聞き訳が無い子なんだから。ほら、ミレーヌ(お母さん)からも何か言ってくれよ」

「そうだよミレーヌちゃん(お母さん)!分からず屋のリュー君に言ってあげてよ!!」

「誰がお母さんですか。ったく」

「グエェ!?」


未だに俺の脚にしがみ付くラキを、ミレーヌが首を丸ごと掴んで、強引に引き剥がす。そして窒息寸前のラキを掲げると、酸素不足で真っ赤に染まっている顔を指差した。


「ラキをどうするのかについてですが、メリットとデメリットを整理しましょう。デメリットは、人員に追加による物資の消費量増加。魔王軍及び、魔族を狙う人間からの襲撃。身バレによる周囲からの危険視、その他諸々……思いつくだけでもザっと32個ほどでしょうか?」

「じゃあ、メリットはどうだ?」


俺がそう聞くと、ミレーヌは人差し指をピンッと突き立て、最後にメリットを手短に言う。


「約束を果たせると言った所でしょうか?」


それを聞き届けると、シヴァルが弾けるように手を叩きながら、豪快な笑い声を上げた。


「そいつぁ良いじゃねぇか!俺は大賛成するぜ!!」

「シヴァルまで賛成するっていうのか?何時ものようにノリで決めるなよ」

「ノリじゃねぇ!面白れぇからだ!!」

「それがノリだって言うんだよ」


面白いかどうかで決められては困るのだが、こうなったシヴァルに何を言っても意味が無い。というより、理解しようともしないから、どうしようもない。こうなったら、物理で説得する他ないだろう。


早速拳をパキパキと鳴らして説得の準備をしていると、ミレーヌが呆れ顔になりながら溜息を吐いて、俺の肩を掴んで止めた。


「止めときましょう。2対2では分が悪いですしね」

「ミレーヌ、お前もか」

「あの二人と争うくらいなら、こんな生意気な小娘を抱える方がマシだという事です」


口ではそう言っているが、ミレーヌも賛成した時点で、既にラキの味方に付いたという事には違いない。


しかし、どうしたものか。アリアとシヴァルぐらいなら相打ち程度に済ませられるが、ミレーヌまで加わると、一方的にボコられてしまう。


考え、考え、そして考え抜いて、頭を掻きむしりながら、地団太を踏んで、溜息を吐いて、そして嫌々ながら、言いたくない言葉をどうにか吐き出す。


「……あぁ!分かった降参!連れて行けば良いんだろ!ミレーヌ!そいつを離してやれ!!」

「了解しました」


ミレーヌが手を離すと、解放されたラキが地面に足を付ける。そして激しく噎せ返って深呼吸した後、俺に向かって一気に飛び込んだ。


「ヴぁ、ヴァナダァ!ヴァリガドォォォ!!」

「近寄んな」

「ブフッ!?」


喉が潰れているのか、濁音だらけの嗚咽声で縋り付こうとする様は、産まれたてのグールのようだった。なので、思わずラキの顔面に足裏を食い込ませてしまう。


「ヴぃ、酷いわね……」

「勘違いすんなよ?俺はお前の護衛じゃねぇからな。あくまで、仕方がなく同行してやるだけだ」


脚をどけると、ラキの顔面は地面の土に塗れていたが、何故か嬉しそうに顔を綻ばせて、流れる鼻血など構わず、俺に抱き着こうとしていた。


「絶対に私の事守りなさいよね!!絶対によ!!」

「だから護衛じゃねぇって言ってんだろうが!その角毟り取るぞ!!」

「そんなこと言ってぇ!んもうツンデレなんだからぁ!!」

「はい決めましたぁ!お前の角二つとも毟り取って、筍みたいに地面に埋めてやる!!」

「ちょ!角に触るんじゃないわよ!!折れるから!折れるからぁぁ!!」

「じゃれ合いはその辺にして、サッサと行きますよ」


俺がラキの角を掴んで振り回そうとするが、その前にミレーヌがラキを回収し、そのまま角を持って引き摺って行った。


「ちょ、ちょっと!痛い!痛いって!角が抜けてしまうわ!!」

「そうですね、今後の事を考えると抜いた方が良いでしょうね。いっそ抜いてしまいますか」

「よぉし、ミレーヌは足を抑えてろ。思いっきり引き抜くからよ」

「ちょ、止めなさいシヴァル!貴方の馬鹿力だと頭蓋骨丸ごと出ちゃうから!ミレーヌも足を押さえないで!痛い痛い!!助けて魔王様ぁぁぁ!!」

「ピィィ!!ピィィ!!」

「大丈夫だよウルちゃん。抜いた後はボクがキチンと炎で止血してあげるからねぇ」


何をやっているんだアイツらは……。このままでは、流石に死にかねないので、しょうがなく馬に抱えた荷物から、ある物を取り出して、絶賛引き抜かれかけているラキの顔面に被せてやる。


「コイツでも被ってろ。角ぐらいはそれで隠れるだろ」

「な、何よコレ!?急に視界が暗くなったわ!!」

「帽子だ。それとシヴァルとミレーヌ。悪ふざけはそこまでにしとけよな」

「「はーい」」


パッとシヴァルとミレーヌが手を離し、自由になったラキは顔に乗った帽子を剥がし、どんなものかと確認する。


それはツバが広くて底が深い黒色の三角帽子だ。頭の部分を黄色い蔦柄の刺繍がグルリと一周している以外は、至ってシンプルな作りであり、ラキが被れば額部分まで覆いかぶさるぐらいの大きさはあった。


「こ、コレを私に?」

「サッサと被れ。じゃないと置いていくぞ」

「え、えぇ。被るわ」


ラキがその三角帽子を深く被ると、額に生えていた角がスッポリと収まる。その姿は一見すれば、ちょっと大人ぶった生意気なメスガキになっていた。


「ピィィ!」

「ちょ、ウルちゃん!?帽子の中に!く、くすぐったいわ!!」

「ピッ!」


ウルがアリアの手元から飛び出すと、そのままラキの帽子の中へ入り込む。そして中でゴソゴソと蠢いた後、そこからひょっこりと顔を出した。


成る程、これならドラゴンを隠すことが出来るという事か。このチビドラゴン、意外にも頭が良いらしい。


「これで問題解決だな。よし、サッサと行くぞ」

「ちょ、ちょっと!!」


ラキが何か言いたげだったが、それよりも前に馬のケツを叩いて、サッサと歩き出す。


「リュー君も素直じゃないよねぇ」


馬の背中に乗っているアリアが、にやり顔で見下ろしてくるが、俺にはその意味がサッパリと分からなかった。


「何言ってんだ?ミレーヌが絞り取った荷物の中に、偶々紛れてたんだよ」

「ふぅん、じゃあそう言う事にしといてあげるよ」


握った秘密を楽しむような無邪気さで笑いかけるアリア。どんな勘違いをしているのかは知らないが、偶々見つけただけで、それが事実だ。


俺が帽子を作るとしたら、もっと活かしたデザインにするに決まっているからな。


「ま、待ちなさい!!」


そこで、走って追いついてきたラキが、馬の尾を掴んで引き留めた。


「何だ?また我儘でも言うつもりか?」

「ち、違うわよ……そ、その……えぇっと……」


息切れを起こしているのか、歯切れが悪く濁音で濁す。何か言いたげのようだが、イマイチ言葉には出来ないと言った様子だった。


「ピッ」


しかし、帽子からはみ出たウルの小さな手が、ラキの頭をポンッと叩くと、それを機に意を決したように顔を上げる。


こんな時でも素直になれないのは、メスガキであるラキらしい癖だ。


「あ、ありがとう……」


恥ずかしげに赤らめた顔で言われても、感謝の気持ちなんぞ伝わる筈ないだろうが。

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