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何があったのやら、何をするのやら

何が起きたのか。


それを知る為に、俺が辿り着いた時には、既にヘイデン村は火の海……という事にはなっておらず、意外にも村の様子は静寂であった。


だが、そこに住む村人達は違っていた。皆が宴を忘れて、天変地異でも起きたかのように慌てふためきながら逃げ惑っている。


「ぜぇ、ぜぇ……こ、この状況、一体どういうことなの?」

「分からねぇよ。俺が聞きたいくらいだ」


勝手に付いてきたメスガキが途切れ途切れの息を吐きながら、聞いて来るが、このちぐはぐな状況には、俺もそう返すしかなかった。すると、夜の上空に流星群が舞い降りるのが、視界の上端に映る。


それを見た村人達がより一層に慌てふためき、悲鳴を上げて右往左往する者や、絶望に呆然と立ち尽くすものまで居る。何かおかしいと、その流星の正体を探ろうと目を凝らしてみる。


それは流星などではなく、夜空を飛び回り10を超える鳥型の魔物達の残光と軌跡。それらが一直線に綺麗な尾を引きながら、こっちに降り落ちようとしていた。


「炎を飛ばして気分爽快一斉清掃!!火弾(ファイアーバレット):ガトリングバレッツ!!」


迎え撃つように、地上から無数の赤い流星群(火弾)が駆け上がって行った。魔物達と炎は互いに衝突すると、太陽にも劣らない閃光と共に爆散し、夜の闇に派手な火花を放ちながら消えていった。


「リュー君!こっちだよ!!」

「アリアか!何があったか教えろ!」


その光に照らされ、民家の屋根上で手を振るアリアの姿を見つけた。俺は直ぐに大声で問いかけると、ジェスチャーを交えながら説明し始めた。


「ボクも分からないんだけど、いきなり空から魔物が飛んで来たんだよ。村の皆がパニックになってたから、取り合えず、今みたいに追い払ってるんだ」


だとすれば、先ほどの爆発はアリアの火弾と魔物が衝突した余波だろう。アレほどの数を相手に一つ残らず的中させるとは、やはり魔法の才能は怪物級である。


それとは別に。


「なるほどな、そんでお前が血塗れになってる理由は?」

「ちょっと村のドブネズミ(色目使う女)を駆除してたんだよ」

「あっ……さいですか」


そんな会話をしている間に、今度は地上の方から衝撃音と閃光が過った。


「全く、こんな忙しい時に何処に言っていたんですか、貴方という人は」


閃光から現れたのは、槍を持ったミレーヌだ。そして、その先端には黒い毛並みをした狼型の魔物が突き刺さっている。


「ミレーヌちゃんだ!もう何処に行ってたの!!」

「値打ち品を探し回っていましたら、この犬畜生共が襲ってきたので処理していました」


そう言ってミレーヌは、槍先を振って狼型の魔物を無造作に投げ捨てる。それをメスガキが見るや否、短い悲鳴を上げて後ずさった。


「な、何この魔物!?馬鹿デカい上に、牙とか凄い尖ってるわよ!?こんなの見たことないわよ!!」

「『ヤミウチオオカミ』か。コイツはまた珍しい魔物を持って来やがって」

「お望みならば、あちらに山ほど転がっていますよ。余りにも大量に発生するもので、放置しておきました」


普通の狼よりも二回り以上も大きい胴体を踏みつけるミレーヌは、そう吐き捨てる。それを聞くと、抱きつけるぐらいに太い牙を睨みながら、俺は眉をひそめた。


『ヤミウチオオカミ』は、黒い毛並みで闇夜と同化し、近づいた獲物を消えるように素早い動きと鉄すら噛み砕く牙で仕留める厄介な魔物だ。しかし、自身の縄張りからは出る事は滅多にない。それが群れ単位の数だとすれば、なおさらだろう。


ミレーヌが、今は魔物が飛んでいない夜空を見上げる。


「先ほども上空で魔物が飛んでいたようですが、何が起きているのですか?」

「俺も分からねぇ。だが、ヤミウチオオカミなんて大物が出るくらいだ。ヤバい起きているのは確かだろうな」

「さっき飛んでいたのも『アサルトバード』だよね。アレって山とか高い所に居る魔物だったと思うんだけど、おかしいよね」


「そいつは、このデケェ鳥の事か?」


アリアが立っている屋根の家から、シヴァルが出て来た。その片手には、羽に炎が付いた隼のような魔物、アサルトバードの首根っこが握りしめられている。


「あっ、シヴァルったらそんな所に居たんだ。気づかなかったよ」

「こいつはどういうことだ大将。折角、村の良い女と楽しんでたのに、この鳥が落ちてきやがってよ。ったく、こんな面白そうな事になってんなら、俺も呼びやがれ」

「言われなくても、好きなだけ戦わせてやるよ。寧ろ全部片づけてもらっても良いぞ?」

「太っ腹じゃねぇか。なら遠慮なく暴れさせてもらうとするか。行くぜ!!」


有言実行、すぐにとばかりに、家の中からシヴァルが飛び出そうとした。


服も着ないで、全裸のまま。


「その前に服を着なさいよぉぉぉ!!」


だがその前に、咄嗟の判断でラキが扉ごと家の中へと押し込んだ。乙女に取って、シヴァルの聖剣は狂気だったらしい。俺のより良く切れそうだし。


「しっかし、ヤミウチオオカミにアサルトバードが来るとはな。どうなってんだ、これは」


ヤミウチオオカミが出現するだけでも異変だというのに、そこに山岳部にしか生息しないアサルトバードまで出張って来たとしたら、それはもう魔物大発生スタンピードと言う他ない。そうなったら、最早俺達四人で手に負える事態じゃない。


「あ、あの勇者様!!」


その時であった。逃げ惑っていた村人達の内、一人が俺に声を掛けて来た。


それは、この村の代表であるアバスである。


「どうか魔物達から、この村を守っていただけませんでしょうか!!お願い致します!!」


アバスが深々と頭を下げる。それはアバス一人の願いではなく、このヘイデン村総意としての願いだろう。その証拠にアバスの周りの村人達全員が、俺達び懇願するような眼で見ている。


さて、どうしようか。冴える頭で、一度思考を凝らす。


今度はドラゴン討伐を頼まれた時のように安請け合いは俺達としては出来ない。


既にウルザードとの戦闘での消耗は回復しきっていない上、相手となる魔物の数も不明のまま。その状態で戦うなど、以ての外である。


だからと言って、断ろうとも脱出する為に魔物達を相手する事は変わりない。それどころか、狂乱した村人達が邪魔をするかも分からない。そうなれば、もっと面倒な事態になるだろう。


ならば、俺は良く回る舌を湿らせると、この場に居る全員に聞こえる声を張り上げた。


「分かった。引き受けるとしよう」

「本当ですか!!でしたら」

「ただし、一つだけ条件がある」


歓喜の声を上げようとしていたアバス含める村人達に、条件という楔で釘を打つ。


「じょ、条件とは何でしょうか?私たちに出来る事であれば何なりと」

「難しいことを頼むつもりはない。全員、この大広場へ一箇所に集まっていて欲しい。魔物討伐の際に、被害が及ばぬようにな」

「そ。それだけで宜しいのでしょうか!?」

「その通りだ。よろしく頼むぞ」

「承知いたしました!!聞いたか皆の者!今すぐ村中の人間を此処に集めるのだ!!」

「は、はい!!」


早速とばかりに、アバスが周りに号令を飛ばすと、大広場を忙しなく逃げ惑っていた村人達は、理性を取り戻したかのように、すぐさま動き始めた。


それを確認した俺は、アバス達から背を向けて、ミレーヌが現れた方向へと歩き出す。


「此処は任せたぞ、アバスよ。俺達は魔物の討伐に向かう」

「分かりました!行ってらっしゃいませ!!」


背中にアバスや村人達の声援を一身に受けながらも、俺は仲間と、ついでにラキに向けて同じく号令を飛ばす。


「お前ら、付いて来い。もう一仕事するぞ」

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

「どうだシヴァル。どれだけの魔物が見える」

「こいつぁ、ヤベェぞ大将。わんさか魔物がたむろしてやがるぞ」


ヘイデン村の最端にある民家の屋根の上、そこの上に立ってシヴァルに偵察させてみれば、そんな聞きたくない答えが返って来た。


「へぇ、貴方が『わんさか』なんて表現するとは、珍しいですね。魔物大発生スタンピード発生に遭遇した時以来じゃないですか?」

「アレよりかは少ねぇが、それでもえげつねぇ数だな。久々に背筋がゾクゾクするぜ」


ミレーヌにそう言い返し、傍からでも分かるぐらいにシヴァルが武者震いに身体が振動させる。ゾクゾクするのは勝手だが、この現状を理解しているのか。


俺もシヴァルに倣って、村を囲う柵の外、そこに広がる草原に目を凝らしてみる。


シヴァルの言う通り、闇夜に紛れて正確には分からないが、確かに魔物らしき影がだだ広い草原全体を覆い尽くさんばかりにそこかしこで点在していた。


そうだな……隠れている奴も含めると、ザっとメスガキが連れて来た魔物の二倍ぐらいだろうか。


「アサルトバードとヤミウチオオカミも居るみたいだね。ボクとミレーヌちゃんが全部やったと思ったのに、まだあんなに沢山居るよ」

「それだけでは有りません。チラホラとですが、要排除リスト(レッドアラート)入りの魔物が幾つか見当たります」


アリアとミレーヌも、俺と同じように魔物を確認できたらしい。その話を聞く限りでは、アサルトバードとヤミウチオオカミの大群に、要排除リスト(レッドアラート)入りの魔物が多数と、聞いただけでも頭が痛くなるような内容だ。


「ね、ねぇ?貴方達、本当にあの数を倒せるの?まさか倒せないとか言わないわよね」


メスガキが不安げに震えた声で聞いてきた。その顔色は血が抜けたように真っ青になっており、明らかに魔物の軍勢相手にビビっているようだ。


それに対して、俺は自信をタップリと込めて、こう言ってやる。


「無理に決まってるだろ。サッサと逃げる準備をするぞ」

「えぇぇぇぇぇ!?た、戦わないの!さっき任せろとか言ってたじゃない!!」

「常識的に考えて、あの数は無理に決まってんだろ」


たった四人で、あの数を相手にするなど、例え万全の状態であっても正気の沙汰じゃない。最初から、倒せる規模じゃなかったら逃げるつもりだった。その為に、俺達の動きが分からないよう、村人達を大広場に寄せ集めておいたのだ。


「あ、貴方達は勇者でしょ!!だったらあの数を倒して見せなさいよ!!」


それでもメスガキが食い下がろうと、俺の肩を揺らしてくる。そうか、コイツもあの村人達と同じ、勇者という言葉に夢見ているのか。


「お前、俺達が死なないとでも思ってるのか」

「えっ……それは……」

「俺達は他の奴より強いが最強じゃない。刺されたら死ぬし、動けば疲れる。それに魔力だって底なしにあるわけじゃない。お前はウルザードと戦ってる時、何見てたんだ?」


俺の言葉を聞いて、メスガキの顔色は更に青く変色していく。ようやく、幻想から解けたという所だろうか。


物語の主人公だって言うなら、こんな絶体絶命の状況を平然と乗り越えるかも知れない。その方が、話の展開としては盛り上がるだろうし、何より面白い。


だがこの世は物語のような都合のいい世界じゃない。そうそう逆転劇も快進撃も起こる筈も無い。現実を見つめなければ待っているのは残酷な末路だ。


メスガキの手を払い除けると、改めて仲間達に向けて指示を出す。


と言っても、アイツらだって分かっている。これはもう撤退するしかないってことくらい、理解していないようじゃ、こっちから置いていくぐらいだ。


だから、今から俺が言うのは、ただの再確認になるだろう。


「逃げるぞ、こんな所で死んでたまるかよ」

「それは困りましたね、少し待っていただけないでしょうか?」


突如として耳元を掠めた声が、吐いた言葉に水を差した。そして次の瞬間には、俺の首は見知らぬ誰かの腕に巻かれていた。


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